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​マグダラのマリア

エルフェルト=ヴァレンタインが、慈悲無き啓示に浚われ、1ヶ月程経とうとしていた。
連日、イリュリア連王国総出にかけて、エルフェルトの生態反応を虱潰し(しらみつぶし)に捜索するも、手掛かりが掴めない一行。
何もかもを諦めかけようとした時、突如として、藁をも掴む思いで使用した“生態反応検索用システム”が作動し、

エルフェルトの居場所を見事に指し示す。

その生態反応検索用システムは、かつての“聖王“であった『慈悲無き啓示』が残していった物であった…。






◇◇◇◇◇






『カイ様!エルフェルト=ヴァレンタインらしき生体反応を発見しました!』

『それは本当ですか!?』

『はい、場所は旧A合衆国、T州D市。…極辺境の街ですね…
この場所に一体何が…』

『憶説は後にしましょう。その辺りだと…そうですね、ソル=バッドガイに連絡を。緊急性が高い事案だとも伝えて下さい』

『かしこまりました』







◇◇◇◇◇







「なあ、オヤジー?こんな場所に、本当にエルが居るのかよ?
なんか僻地のど田舎だし、エルが好き好んで来る場所では無さそうっつーか…」

「…文句は、テメェの“父親”に言いやがれ。
連王国きっての“対ギア生体反応検索システム”ってやらの信憑性を信じ切ってる奴をな」

「それは大丈夫だ。心配はいらない。
生物の遺伝子情報によって、一個体を判別出来るシステムだ。
“母さん”が何かしらの必要性が有るから造った。
何の意図があってイリュリア城に“残して”いったのか、その理由は解らないけれど、システムそのものは信頼して貰っていい」

「…ちッ…気にいらねぇ…」

「…ま、文句言っても始まらねーしな!
オヤジ!ラム!早くエルに会いに行こうぜ!!」






◇◇◇◇◇






「エルフェルト?さぁ…知らないな…
賞金稼ぎの兄さん達、悪いね。
こんだけウチの商品買ってくれたんだが、兄さん達に渡せる情報は何も無さそうだ」

「いや、おっちゃん!サンキュ!
こんだけ食いモン買えただけ、本当助かるからさ!」

「なあ、その探し人の肖像画か何かは無いのか?
何だったら、そこのバーにでも探し人として肖像画貼れるように、オーナーに頼む事は出来るが…」

「…ごめんなさい。今私達が探してる人は、大々的に公(おおやけ)には出来ない…
でも、あなたに見せる事はできる。『彼女』の顔、見た事はない?」

「……こりゃあ……!町外れのストリップバーで働いてる『マリア』じゃねえか…!?」

「「マリア?」」

「嬢ちゃん。奥に居る厳つい兄さんを呼んで来てくれ。
純粋そうな兄ちゃんや無垢そうな嬢ちゃんが知るにゃ、まだまだちょっと早い場所でな…」





◇◇◇◇◇






情報の内容が内容だ。
店の親父に向かいのバーに行かないか?と誘われ、
年季が経過しまくったカウンターに腰かける。
視線が合ったマスターに、自身の飲む酒と親父の飲む酒を頼めば、
悪いね。と俺の隣に向かいの店の親父が腰掛けた。

マスターが酒を取りに奥に消えたのを見計らって、
俺は親父に「先程の話の続きを聞かせろ」と促す。

「まあ、待ってくれ…そうせかすなって。一服させろ」

親父はいそいそと懐から煙草を出し咥え慣れた手付きで火を着ける。呆れて溜息付いた俺に一本勧めてきたが断った。

「なんだよ、銘柄のこだわりが強いのか?慣れりゃ何でも旨いんだがなあ…」

「…何悠長にしてやがる、聞かれたら不味い内容なんだろうが」

「それはそうなんだがな…仕事後の一服は堪らんもんだろう。
それにしてもだ…兄さんの存在感、こんな寂れたバーが異様に様になるっつうか。

あの兄ちゃんや嬢ちゃんが居ない時の威圧感すげぇや。…おっかねぇのなんの」

…何やら全身隈無く見渡され、どうでもいい軽口を言われたが、そんな戯れ言は無視し無言で睨む、テメェいい加減にしやがれと。
親父は慌てて「わかったわかった!からかって悪かった!」と肩をすくめ、やっと本題を語り始める。

