DORAGON
DOES
HISUTMOST
TO HUNT
RABBITS
D
oragon
rabbits
&
R
写身の聖女は娼婦を纏い踊り続ける
『つまり、記憶を無くしたエルフェルトさんが、自らを“マリア=マグダレナ”と名乗ったと…』
「さっきからそうだと言ってるんだがな。そいつがどうかしたのか?」
『…いや、ソル、お前は“マグダラのマリア”は知っているか?』
「ハッ、そんなもんに俺が詳しいとテメェは思うのか?
“イエス=キリストの最後を見守り、復活したイエスを見届けた女”としか認識は無え」
『いや、寧ろ其処まで知っていたなら十分さ。
そう、彼女は旧カトリックにおいての重要な聖女だ。でも、協会の派閥、宗派によっては
“悪女”や“罪深き女性”として伝えられている』
「そいつがなんだってんだ」
『そう急かすな。その罪深きの部分、彼女が一体どのような罪を犯したというのか。歴史を重ねる内に人々は憶測に憶測を重ね、
その内に、彼女には不特定多数の男性達との性的不品行をしていたと書き加えられ、
“娼婦の守護聖人”とまで言われるようになっていく。
マリア=マグダラ、マリア=マグダレナとも呼ばれている。愛称は“マリー”
つまりシンが偶然にも呼んだ愛称は、まさしくマグダラのマリアそのものを表しているのさ』
「シンの奴の偶然を出したらキリが無ぇけどな」
『旧カトリックにおける彼女の認識は違う。
彼女の事を表す古事記の一文はこう書かれてある…
“イエズスに救われて後、痛悔と主への愛を片時も失わなかったことだけは確かである故に
聖母マリアの純血無垢な聖愛を白百合に喩えるならば、
マリア=マグダレナの痛悔の血涙により前非を洗い流した真紅の薔薇にも比することが出来よう”
彼女は誰よりも何よりも、自身の身よりも、救世主を愛し、付き従い、彼の為に命を燃やした…
なあ?…“誰か”の生き様と、似てる気はしないか?』
「チッ、反吐が出やがる…俺が最も嫌う人種だ。
…カイ、テメェが言いたい事は判ったが、それを俺に聞かせて何になる」
『お前にも、少しは愛焦がれる側の気持ちを理解した方が良いと思ったんだ。…まあ、冗談はさておき、
私も次に彼女に会ったら是非ともこう伝えておこうと思う。
こんな“救世主”で本当にいいのですか?他にもっと好い(良い)相手は居るでしょう。と』
「…全くだ。そもそも俺を“救世主”と錯覚した時点でテメェの人生ジエンドっつう事だ」
『彼女にこの名前を自ら名乗らせているのは“慈悲無き啓示”そのものだろう…
慈悲無き啓示が、その辺りの伝承の知識も持っている人物だという事は判った…だが…』
「そんなもん、カイ、テメェ含めた信心深い奴らが無限に集まるだけだろうが」
『無限とまではいかないだろうが…決定打にかけるのも確かなんだ…。ソル、引き続き、“彼女”の監視と見守りを頼む』
◇◇◇◇◇
「ソルさんっ!!!もういい加減にしてくださいっ!!
こんな過剰なお金は頂けないって何度も言ってるじゃないですかっ!!!」
寂れたバーの奥の簡素なVIPルームに響き渡る女の声。
俺は如何にも煩いとばかりに奴を見据える。
「その金を今すぐ此処のオーナーに全額渡してみろ。即テメェは自由の身になれる。その金に意味を持たせろっつうなら、
そいつが立派な理由だろうが」
目の前の女からの訴えに至極合理的な解答を投げ捨てる。
これでも十分にテメェの尊厳は守っている。そんな心持ちで。
「そうゆう事じゃありません!!
何度も言いましたが、私は“此処”で踊り続けなきゃならない使命があるんです!
ソルさんが仰るように、顔も見た事ない“お母さん”が、私に対して“それ”を強制してるかもしれないのは、
ラムに聞かされてから…理解してるつもりです。でも…やっぱり私は!“此処”を離れる訳にはいきません!」
「…テメェは、相変わらず我だけは強ぇな。
筋が通らねえ事柄に、自身の想い込みだけで突っ走るっつうのも、“エルフェルト”の頃からのお家芸かよ?」
「…な、何が言いたいんですか?」
「“諦める”などと宣う…“物分かりが良い素振り”しやがったテメェより、
今のテメェの方がよっぽど“マシかもしれねぇ”と俺は言ったんだ」
皮肉を込めて放った言葉に女はピクリと眉を動かし、少し苦しげな表情を浮かべる。
それが何かの感に触り奴の身に近付けば、目の前の女は俺からの視線を外さないまま、ジリジリと後ろに後ずさる。
壁に到達した瞬間、俺はそのまま壁に腕を突き、目の前の女が逃げられねえように閉じ込めた。
少し不安げに意地を貼りやがる目の前の強がる女の表情。だがけして視線を反らしたりはしないという気概を感じた。
その直な視線に貫かれ、自身の額に汗が伝う感覚を感じ取る…。
らしくねぇ。そんな言葉が自身の脳裏に過る。
「一つだけ教えて下さい。ソルさん、貴方は…“エルフェルト”さんの事、どう想っていらっしゃるんですか?
