DORAGON
DOES
HISUTMOST
TO HUNT
RABBITS
D
oragon
rabbits
&
R
無知な慈愛は
少女を哀しみに突き落とす。
エルフェルト=ヴァレンタイン!遂に…!遂にっ!!!
本日!ソルさんの仕事の付き添いに付いて行ける事になりました!(バーーーン!!!)
夢に見たっ!ソルさんとのめくるめく愛の婚前旅行…!
とかでは…ええ…全くないのですが…(涙)
散々お願いしても無下にされていた願いが届いて、この大きく膨らんだ自慢の胸が今にも嬉しさで張り裂けそうですっ!!!
内心心臓バクバクしてますが、目の前のソルさん御本人は何とも思ってないようで、さっさとしろと急かしてくる始末…。
最低限に収めたバックをよたよたと抱えてお城の廊下を歩いていたら、
そんな大荷物邪魔なだけだ、減らせ。と容赦なく言われて、「必要最低限ですから!」と声を張り上げた。
全くもう…!相変わらずデリカシーの欠片すらありません…!
でも、ソルさんは横柄なテイシュカンパク(?)ですから仕方がありませんよね。と自分で自分を納得させれば、
ふと、テイシュカンパクと言ったら、ヤマトナデシコ(?)だよね…!?と思い至る。
ちょっと待って!エルフェルト!!
ソルさんがテイシュカンパクなら、私…!真っ先にやらなきゃならない事があるじゃない…!!!
私は意を決してソルさんを呼び止め、
咄嗟に、遥か昔のジャパニーズのお嫁さんが嫁ぐ時に旦那様に伝える常套句である、
「ふつつか者ですが、宜しくお願いします!」
と楚々としたヤマトナデシコらしく、膝を付いて正座をした後、床に両手を添えて、深々と頭を下げてお辞儀をしてみせる。
そんな私の態度に何故か動きも表情も固まるソルさん…。
あれ…? 違ったの???
暫く固まって言葉も失っていたソルさんの視線をマジマジと見つめていれば、バツが悪そうに一つだけ舌打ちをされた。
「あ!ごめんなさい!!…これはそんなに深い意味では…!」
慌てて取り繕う私の頭をいきなり大きな手でグシャグシャと撫でられて、
思わず視線を向ければ、顔を反らされて、さっさしろ。その一点張り。
お辞儀をした際に床に置いた私の荷物はいつの間にかソルさんの肩の上に担がれ、私を置いてスタスタと前を歩いて行く姿。
相変わらず…普段の時は、言葉数少ないんですよね…。
あんなに…ベッドの上だと饒舌なのに…。
って、私っ!?今何考えてたの!?
慌ててソルさんとの夜の記憶が脳内に蘇り、首をブンブンと横に振り回す。
頬が熱いまま、慌ててソルさんの後ろ姿を追った。
◆◆◆◆◆
今回向かう地域は、未だにギアの驚異が強い東アジア地区。ジャパニーズに近いその地区は、
ジャスティスが放った力の影響がとても強いらしくて、ソルさんみたいな凄腕の賞金稼ぎじゃないと容易に足を踏み込めない危険地域だ。
勿論、そんな人の手が入る余地が無い土地では、勿論街も少なければば、
そんな限られた小さな町に余所者を受け入れる施設であるホテルなんてものがある筈もなく。
この危険地域よりちょっと外れた、小さな田舎町の外れのバーに私達は立ち寄り、
生活に必要な食料や水分を、マスターと交渉して、破格の値段だけど、なんとか譲って貰えるとの事だった。
「…随分、お金支払ってましたね…?」
「此処いらじゃ、あの店しか食料は置いてねぇからな。そりゃ足元見られるだろ。」
「の、割には…かなり値切ってる様にも見えましたが…。」
「奴等の物資が枯渇してる原因が、大型ギアだからな。そのギアを確実に、尚且つ数を狩れる賞金稼ぎが此処に居る。
交渉のカードはそれで十分だ。」
「た、確かに…。」
でも、お店のマスターさんもソルさんも一歩も譲らない感じで白熱してて、ソルさんが現在めちゃめちゃお金持ちなのは、
稼ぐ能力の他に、お金にシビアって所もあるかもしれないと思ったけど、…それは黙っておこう。そう思った。
◆◆◆◆◆
危険地域に入るギリギリの、先程立ち寄った田舎町より少し離れた場所に、ギア狩りをする為の拠点を作る為に、
ソルさんがテキパキと野営の為の準備をしている。
私はといえば、ディズィーさんにしたためて貰った、外でも簡単に作れるご飯のレシピとにらめっこしていた。
ご飯作りは苦手だったけど、どうにかこうにかディズィーさんに教えて貰って、幾分マシな腕にはなれたと思う。
恋する乙女は必死なんです!!愛する人の為ならなんだってできますともっ!!!