「俺はエルフェルトっう女は知らないが、この肖像画と瓜二つの顔してる女ならよく知ってる。
町外れの寂れたストリップバーで、此処1ヶ月程前からダンサーとしてステージで踊ってる筈だ。
“マリア”はこの肖像画から判る通り、ちょいとばかり幼い顔立ちだが容姿は悪くない。

だがあの娘の一番の売りはその抜群のスタイルだ。
兄さんなら判ると思うが、ラスベガス辺りのダンサーはけして客に触れさせやしねえ。

だがこの辺りのストリップバーなんぞ寂れに寂れちまってな。金と交渉次第で、…まあ、“そうゆう事”も出来ちまうって訳さ。
“マリア”は客とは一度も“褥(しとね)で懇ろ(ねんごろ)にはなってねぇ”と専らの噂で、

誰が一番最初に墜とすかっつう野郎共のゲスな争いでチップの吊り上げが激しいらしい。
ま…懇ろは兎も角、金と交渉次第で個人的に話くらいは出来るとは思うが、まさか兄さん達みたいな賞金稼ぎが来るとはな…
何か訳有りなんだろうが、悪いようにはしないでやってくれ。
よくウチの店にも買い物に来てくれる。けして悪い娘じゃないんだ…頼むよ」


 

◇◇◇◇◇





慈悲無き啓示が創ったとされる生体反応検索機なんぞ、ハナから信じる訳がねぇ。

似た女がこんな辺境の寂れたバーで、ストリッパーとして踊ってるっうのも、あくまで姿形が似てるというだけのオチでしかない。
法力通信で、眉唾だとカイに報告しようが、奴からは『一度確認を頼む』の一言だけ言い渡される。
偽物だったら謝礼金を上乗せだと言付けし、夜が更けた頃、俺は独り、例のストリップバーへ脚を運ぶ。





受付に、“マリア”は居るかと聞けば、
ステージを指差し、あの子だよ。と促される。

短く肩以上に切り揃えてある髪は、サラサラと白銀に輝いている。

バニーガールを模した衣装に身を包み、ポールに脚を絡め艶めかしくも、アクロバティックなダンスを踊る女に、
俺は驚きで目が離せなくなる。

髪の色こそ違うが…
ありゃあ…どう見ようがエルフェルトじゃねぇか!

何で…こんな場所に居やがる!?

疑問を検証する為に、奴が踊り狂っているステージに近付けば、
その“マリア”と視線が合った。

少し驚いた表情をしたかと思えば、次の瞬間ニコリと微笑えみ、ポールをクルッと一回転した後、

自ら羽織っていた薄手の衣装を脱ぎ捨てる。
局部のみ隠せるほぼ紐と言っても差し支えが無い霰もない下着姿になり、此方に視線を向け、少し照れたような表情を浮かべた。
かと思えば、急に集中したのか鋭い目つきになり体の柔らかさを生かした高さのあるポールダンスのきわどいポージングで、

野郎共の視線を釘付けにしている。

熱狂的な野郎共が“マリア”が踊るステージにW$を投げ入れ、それらは紙吹雪のようにステージ上に舞っている。
中には札数枚をちらつかせ、『マリアちゃん!今晩俺とどう!?』などの雄叫びを上げる奴等数名。

その光景に俺は思わず頭痛がし、
先程金融機関から下ろしたての帯テープが付いたままのW$の札束をステージに投げ捨て、踵を返し、店を後にしようと歩き出す。

店のエントランスにて、受付から『お客さん!ちょっと待ってくれ!』と声をかけられ振り向けば、
先程ステージに投げ捨てた札束を両手で大事そうに持ち、俺と視線を合わせ頬を赤らめニコリと微笑む“マリア”の姿がそこにはあった。






◇◇◇◇◇





こっちです。と俺の手を掴み勝手に歩き出す。

ほぼ裸と言っても過言ではない下着姿の上から、薄桃色のシルク布を纏った女の後ろ姿は、

まさしく“エルフェルト”の後ろ姿でしか無い。
奴の特徴である、触角…いや前髪の癖は相変わらずなのか、歩く度にそれはフワフワと揺れた。
従業員しか入れないであろう裏道を通され、たどり着いた扉を開ければ、

