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作業員達の楽園と憂鬱。

 

「な、何なんだよっ!?あの…ガタイのやたら良い野郎はっ!?」

セントエルモオルガンタワーの復興工事を執り行ってる土方現場の簡易に作られた休憩所、件事務所内で、
作業員達は何やら憤っているのか、やたらに騒がしかった。

最近の彼らの楽しみと言えば、イリュリア城の一般人には入る事が許されていない階の、
大きなエントランスから毎日のように此方を見つめてくる、とある少女の姿を拝む事だった。


「ああ………エルフェルトちゃん…、あんな恐ろしい目付きでガン付けしてくる野郎と一緒に居るなんて…俺は心配でならねぇよ。」

エルフェルト、そう呼ばれた少女。最近になって彼らも知ったのだが、

彼女は、かの有名な戦犯“ラムレザル=ヴァレンタイン”の妹なのだそうだ。
イリュリア城の庭で、二人仲良くお茶をしてる姿を、此処の工事現場から作業員の何人かが何度か見かけている。

二人は姉妹と言われる割には、似てるとかではないが、二人とも並みの人間では太刀打ち出来ない程に顔立ちが愛らしく、
それだけではなく、二人ともやたらスタイルが良い。
作業員の何人かは、ギアの脅威に晒された辺境の地の出身者もちらほら居る。初めは何人かは恐れ慄いていたが、
彼らの大多数は屈強な男達。それはそれは美人に弱かった。しかも美人だけではなく、

スタイルも滅法良いとなれば、余計に目が行ってしまうもの。

特にエルフェルトは、毎日自分が城の窓から見つめている作業員達に何やら親近感を感じているらしく、
度々此方に脚を運び、差し入れや、通りかかる度に此方に笑顔で手を振ってくれる。

巷のニュースでは、第一連王であるカイ=キスク様が、このヴァレンタイン姉妹を、捕獲、拘束したと報道されていたが、
まさか今や国賓として迎え入れられてるとは大体の国民は思いもよらないだろう。
だが、彼女達の生活を一部であるが近くで見知った今なら判る。
こんな幼気な少女達を、イリュリア城で穏やかに過ごす笑顔が眩しい少女達を、

捕獲、拘束し続けるなんて俺達にはとても出来ないっ!

作業員達が主に敬愛しているのは第二連王レオ=ホワイト=ファング様なのだが、
彼等の中でそうでもなかった第一連王カイ=キスク様に対する忠誠度が格段にアップした。

そう…これは最早、彼女達が世界に恐怖をばら撒いたヴァレンタインとか…ギアとか…人間じゃないからとか、

彼らには全く関係無くなっていた。

まさに暑苦しい工事現場に舞い降りた女神達…

特に彼らにとってのエルフェルトは、まさしく天使だった。




セントエルモオルガンタワーの現場が終了すれば、エルフェルトと会えなくなる。
だからといって、彼女に仕事をサボる姿など見せれる訳もない。

このセントエルモオルガンタワー以外にも、このイリュリア城は、前のジャスティスとの戦いにて、

結構なダメージを受けているエリアがちらほらとある。
そこに目をつけた彼らは、自分達を雇ってくださった第二連王であるレオ=ホワイト=ファング様に、
イリュリア城の修繕工事も是非とも我々にと強く訴え、その熱意によって、

イリュリア城での仕事の契約を何とかこじつけたばかりであった。




「あの野郎は一体何なんだ…。あの場所は王族関係者のみ立ち入りが許可されている場所なんだろ?」

「アイツの、あの出で立ち、俺は何処かで見かけた事あんだよな…。
こんな復興作業の仕事がそんなに無かった頃、

金が欲しくて仕方なくギア殲滅の傭兵として戦場に出てた時に何度かあの野郎を見かけた事あるんだが…。
俺みたいな臨時の雇われの傭兵なんかにゃ太刀打ち出来ねぇくらいの凄え殺気でさ、どんどんギアブッ殺して行くんだよ。
おエラ方が、アイツは軍神だっつってめっちゃ崇めてたのだけ覚えてるわ…。」

「そ、そんなおっそろしい奴が、なんで、イリュリア城の王族関係者と仲が良いんだよ!?」

「俺、一ヶ月程前くらいか…?昼の休憩時間に、そこの庭の広場で、第一連王のカイ様と、あの野郎が談笑してる姿見かけたぜ…?
その後急に衛兵達がワラワラ城から出てきたと思ったらさ、急に通路規制しだして、
なんだなんだ?ってずっと見てたらさ、あのめっぽうお強いって噂のカイ様とあのおっかない野郎が親善試合しだして、
互いに一歩も譲らねぇ感じなんだよ!強ち、“軍神”っうのは嘘じゃねぇと俺は思う…。」

「俺もその試合知ってるわ、ここに働き始めてから衛兵でダチになった奴がいるんだけどよ、

そいつからの話だと、割とよくある光景だって言ってたぜ?」

「即ち、あのおっかねぇ野郎は、カイ様のご友人って事になるのか…?」

「寧ろ俺は、その野郎と…カイ様とは違うんだが、

カイ様にお顔立ちがよく似てる青年と仲良さげに談笑してる姿ならよく見かけたなあ。」

「それ、まさしくカイ様の息子だろ。俺衛兵のダチから聞いた事あるわ。
どういった事情があるかまでは聞けなかったんだが、

どうやらあの野郎がカイ様の息子を預かって育ててたらしいって事だけは知ってるわ。」

「あのガタイのいい金髪碧眼眼帯イケメンかっ!?

アイツはエルフェルトちゃんとよく楽しげに会話してやがったから、俺は要注意人物として監視してたんだよ!」

「そうなのかよっ!?…俺は寧ろラムレザルちゃんとよく一緒に居るのは見かけてたんだが、
あのイケメン!!ラムレザルちゃんでは飽き足らずエルフェルトちゃんまでも…!!!」

「いやいや、俺も何度かその三人一緒にいる所見かけたが、めっちゃ仲の良い友達って感じに写ったがなあ。
…寧ろ、さっきのガン付け野郎の方が、よっぽど怪しいぜ…。
俺、さっき野郎にガン付けされてお前達と一緒に逃げてきたんだが、工具忘れて来ちまって、こっそり取りに戻ったんだわ。
そしたらあの野郎っ、エルフェルトちゃんと向かい合って手を握ってやがったんだよ!
また睨まれたらたまったもんじゃねぇから、さっさと工具持って逃げてきたが…。
俺は…今、物凄くエルフェルトちゃんの事が心配だ!!」

「マジかよっ!!くっそう!!エルフェルトちゃんがぁああああ!エルフェルトちゃんがぁあの野郎にぃいいい!!!!」

そんな嘆き悲しむ男達の叫び声が、日が沈み、陰りを見せ始めたイリュリア城の片隅で響き渡っていた。





 

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