料理なんぞ、食材全て焼けば食えるだろと私に言ってくるソルさんは割と食事に関してのこだわりは無さそう…。
いえいえっ!だからこそ!ディズィーさんやカイさんに、ソルさんの食事面でのお願いをされたんです!ソルさんが何を言おうと、
私はソルさんに食事を作りますからっ!!
野営の為の天蓋の準備が終ったソルさんは、何か予定があったらしく、私に此処から離れるなよと一言言付けて、
愛車に跨りどこかに走り去って行く。
私は、習ったシチューを作る為に、材料の皮をむき始めた…。
「よかったぁ〜!なんとか完成しましたっ!!」
ふつふつと美味しそうな匂いを放ってるお鍋を覗けば、ブラウン色に輝くミートシチューがお鍋一杯入っている。
「干し肉に、ペコロス、キャロット、ポテトに、マッシュルーム、トマト!
香り付けにローリエ、ローズマリー、タイムと、クローブ!!ディズィーさんのレシピに書かれてる通りに作れました!!
これを食べれば、キチンとお野菜摂取出来ますし、これで…ソルさんも、私を見直す事間違いなしっ!
『エルフェルト、テメェ…嫁にしたい程の良い女だぜ…』な〜んてっ…言われちゃったりしてー!!!もほーっ!♡♡」
私が妄想の世界に思い耽って数分後、近くで何かしらの視線を感じて、周りを見渡すと、
一人の男の子が、こちらをジッと見つめて、その場から動かなくて、私も思わずその子と見つめあってしまう。
その男の子は、ボロボロのシャツにハーフズボン。
どちらも灰色に薄汚れていて、脚は怪我をしている様に見えた。
身体はガリガリに細く、目は虚ろで、力なく、地面をやっと立っているようだった。
「…君は…どこから来たの…?…近くにお母さんは?」
私の言葉に、首をフルフルと振り、哀しい顔をして見つめてくる…。
フラフラとした足取りで、私の作ったシチューの、匂いに釣られる様に此方に近づいてくる。
私は慌てて、此方から彼を迎えに行って、身体を受け止めてそっと抱き締めた。
先程私が作ったシチューをアウトドア用のお皿に注ぎ、そっと男の子に手渡す。
「ハイ。熱いから気を付けてね。」
お皿とスプーンを受け取った男の子は、一目散に目の前のシチューに貪り、その姿に、私は胸が痛んだ。
男の子は食べながら泣いていた。
お父さんもお母さんも、目の前に現れた大きな怪物に食べられた。
お父さんは家族を守る為に立ち向かって行った。
お母さんは、自分に逃げる様に強く叱咤した。
自分が逃げる時間の為に、身代わりになった…と。
家族を助けてほしい気持ちの一心で、何時間もかけて、この小さな田舎町に辿り着いた。
でも、どの大人に必死に呼び掛けても…誰も助けてはくれなかった。
気にかけてくれたのは…お姉ちゃんだけだと…。
泣き疲れた男の子を抱き締めながらあやしていれば…。
用事が済んだらしきソルさんが、私の胸を枕にして寝ている見知らぬ男の子の姿を見て、眉を潜めた。