少し豪華な椅子とテーブルが置かれているシンプルな部屋に通される。

「此方におかけください」と呟いた声まで、奴と全く同じ声色で、
俺は怒りを抑える事無く奴の肩を掴み、此方に無理矢理振り向かせた。

「“エルフェルト!”テメェは何でこんな場所に居やがる!?」

思わず畳み掛ける。

「……え!?…あ、あの……自己紹介遅れましたが、私は、“マリア=マグダレナ”って申します。
多分…人違いなされてませんか……?
でも、だからだったんですね。
こんなにいきなりの札束を投げてくださったのは…。
これ、お返ししようと思って慌てて貴方を追い掛けたんです。
初見のお客様にこんなに頂く訳にはいきませんし…」

「…テメェはいつまで、その“猿芝居”を続ける気だ?
出逢い頭、“信じてくれ”と俺に宣ったその口は何処に行きやがったんだ!?」

「本当に嘘なんかじゃありません!!
……でも…今の私…、過去の記憶…殆ど無いんです。
ですから、貴方の言葉も…強ち嘘とは思えません…」

「!……そいつは、何時からだ」

「ごめんなさい…記憶を無くした時の前後の記憶も曖昧過ぎて詳しくは分からないんです。
でも踊ってる時、“貴方”が視界に入って、…心の奥底から湧き上がる何かを感じて…
本当は、直ぐ様踊りを止めて、貴方の元に掛け寄りたかった…。
でも今の私は、“此処で踊り続けなければならない”っていう
使命があるんです。
皆には、誰にそんな事言われたの?って聞かれますが…その理由は私にも判らなくて…。
でも良かった!貴方が破格のチップを投げ入れて下さったから、こうして声をかける事が出来たんです!
はい!これ、お返しします!
今度は札束では無くて、W$数枚でも十分なので、また是非
私のステージ見に来て下さいね!」

先程自身が投げ捨てた札束を手の上に置かれ、ギュッと両手で包みこむように握らされたが、

俺はその札束を奴の露出激しい胸元の谷間に詰め込むように挟め、手を離す。

「…え…、あの…!?」

「ソイツはテメェにやる。元々そのつもりで此処に来た。」

「ダメ!これだと明らかに貰い過ぎなんです!
この金額分、貴方にどうサービスを還元していいのか判らなくなるじゃないですかっ!!」

「…明日、大通りの店の向かいのバーに来い。テメェに会わせたい奴等が居る。その金が手間賃だ」

「え?…明日はオフなので大丈夫ですが…それでも、この金額は余りにも破格過ぎますよ…。

明日ですね…?わかりました。過剰の金額分はまた明日お返しします。
あ…あの、今更ですが、お名前伺っても…?」

「……ソル=バッドガイ」

「ソル=バッドガイ…。ソル…さん…、…………。
…あ!!いえいえ何でもないんです!!
それではソルさん、お休みなさい!また明日、宜しくお願いしますね!」







◇◇◇◇◇







「どうゆう事だよ!?エルだけどエルじゃねぇって!?」

俺からの説明に頭を抱えて、わかんねぇ!?と叫びだすシンと、

「“母さん”の仕業だ…何が目的なのかはわからないけど、“母さん”ならそんな事は容易く出来る」
と、真顔で納得しているラムレザルの姿。

「納得出来るか出来ねぇかは己で判断しろ。もうすぐ此処に来やがる筈だ」

前に情報をくれた親父に誘われて来たバーは、昼間は軽い軽食が取れるレストランカフェになり、

シンとラムレザルは“エルフェルト”を待つ間、色々食事類を頼みやがり、いつもの如く貪り喰っていた。
昼間は酒類は出さねぇと言われ、俺はしかたなく珈琲を頼み、奴の到着を待つ。

