DORAGON
DOES
HISUTMOST
TO HUNT
RABBITS
D
oragon
rabbits
&
R
無知な慈愛は
少女を哀しみに突き落とす。
「そいつは切り捨てろ。」
ソルさんの呆気ない言葉に、私は思わず絶句してしまう。
「案の定、納得いかねぇって面してやがるな…。だが、考えてみろ。この地区には、そんな餓鬼共が大量に居やがる…。
次々そんな不幸な餓鬼共の面倒を見てたらキリがねぇ。」
「そんな…!」
「そもそもだ、そんな餓鬼共を養える程の食料なんざ、今、この場所で確保出来る訳もねぇ。
此処らの町の奴等が、見て見ぬ振りするのは、己の食いブチを確保するのにも苦労してるからだ」
「だからって…!この子をこのまま見殺しになんてできません!!」
「テメェ…!相変わらず、感情で突っ走りやがって…!」
「ソルさんの仰る事はわかります…!でも…目の前で、
お父さんとお母さんをギアに食い殺されてしまったって泣くこの子を見捨てるなんて、私にはできませんっ!!」
私の腕ですやすや眠る目の前の子を、私は思わずギュッと抱き締める。
「きっとこの子の両親を食べたギアって、今回のソルさんが受け持った賞金首の中に居ると思うんです…!私も手伝います…!だから…!!!」
「だから何だ?…俺にそんな見ず知らずの餓鬼の両親の敵討ちをしろだと…?とんだお笑い草だぜ…。
エルフェルト、テメェには何度も言っただろうが、俺はロハじゃハエも殺さねえ。
俺に正式にモノを頼むんなら、仕事として『報酬』をその餓鬼が用意するか、テメェがその餓鬼の代わりに用意するかどっちかだ。」
「そ、それは…。」
「エルフェルト…テメェへの誼(よしみ)だ、先回りして忠告しといてやる。
お前がその餓鬼の対価の肩代わりを安請け合いで引き受けてみろ。後でお前が地獄を見る事になる。」
「え…?どうゆう事ですか…?」
「お前は今現在、世に隠される様にイリュリア城に匿われ、今は俺の下に居る。これは何を示す?
お前自身が金を稼がなくても、“生きていける”っつう事だ。
ヴァレンタインシリーズを世に晒せば混乱の元となる。それを防ぐ為にイリュリアは“お前ら”を囲う義務がある。
だが、当たり前だが、俺にはそんな義務は無い。が…、
エルフェルト、お前の左手の薬指に嵌ったソイツを見てみろ。」
「…これは…前にソルさんが、男の人達に対する虫除けって…。」
「それだけじゃねぇ。単純にソイツは、“俺の所有物”っつう証でもある。」
「…え!?」
「テメェが俺に対価を支払うっつう事はだ、
“己の所有物から対価を支払われる”と同義だろうが。そんなもん、俺にはなんの価値も無ぇ。
エルフェルト、お前は自ら俺に獲られる事を望んだ。
俺はその需要を譲受した。
テメェが、俺に“そう望んだ”んだろうが。
お前はもう、俺のモンだ。」
「〜〜〜〜〜〜っ!?/////////
…そ、それはっ!…そ、そのっ!!、わっ…わかりましたがっ!!!
そのお話とっ、この子と!何が関係あるんですかっ!?ソルさんに対する対価を、私が受け持ったら地獄を見るって…!?」
「俺の“所有物”だからこそ、お前の面倒は俺が見ている。
ある程度の度が過ぎねぇ程度のお前からの願いなら、叶えてやる事は、やぶさかでもなんでもねぇ。
その代わりにだ、俺はお前の需要を貪っている。もう、俺とお前との関係で、等価交換は成立しちまってんだ。
そこから違う奴からの干渉が入れば、バランスが崩れるに決まってるだろうが。
そのままお前がその餓鬼のお守りを続ければ、お前は俺に払いきれない程の借金を抱える事になるが…、
俺の借金催促は、どこぞの金貸し屋の追い立てよりもハードだぜ?試してみるか?」
そんな、含み笑いを浮かべて語るソルさんの表情に、私は小さく首を横に振った後、俯いた。
ソルさんの言葉に、私は、胸の奥底に沁み入るような喜びを感じて震えてしまう。
でも、このままソルさんの言葉に溺れてしまえば、私は…多分、一生後悔してしまう…!