貴方の本当の想いが知りたいです。理由は判りませんが、私の心の奥底が…そう訴えてます…だから…!」
「そんなもん、“テメェ”が知ってどうする」
思わず睨み返してしまう。軽く舌打ちをし暫く黙っていれば、目の前の女が、負けじと此方を見つめ返してきやがった。
「……ソルさん、貴方がもし…“私”と同じ想いで……。
…ううん、例え同じ想いではなくても、…ご迷惑とかでは無いのでしたら……、
………あ、あの…、…ですね!?…私…、私を……………
……“抱いて”下さる事は…出来ないでしょうか…?」
…………………。
…は!?
…今…コイツ…、何て言いやがった!?
目の前の女からの発言を理解するのに飲み込めなく、思考が停止し、まるで頭をいきなりカチ割られたような衝撃を受ける。
俺のそんな態度を察してか、
目の前の女も黙り込み、互いに気まずい空気が流れた。
「ごっ、…ごめんなさいっ!!!
前に、貴方を諦めるって言っておいて、私ってば、本当何言っちゃってるの!?
でも、どうして貴方にこんな事を訴えてしまうのかの理由が私自身には全く判らないんです!
私の“使命の呪縛”を解くには、“そうするしかない”って語りかける声が脳内からずっと流れてきて…、
“私一人”では、どうしようもなくて…」
俺の目の前で、顔を真っ赤にして激しく慌てて塞ぎ込む姿に、かえって冷静さを取り戻した俺は、色んな含みを持たせてこう呟いた。
「…何だ…?つまりは、“この金で俺にテメェを買え”って事か?」
コイツの語る真意を探る為、態と先程返されたW$の札束で目の前の女の頬をパシンと軽く叩き付ける。
そんな態度に動じず、落ち着きを取り戻した目の前の女は、札を握っていた俺自身の掌にそっと手を当て微笑み、
俺の目を見つめてきやがった。
「お金は…本当にどちらでも構わないんです。もしソルさんが、“その方が都合が良い”のでしたら、そうして貰って構いません」
…何もかもを受け入れる。目の前の女はそんな面をしながら言い放った。俺は思わず顔をしかめ、深い溜息をつく。
「…気に食わねえな。その“使命の呪縛”ってヤツは、単純にテメェの糞親(慈悲無き啓示)からの指令だろうが。
テメェが記憶を無くす前、“エルフェルト”も慈悲無き啓示からの使命の呪縛から逃れる為、
婚活などという馬鹿げた行為を繰り返していやがった。今回のテメェの訴えも、その一環に過ぎないだろ。
そして、奴(慈悲無き啓示)の狙いはその一手先にある。
テメェを俺にけしかける事で、奴が取得しやがる何かがあるとしか思えねぇ」
「一手先?」
「…お前の言動や行動の縛られ方で、奴が“何を狙ってやがるのか”の検討は粗方付いたんだがな…。
その胸糞悪さに頭痛がしやがる…。
この街全ての人間の記憶を書き換え、テメェの記憶を改ざんし此処に縛り付ける命令を出す。
野郎の事だ、俺達がお前をこの街から連れ出せば、テメェはあっと言う間に『慈悲無き啓示』の元に運ばれる魂胆だろ。
テメェがわざわざこんな廃れた街でストリッパーなんぞやらされてる理由も、その方が奴の狙いが叶いやすいっつう単純な理由だ。
つまりだ。奴(慈悲無き啓示)は、どう足掻こうがテメェと俺とで性的交渉を行わせるように、けしかけてやがるっつう事だ。
しかも、全ての逃げ道を閉ざした上でな」
「え!?…ど、どうして、そんな事を…!?
でもそれなら、どうしてソルさんは、こんなに沢山のお金を用意して私にこの仕事を辞める様に促したんですか?
思惑だって判っていたなら、そんな事しても無駄だって理解していた筈じゃありませんか…!?」
「だからこそだ。奴(慈悲無き啓示)の狙いが俺の心理を乱す事も含まれてやがる以上、
不快なモンはさっさと取り除くに限るだろうが!」
「あ…成程…!
……というか、……私の踊り…不快…だったんですね…
ごめんなさい!次からもう少し上手く踊れるように精進しますから!!」
俺の言動に少し驚いた後、落ち込むコイツに思わず眉をしかめれば、突拍子も関連性も無い内容を畳みかけられた。
頭がひたすら痛いが、そうだ、コイツは、あの“エルフェルト”じゃねぇかよと自身に言い聞かせる…。
「…待て!そうゆう事じゃねぇ!