「あ…!ソルさん!お待たせしました!!
…此方のお二人が、私に会わせたいって仰っていた方達ですか?」

目の前に現れた“エルフェルト”…いや、“マリア”の姿に、
シンもラムレザルも一瞬固まり、

「エル!!!」「どう見てもエルでしかねぇ!!!」
と二人して叫びやがる。

「あ、あの!?」

驚きで固まる“マリア”に、
「とりあえずコイツらは気にするな。此処に座れ」と促す。

「は、はい!お邪魔します。」

奴は深々とお礼を言い、おずおずと席に着いた。








「…貴女(あなた)は、私達の“母さん”に記憶を改ざんされ、“母さん”からの何かしらの命令を受けて、

“母さん”によって、この街に来させられたんだ」

ラムレザルからの説明に、マリアは戸惑いで口を押さえている。

「め、命令ですか?…でも、私の微かな記憶では、“お父さん”も“お母さん”も流行り病で亡くなってますし、

天涯孤独になった私は行く宛が無くて、その後色んな街を転々としましたが、その際に辿り着いたこの街の人達はとても良くしてくれて…」

「そう、“母さん”なら、人間達の記憶を瞬時に書き直す事なんて容易い事だ。貴女の記憶も、此処の人間達の記憶も、

“母さん”の都合の為に書き直されてる可能性が高い…」

「そ、そんな…!!そんな…事…」

「ラム、もういいよ。…ほら、戸惑ってるだろ?
お前の名前…“マリア”って言うのか?」

「は、はい」

「じゃあ、“マリー”だな!
マリーがそう感じてるもんが、マリーにとってはとても大事なモンかもしれねぇじゃんか。
俺達にそれを否定する権利?って奴、無いと思うぜ?」

「シン、テメェは相変わらず話の腰を…」

「いえ、ソルさん…大丈夫です。シンさん…ありがとうございます」

「そんなかしこまんなくっていいからさ!
俺の事はシンって呼んでくれよ!そんでもって、こっちはラムな!」

「は、はい!
シンが、私の曖昧な記憶を大事なモノと言ってくれて、とても嬉しかった…。
私の存在は、確かに偽物なのかもしれません。
私自身も、ハッキリしている記憶と曖昧な記憶がバラバラで、
まるで自分は何者なのかが判らなくて、不安になる日もありましたし…。
でも、ソルさんの存在や、
シンやラムレザルさんの姿を見て、何か…わかりませんが、心の奥底が暖かくなるような…懐かしいような…そんな気がして…!」

「マリーは”マリー”であって、今は“エル”の記憶が無くなってるかもしれねえけどさ、

俺達全員『仲間』だろ?俺はそう思ってる。ラムもだろ?」

「うん…仲間だ。そして、“貴女”は私にとって大切なたった一人の妹だ…。
記憶が消えてしまっても、名前が変わっていてもそれは変わらない。
だから、今こうして会えて、無事でいてくれて、とても嬉しい」

「ラムレザルさん…」

「ラムでいい。“マリー”」

「はい……っ、」

「……どうしたの…?…何処か痛い?」

「ち、違うの…!何かわからないけど、嬉しくて…」

目の前で感極まり泣き出す女に、ラムレザルは慌ててハンカチを差し出し、シンは「それは嬉し涙って奴だろ」って笑う。

俺は少し溜息を付き、席を立ち上がりエントランスの方に歩き出す。
ほっとこうが、後は奴らで勝手に騒ぎ出すだろうと。





◇◇◇◇◇





「マリーは、これからどうするんだ?」

「今日は1日オフですし、このバーの向かいのお店で出来れば一週間分の食事の買い足しにでも行こうかと」

「一週間分!?それって女の子一人じゃ重くね!?」

「大丈夫です!こう見えて結構力持ちなんですよ!
それに、私は一人暮らしですし、そんなに沢山買い込む訳では無いですから」

「なあ!それ手伝わせてくれよ!目の前で困ってる人とか、子どもや女の子には優しくってのが、俺の母さんからの教えなんだ。
ラムも行くだろ?」

「当たり前だ。私はマリーの姉。妹を助けるのに理由はいらない」

「でも…そんな大袈裟な事では…」

そう呟き、“マリア”は心配そうに俺の方に向き視線が合う。

「オヤジも全く気にしなくていいと思うぜ?
俺もラムも行方不明の“エル”をずっと探し続けてたんだけどさ、
一番躍起になって探していたのは、オヤジだからさ」

「えっ!?ソルさんが、記憶を失う前の“私”の事を躍起になって探してくれていた…」

「ああ!“エル”が消えてから、しばらく誰とも話すのも嫌って感じのオーラって奴?まとっててさ、

顔面が常にデンジャラスでこーんな眉間に皺寄せて…」

「シン、ちょっと気になってしまったから聞いてもいい?
“オヤジ”って…ソルさんの事…だよね?
ソルさんはシンの実のお父さんって事なの?そしたら、シンとラムと私は兄弟って事になるのかな?って…」