「私…、私は…!それでもやっぱりこの子を見捨てるって選択肢は選べません!
この子が支払うべき対価は私が支払います。勿論、ソルさんの懐を痛めるような事は致しません。
きちんと、私が自分で稼いたお金でお返しします。」
「その餓鬼に求めるのは確かに金だが、エルフェルト、お前から対価を請求するなら、金はいらねぇ。」
「それってどうゆう…。」
「前にも言ったが…俺にとっての財産は、お前自身だ。
それに、テメェに大金を請求してみろ、世間知らずで、箱入りで思い込み激しい暴走娘が、真っ当な仕事で大金を稼げる訳がねぇ。
安易に夜の世界に堕ちて、唯一の財産であるその身体を売って荒稼ぎするに決まってるだろうが。」
「…なっ!?いくらなんでも!?わ、私だって、そこまでは流石にやれませんよっ!!!」
「もし俺が、金を稼ぐ為に、口先八丁、甘い言葉で夜の仕事をしろと言えば、抵抗無くやるだろ。テメェはそうゆう奴だ。
それに、お前は快感や誘惑に弱く、情に脆い。
現に、会って数時間程しか経っていないその餓鬼に思い入れやがってるだろうが。」
「だって、この子は今まさしく命の危機なんですよっ!!思い入れも何も…それどころじゃ…!!」
「ハッ…命の危機だと…!? 笑わせるぜ…。
その餓鬼は、まだ自分で歩ける。飯も食える、テメェの腕の中で、寝る事だって出来てるだろうが。
…地雷にやられて脚が無い。ギアを大量殲滅する為の殺戮法力により目が見えなくなる。
口も開かなくなる。常に爆風で、眠る事すらままならねぇ…。
エルフェルト、お前の腕で安らかに眠る餓鬼は、今、本当の地獄ってヤツか?」
ソルさんの闇を含んだ冷徹な眼差しが…私の懐で眠る男の子に容赦なく降り注ぐ…。
私を見つめてる訳じゃ無いのに、まるで弓矢か銃口が私の心臓を狙って居るかのような感覚に陥って、身体が震えた。
そんな怖さを振り切って、私は、声を振り絞る…。
「…確かにこの子は…ソルさんが今まで見てきた惨劇よりも、全然マシな物なのかもしれません…。
でも…でもっ!!シチューを受け取った時の震えた細い手や、慌てて食べすぎて、何度も喉を詰らせたりして、
その度に吹き込んで、飯食べながらボロボロと泣く姿見たら!
他の子なんて関係無いっ!!目の前のこの子を助けたいって!!馬鹿な私は思ってしまったんですっ!!!