俺がテメェに群がる野郎共を全て焚き付けにする前に、さっさとこんな仕事を辞めやがれと言ったんだ!!
…これ以上話をややこしくするつもりか!?」
予測していた回答より斜め上のモノを投げつけられ、思わず動揺し声を荒げ、察しろとばかりに目の前の女の両肩を強く掴んでしまう。
驚いた表情でまじまじと見つめられ、居心地が悪くなり顔を少し反らし視線も反らす。
暫くの沈黙の後、ふと突然目の前の女がポスンと俺の懐に入り、そのまま此方の腰をギュッと奴の両腕で抱きつかれた。
「ふふ…ソルさん、やっぱり、とても逞しいんですね…」
胸板に顔をうずめて、喋る女の声の振動が身体に響いた。
「お、オイ!?離せ!」と訴えた所で、離れる素振りを見せない女から、好い香りが自身の鼻孔を擽(くすぐ)る。
「ごめんなさい!私、今…少し自惚れちゃってます。
いいえ…正しくは、ソルさんにとって“エルフェルト”さんって存在が、
予想するより遥かに大きかったんだなぁって事が知れて勝手に嬉しくなっちゃったというか…。
過去の記憶が全く無いのに変な話ですよね?…でも、本当に嬉しくてたまらないんです」
「…あいつ(エルフェルト)は、テメェみたく“女”を使わねえし擦れてもいねえ。何も知らねえ只のガキだ。“お前”とは違うだろ…」
「ソルさん酷い!…“私”だって、こんなきわどい格好をして大勢の人達の前で毎日踊ったりしてますけど、
本当に“何も知らない”んですよ? 誰にも触れさせては駄目。
それも私に定められた“使命”の一つだったんです。
私自身も理由が解らなくてずっと不思議で仕方がなかった。でも、今ならその理由がわかります。
…ソルさん。貴方に出逢えて、ほら!こうして、心から触れたいと願った貴方だけと触れ合えている…。
きっと、それが…“私に定められた役目”だったんだって…」
◇◇◇◇◇
「おお、兄さん!…首尾はどうだい?」
「…何の話だ?」
「兄さんが札束こさえて貢ぎまくり、あの“マリア”を遂に墜したって専らの噂だぜ?。
というか、兄さん、こっちの界隈だと有名人だったんだな!?
うちの常連さんに、マリア目当てにあのバーに通い詰めてた野郎達が居るんだが、
口々に兄さんの名前だしてキレたり落ち込んだりしてたからなぁ」
“例のブツ”を手に入れる為に、この街で唯一取り扱ってるだろう店に入れば、そこは、前に“エルフェルト”の情報を聞き出した噂話にやたら顔を突っ込む親父が切り盛りしている店だった。
嫌な予感はしたが、他に選択肢が全く無い以上此処に来らざる得ない状況に思わず頭が痛くなる。
「…俺達は、元々“奴”に用があっただけだ。勘ぐりとはいい度胸だぜ…。
テメェの身体、次の日辺りには町外れの高野辺りでバーベキューか?」
これ以上、目の前の野郎の戯れ言を黙らす為に発した言葉で、親父はやたらと恐怖に震え上がる。
次の瞬間浮かべた額に汗と媚びへつらう笑みに、まあ、こんなもんだろと内心呟いた。
「っ…と!、すまねぇ!!悪気は無かったんだ!!この通りさ!
…冗談は此処までとしてだ!兄さん今日は何の用だい?
こんな辺境のど田舎じゃ、品揃えは悪いかもだが、ある程度は融通を利かせるってもんさ」
「…オイ、“スキン”の揃えはこれだけか?」
「あ、…ああ!!うちの店で現在取り扱ってるのは、此処にあるサイズのみだな……………。
…あー、兄さんの体格だと………その…なんだ、すまねぇな…。」
次仕入れる時は揃えておくからと、店の親父に意味深な表情で苦笑いされ、居心地が悪くなり、さっさと出口に向かう。
何かを察した顔をしやがった親父の顔を思い出し、舌打ちをした後
店を後にした。
やはりな…
ある程度予測はついていたが、このままだと、避妊手段が何も無いまま“事”を行う羽目になっちまう。
この街をしらみつぶしに捜索していたシンとラムレザルから、
空間が意図的に歪められ、街から一切出られなくなっているとの報告を思い出し、自身の頭をかきむしった。
“マリア”が避妊具を持っている。っう線は、まあ…ありえねぇだろ。
そもそも“慈悲無き啓示の狙い”から推測すればだ、持たせている筈が無え。
この街から出られるようにするにはだ、
今の所は慈悲無き啓示の思惑通りに事を進める他無いっつう事かよ…。
…癪には障るが、敵も馬鹿ではなさそうだ。
狡猾かつ性格が糞悪い変質者って所か。
だが、敵の狙いと目的が見えてる以上、此方もそいつを利用するまでだ。
俺は“目的”に向かい始める。