「あー!そうか。“エル”にも前に同じ事聞かれたから、説明するのスッカリ忘れてたぜ…!
“オヤジ”は、オレの母さんのオヤジ、オレにとっては爺ちゃんって言った方が正しいみたいなんだ。
でも、カイ…いや、…父さんも母さんも色々あって、オレを守る為にさ、一時期、オレを“オヤジ”の所に預けなきゃならなくなった。
それからオレはずっと“オヤジ”に育てられたんだ。
オヤジを”オヤジ”って呼んじまうのはさ、二人で過ごす時間が毎日エキサイティング過ぎて本当の親子?みたいな

ディープな絆が産まれちまったからだと思うぜ!!」

「何がディープな絆だ。勝手にテメェの主観含めたモンをベラベラ喋ってんじゃねえよ」

「ソルさん…!」

「“マリア”、テメェとラムレザルは正真正銘姉妹だが、シンとお前らの血は繋がってねえ。
いや…正しくは微かに繋がってるかもだが、そんなもん律儀に説明してみろ、日が暮れちまうだろうが」

「あの…そしたら、ソルさんと“エルフェルト”さんってどのようなご関係だったんですか?
シンの話からだと、ソルさんには奥様が居られる筈ですし…
どうしてそんなに、“エルフェルト”さんの事を必死に探しているのかなって…」

「え?そんなもん、“エル”の事が好きだからに決まってるだろ?少なくともオレは、オヤジが“エル”に投げかけた言葉で、

そう感じたっつうか…!」

「シン!?テメェは黙っ…!?」

「そっか、マリーは知らなかったんだな。オヤジはもう100歳以上生きてるんだ。俺の母さんの母さん…婆ちゃんは、

かなり大昔?の頃の恋人なんだろ?
あと、これはラムが言ってたけど、“エル”はあえて“似てるように創られた”らしいってさ」

「似てるように?」

「ああ、俺の“婆ちゃん”に。
しかも何だっけ?婆ちゃんの“若い頃の姿”にあえて似せて?盛る所は盛った???的な事、ラムが言ってたぜ?
なあ、そうだよな!ラム!!って…あれ?ラムとオヤジは?」

「ソルさんは、さっきラムの肩をガッと掴んでどっかその辺の路地裏に行っちゃったよ?」

「…あっ!!ヤベェ!!!これ、ラムにオヤジには内緒だって言われてたヤツだ!?
ラムごめん!!!オヤジ!!!ラムは何も悪くねぇ!!!
オヤジィイイイ!!!!」

「あ、ちょっ、シン!?」








「シンに言うんじゃ無かった…」

「ラムレザル、これでテメェも身に染みただろうが。シンに“察しろ”も“黙れ”も“言うな”も通用しねぇとな」

「…いやぁ…照れるぜ…!」

「誉めてない」
「誉めてねぇ」

「ふ、ふふ…仲がいいんですね…!」

そうクスクスと笑い出す目の前の女に、俺は先程のシンが放った爆弾発言を思い出し、思わず顔を背けてしまう。

「皆さんに色々質問させて貰って、元の私がどんな存在だったのか、なんとなくですが解った気がします。
…優しかったと記憶していた”お母さん”や”お父さん”の顔がはっきりと思い出せなかった理由も、

告白してくれた男性とお付き合いしようとすると急に相手が私から居なくなったりする理由も…

シンやラムをとても懐かしく感じる理由や、
ソルさん、あなたを一目見た瞬間、心の奥底が揺らいで…あなたから視界を外せなくなった事も…。

私…生まれて初めて『一目惚れ』したかもって思ったんですよ…!