もういいですっ!!ソルさんなんかっ!!知りませんっ!!!」
私は一人男の子を抱きかかえたまま、
天幕に入らずに、そのまま私にあてがわれた毛布を上からかぶって、焚き火の近くで座り、ふて寝を決め込んだ。
ソルさんは、そんな私の態度に、一つ舌打ちをした後、何やら色んな作業を火元でした後、
焚き火の近くにあった木の根本に座って毛布をかぶって寝たらしくて、(天幕貼った意味無かったんじゃ…)
夜中に私がふと目が覚めた時に、木のふもとで寝入っていたソルさんの毛布が落ちそうになっていたのを肩までそっとかけ直した。
ソルさんの近くには、空っぽの酒瓶とグラスがあったので、作業ではなくて、単にお酒飲んでたんだと解ってちょっと呆れ返る。
シチューを温め直していれば、今目が覚めたらしき男の子と目が合って、私は笑顔を向けた。
丁度ホカホカに温まったシチューを男の子にそっと手渡す。
男の子のシチューを受け取る手が震えていた…。
「どうしたの?」
「僕が居るからお姉さんが迷惑してる…。ごめんなさい。」
「そんな事無い!迷惑なんかじゃないよ!」
私は思わず男の子に近寄る。
でも…と塞ぎ込む男の子を、強く抱きしめる…。
その後、意を決した私は男の子の手を取り、ソルさんが準備した天幕から離れて、先程の町に向かおうと歩き出した。
何か、この子を見捨てなくて助けれる方法があればと探す為に…。
◆◆◆◆◆
ソルさんの言う通り、私やソルさんの力では、この子みたいな孤児の面倒は見切れない。
でも、なんとか…この地域の方達が、見てくれるようになれれば…!
そんな希望を抱いて、色んな個人宅に頼み込んでも、丁寧に断られるなら全くのマシで…。
無視されたり、暴言履かれたり…。
私一人だけなら、にこやかだった男性の住民さんも…
事情を話して男の子を連れてきたら、引きつった顔を浮かべて、逃げ出す人もちらほら…。
「…もう!あんなに私一人の時だと調子のいい事ばっかり言ってたのに…!」
散々歩き回って疲れたからと、二人で設置されていたベンチに並んで座る。すると、男の子が私の顔を見て悲しい顔で呟いた。
「お姉さん…ごめんなさい。」
「え…?なんで君が謝るの?」
「だって…。」
「大丈夫!私に任せて!ね?
あとね…。自己紹介まだだったよね?
私の名前はエルフェルト=ヴァレンタイン。愛称はエル。
君も遠慮なくエルって呼んでね?
…君の名前、教えてよ。」
「…劉=睿(リュウ=ルイ)」
「ルイくん?」
「うん。」
「不思議な響きだけど、素敵な名前だね。」
「うん…。父さんがつけてくれた…。とても誇りに思う。」
「そうなんだ…。」
「エルお姉さんは?」
「私は…“お母さん”につけて貰ったんだ。実は、私は一度この名前を嫌いになりかけた事があったの。
でも…。お母さんは私の事を愛してくれていたって後から知って、この名前が好きになれたの。
そして、今は私の大切な人がこの名前で私を呼んでくれる…。だからこの名前で良かったって思うの。」
「うん…。」
「…って、私の話ばっかりしちゃったね。
今日はもう夕方だから、何処か泊まらせてくれる場所探すね!」
結局、この僻地の田舎町では、泊まれる所は見つからなくて、先程の物資を売ってくれたバーのマスターさんの所にもう一度顔を出す。
ちょうどバーの栄えてる時間で、色んな人で賑わっていたけど、活気がある雰囲気ではなくて、
タバコの煙が部屋中に充満してて、カウンター席では、色っぽいお姉さん達がパイプを蒸していたり、
全身入れ墨のスキンヘッドなお兄さんや、テーブルで賭け事に勤しんてる人達で、ごった返していた。
マスターさんは、私の姿を見るや、「おや?お嬢ちゃん、あのがめつい保護者はどうした?」と嫌味な口調で声をかけてきて、
私は思わず眉をひそめた。
「今日だけでいいんで、どこか、この子を休ませる場所がらありましたら、貸して下さい。お願いします。」
「…そんな面して一丁前に子持ちかよ。その餓鬼は、あの金にがめつい戦神野郎とズッ○ンバッ○ンしてこさえた餓鬼か?」
「なっ!!!?…そ、そんなんじゃないですっ!!
…もういいです!!失礼しましたっ!!」
マスターからのセクハラ発言に、頭に来た私はルイ君の手を引いてバーの入り口に足を向ける。そんな私をマスターは何を思ったのか、
「おい…!嬢ちゃん、ちょっと待て…!
お前さん…よく見りゃ、面は乳臭さ消えねぇおぼこだが、美い身体してんじゃねぇか…。」
「…へっ!?…あ、ありがとうゴザイマス…。(きゅ、急になんなの…?」
「…まあ、待て。からかったのは悪かった。詫びと言っちゃあ何だが、上に一部屋空いてる。自由に使いな。
さっきは嬢ちゃんのツレに多量に商品買って貰ったしな。」
「あ、ありがとうございますっ!」
「……ああ、良いって事よ…。困った時はお互い様って奴だ…。」
その時の私は、目の前のマスターさんが誰かと目配せで何かを合図してるとはつゆとも思っていなかった…。
「お姉さん…!起きて…!」
「ん…?ルイ君…?眠れないの?」
「なんか、物凄く…嫌な予感がする…。」
「え?」
「早くこの場所から出よう…!」
「でも、まだ深夜だから、出歩くのは…。」
「エルお姉さんは、あの厳ついお兄さんの元に帰った方がいい!
…僕なら大丈夫。お姉さんの作ってくれたシチューで元気が出たから、もう一人で大丈夫!だから!!」
ルイ君が寝ぼけた私に必死に訴えかけてる時に、
スキンヘッドの男の人や全身入れ墨の男の人やらが、泊まっていた部屋になだれ込んで来て、私は何が何だかわからなくなった。
「ったく…糞ジャリ…!そのアホ女に余計な知恵吹き込むんじゃねぇよ。
テメェら!ボス直々の命令だ!よく聞けっ!!用があるのはそっちの女だけだ。その糞ジャリに用はねぇ!」
一人のリーダー格の男の人の一言でルイ君は捕まり、服の袖軽々と掴まれ、窓の外に思い切り投げ捨てられてしまう。
私は思わず悲鳴を上げて窓に近寄ろうとすれば、大勢の男の人達に遮られてしまった。
「なにするんですかっ!!酷いじゃないですかっ!!!」
「他人の心配してる場合か?ガキ一匹や二匹投げ捨てられた所で死にはしねぇよ。骨が何本かイカれてっかもしれんがなぁ!!」
そう大声で笑い出す人達に私はとことんブチ切れて、キプロスプロジェクト銃を召喚しようとするも、多勢に無勢、
十人以上の大勢の男性に力技で抑え込まれてしまう。
「卑怯ですっ!!!…こんな…!か弱い乙女一人に、殿方が大勢寄ってたかって…!!!男性として恥ずかしいとは思わないんですかあっ!!!!」
「お前は、あの“バケモン野郎”が連れてきた女だ。あの“利己的なバケモン”が何の役にも立たない女を連れてくる訳があるか。
それにだ、俺達も伊達にこの大型ギアが闊歩する地域でギア狩りを生業にしてる訳じゃない。
気配でお前が只者じゃないのは丸わかりだ。
お前ら…この女を連れて行け。貴重な財産だ。丁重に扱えよ。」
そんな言葉を発せられた後…後ろから手刀を思い切り入れられて、私は意識を失った…。
◆◆◆◆◆◆
ふと目が冷めれば、昨日自身が火をおこした焚き火の消えた痕から、立ち上る煙が、己の視界に目に入る…。
っ、頭が痛え…。
エルフェルト、奴がどこぞの餓鬼かわからん奴に入れ込んで、言い争いになった後、
餓鬼を抱えてふて寝しやがった姿を視界に入れながら、やけ酒をした事を思い出した。
自分が寝入った木の根本の近くに転がった、酒瓶と、グラス…。
目覚めた際に落ちた毛布は、自分でかぶったのか記憶が定かでは無い。
焚き火の前で、ふて寝を決め込んだエルフェルトの姿が見えない。
微かに暖められたシチューの痕。…こりゃ夜中か?