でも、その気持ちは、きっと“私”の気持ちではなくて、
“エルフェルト”さんの気持ち。
そしてソルさん、あなたの事や私自身の生まれの真実を知って、
私…こう思ったんです。

『この恋は諦めよう』って。

ソルさん、あなたがどうしてそこまでの長い永(とき)を生きてこなければならなかったのか、

どうして私の姿が、シンのお婆さん…あなたの最愛の人の姿と似たものとして“創られた”のか…
私にはわかりませんが、きっと理由はある筈です。

それに!恋に夢見る乙女は皆こう想います!
かつての想い人がいらっしゃるなら、その方だけを永遠に想い続けて下さい!例え姿形が似てるからって、

浮気は駄目ですよ!わかりましたか?
…なーんて、偉そうな事言ってごめんなさい!

って、…なんか私っ!…物凄い変な話をしてしまった気がっ…!!
かっ、買い物っ!!そうよ!買い物に行かなきゃ…!!!」

「…変な話じゃねーよ!寧ろ、マリーはスゲェってなった!」

「し、シン!それはもういいのっ!!掘り返さなくてもいいんだよっ!!」

「なんでだよ!?だって、それをあえてオレら全員居る場で言ったのは、全部オヤジの為だろ?
なんつうか…それって…愛ってヤツじゃんか!」

「愛?」

「ラムはさ、“エル”の事愛してるだろ?」

「愛の定義が色々有りすぎてわからないけど、多分…そうだと思う」

「だから、“マリー”が“エル”でも、その気持ちは変わらないだろ?」

「うん。そうだね」

「マリーも一緒なんだよ。マリーは“エル”を思うオヤジの気持ちやオヤジを想う“エル”の気持ち、

オヤジをかつて想っていた“婆ちゃん”の気持ちすら想って本人の前で『オヤジの事諦めます』って言ったんだ。

そんな事なかなか言えるもんじゃねぇよ」

「自分の気持ちじゃなく、相手の為…?」

「でもそこがさ!オレには、より“マリー”は“エル”なんだな。って感じたっうか…!」

「そうだね…。“エル”は…見てて此方が苦しくなる程、誰かの為に、皆の為に動いていた…
今度は私が“エル”を助けたい…!でも…
“マリー”、あなたは本当にそれでいい?それで“あなた”は幸せなの?」

「そうだ、ラムレザル…、目の前のコイツにもっと言ってやれ。
“俺の前で、諦めのいい言葉を使うんじゃねえ!”ってな。
自己犠牲が、誰かの為になるだと…!?
失ったら何もかもが仕舞いなんだよ!後悔の念程しつこいかつ面倒な感情もねぇ!
だが、テメェが紛れもなく、あの“エルフェルト”なんだっつう事はまざまざと痛感した。
“アイツと同じ言葉ばかり使いやがって”ってか?
ったく。デジャヴにも程が有りすぎて吐き気がするぜ…」

「…だから、オヤジはまたッ!?」

「シン、テメェの“それ”もいい加減飽きたんだがな」

「ソルさん、あの…私…!」

「俺達の目的は、“エルフェルト”であるお前の身柄の確保、それだけだ。
テメェが何をどう思おうが関係無え。それに、お前が俺を気になる理由は簡単だ。

…テメェの“母親”が俺の行動の監視をテメェの行動プログラムに組み込んでやがるみたいでな。

お前はその行動プログラムに気持ちがひきずられてるだけだろ」

「そんな…事はっ!?…でも…一体何の為に…」

「さぁな。奴の狙いが何なのかはまではわからねぇが、テメェが奴の管轄下なのは明解って所だ…。…気に食わねえ。
本来なら、さっさとお前を無理矢理拉致してでもイリュリアに連れて行きたい所だが、そんなもんしてみろ。

“ガキ共”がキレて暴れだし余計面倒臭ぇ事になりかねねぇ…!
いいか。テメェ自らあんな“馬鹿げた仕事”なんぞさっさと見切り、俺達に付いていくと言うまでこれが続くと思え。
覚悟しとくんだな。
…オラ、さっさと行くぞ。日が暮れちまってもいいのか?」

「よ、よくないですっ!!」

「…そうだ、テメェはそうやって素直でいやがれ。余計な事は考えずにな…」

通り過ぎる瞬間、奴の頭を自身の掌で撫でさする。

髪型が!?と叫ぶ女の声と
オヤジこそ素直になれよな!という余計な野郎の声。
どっちもどっち…?と疑問を呟く少女の声。

それらの声を無視し、俺はさっさと昨日の親父が居るだろう店に一足先に向かうのだった。


 

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