微かに地面に見え隠れしている足跡が、エルフェルトとあの餓鬼のモノと判断出来る。
「チッ…!あの暴走娘っ!!!」
テメェの行動パターンはワンパターンなんだよ!!!
俺はその微かに見え隠れする足跡の追跡を開始した。
足跡を追跡していけば、やはり昨日の田舎町の方に続く道なりに進んでいく。
道なりの地平線に、何やら身体を引きずって此方に向かってくる小さな人影を視界に収めた。
ソイツは、俺の姿を見つけるや、全身痛めた身体を引きずる速さを早め、何やら大声で叫んでやがる。
「お姉さん…!エルお姉さんを助けてっ!!!」
その単語に思わず、「場所は何処だ!!!」と叫ぶ。
見るからに全身打撲、数か所骨折、何かの衝撃で内臓破裂もしてやがるのか口や鼻から出血、血液不足からか視線が定まってねぇ。
誰の目から見た所で重症なソイツは、それでも自分を連れていけと必死に視線で訴えかけてきやがる。
「…オイ、死に損ない。テメェ…。自分で判ってやがるな…?
“どうせもう助からねぇ命。最後は惚れた女を救った意味ある生物として死にてぇ”
そんな面してやがる…。
…俺はエルフェルトと違って、優しくなんぞ扱わねぇ。テメェが痛さで気絶しようが構わねぇなら連れて行ってやる。」
そう言い放てば、目の前の餓鬼は一丁前に野郎の顔をして頷きやがった。
餓鬼の意識朦朧としたたどつかない説明からの状況背景はこんな感じか。
あの糞マスターのバーにエルフェルトが泊まらせて欲しいと頼んだ時に、既にこの餓鬼には嫌な予感があったらしい。
何度も外に出るよう懇願するも、エルフェルトは夜だからと聞く耳持たなかった。(あの鈍感娘!!)
エルフェルトをなんとか叩き起こすも、時既に遅し、餓鬼は窓から投げ出され、エルフェルトは大勢の野郎に取り押さえられた。
こんな所だろ。
あの糞親父は、女の人身売買でもしてやがるんだろ。だとすればエルフェルトは何処かに閉じ込められてるってのが筋だな。
商人が大事な商品に傷なんぞつける訳が無え。
やたらエルフェルトの身を心配する餓鬼にそう説明すれば、
「エルお姉さんが怒る理由…分かる気がする…。」
余計な事を抜かしやがった。
「ああ!?テメェ。エルフェルトの腕の中で、全部聞いてやがったな!?」
「…っ、あんな大きい声の言い争いだと、嫌でも目が冷めるよ…。」
「お前幾つだ。外見の発育の悪さの割には知性が発達してやがる」
「今年で12歳…。発育が…悪いのは仕方無いだろ…。」
「テメェ。エルフェルトにはそいつを言ってねぇな。」
「…だ、だって…なんか…幼い子供だと思い込まれてて、…それに……、あ、あんな柔らかいのは…抵抗出来ないよ…!!」
バツが悪そうに顔を反らす餓鬼に、次やったら覚えておけ…!と伝えれば、目の前の餓鬼は、今にも事切れそうな青白い顔で笑いやがった。
「…ったく。…無駄話はここまでだ。テメェは此処で待ってろ。
さっさとあの糞マスターしばいて、エルフェルトをテメェの前に突き出してやる。それまで、“生きてろ” いいな?」
◆◆◆◆◆◆
あれ…?ここ、何処?
えーと、手と脚がロープで縛られてて、口はさるぐつわされてて、
あれから私…。捕まっちゃったんだ…。
ルイ君…ルイ君は無事なの!?
何とか外の様子だけでもわかるように、耳を澄ましてみれば、
外の人達の会話が微かに聞こえてくる…。
「ボス!ひさしぶりの大物じゃないすか!!」
「ああ、顔が少し幼いが、身体は申し分無い。こりゃかなりふっかけれるぞ!」
「あの顔であの身体なのが、かえってマニアに高く買い叩けそうですぜ?いやー!流石、あの戦神が連れていた女ですぜ…!」
えええええ!?ちょっと待って!?私!売られちゃうの!?
そしたら、さっきの男の人達は、あのマスターさんの仕業!?!?
酷い!!セクハラ発言されて失礼な人って思ったけど、部屋を貸してくれたから、いい人だってちょっと見直したのにっ!!!
こんなに悪い人だってわかったなら、此処に長居する理由も、皆さんに手出ししない理由なんて、もう既にありませんっ!!!
エルフェルト=ヴァレンタイン!!此処から脱出しますっ!!!
◆◆◆◆◆
先程のバーに入れば、何やら大量の札束を数えてやがる野郎共を視界に収める。
その札束は、あの糞マスターが支払ったエルフェルトをとっ捕まえた時の報酬だろうと目星をつけ、
その集団に近寄り、入口近くの席に座っていたスキンヘッド入れ墨野郎の胸倉を軽く掴み、「連れが世話になったな」と睨みつける。
ダダ漏れの殺気を流石に察せれる程の実力は持ってやがったのか、
「そりゃもう…!」と声を震わせながらひきつり笑いを浮かべる目の前の野郎を思い切り殴れば、何か軽く骨が折れる感触があった。
その力の反動でそいつは入口付近のテーブル席から端のカウンター席まで吹っ飛び、壁に見事に亀裂が入っちまう。
オマケとばかりにカウンターの棚に並んでいたグラスやガラス便がスキンヘッド野郎に降り注いだ。
…人間相手に対する力加減なんぞ、忘れちまった。
肩慣らしの為にいつものようにゴキゴキと首の関節を鳴らせば、何人かその場から逃げ出し、後退りする者、腰を抜かす奴らが視界に入る。
カウンター席から此方を固まりながら見つめてやがるリーダー格らしき野郎の胸倉を掴み、
「案内してくれんのはテメェか?」と凄めば、ビビリまくっていたのか、
ガタガタと身体を震わせ空気をかろうじて絞り出したような声色で、は、はひ…と呟いた。
ビビリまくる野郎から、案内されたアジトである倉庫街は、
何者かの襲撃に逃げ惑う野郎どもの助けを乞う嘆きのうめき声と、無尽蔵に響き渡る銃声と爆音が響き、
そして、肌がチリつくような熱気と炎で包まれてやがる…。
俺はその光景に思わず笑みを浮かべ舌舐めずりをした。
……こんなもんをしでかす奴はエルフェルト、アイツしか居ねぇだろ。
あんなボケでも曲がりにもヴァレンタインってこった。
奴が暴れ回った道を辿り駆けていけば、
萌える焔の陽炎から一人の女のシルエットが浮かび上がる。
警戒する事なく近付けば、何らかのリミッターが外れてブチ切れ意識が飛んでやがるエルフェルトが、
物音に反応し、背後に立った俺にめがけて瞬時にハンドガンを撃って来やがった。
それを全て見切つつ奴の懐に入り、ハンドガンを持つ右腕を掴み身体を引き寄せる。
耳元に唇を寄せ、「テメェ、後で覚えてろ」と呟く。
「ソ…ソル…さん?…あれ?私…。」
意識をぶり返したエルフェルトは、焦点が合わない視線で此方を見つめてきやがる。
「…ったく。派手に暴れやがって。テメェの爆撃で奴らの蓄えた財産まで全て燃えちまっただろうが」
「ソル…さん…。ソルさん…っ!!…ルイ君っ!!ルイ君はっ!!!」
意識がハッキリすると同時に俺のジャケットを掴みかかり必死に訴えてくるエルフェルトに、
「さっさと帰るぞ…。…ガキがテメェを待ってる。」
そう呟けば、エルフェルトはこくりと頷いた。