top of page

心が​先か、身体が先か。

 

エルフェルト救出劇から一ヶ月後。

エルフェルトは体の異変を感じていた。
熱が上がり身体がだるくて常にほてる。特に下半身の口に出せない様な場所が常に火照りたまらなくなるが、

正しい性的な知識など判らないエルフェルトは何の事だかわからない。(変に耳年増で妙な言葉は知ってはいたが)

そのふくよかな胸も常に先端が張り詰め、歩く度に、下着を身につけても服に擦れて感じて身悶えてしまう。

この状態を周りに悟られるのは嫌だと頑なに口を閉ざし、その異変を心配する周りから距離を取り引き籠もってしまう。

かろうじて実の姉であるラムレザルとカイ=キスクの妻であるディズィーにだけは会っていた。
体に熱が溜まり、何かしらの病気とお城抱えの医者に診断される。
人ならざる彼女には、普通の医者では役目不足とカイは判断。急遽、ファウストをイリュリアに呼び寄せる。

エルフェルトを診察後、接客室に集まった、カイ、ディズィー、シン、ラムレザルの四人に、

ファウストは「彼女は今、発情期になっています」と告げた。
発情期って何だ?となるシン。慌ててしまうカイ。
それを見たディズィーが私に任せて下さいと、簡潔かつ丁寧にシンに発情期のなんたるかを説明していく。

ラムレザルは全て察する。
母さん(慈悲無き啓示)にとってのエルの役目は、新人類の繁栄の人柱だった。今ならそう理解出来ると。


「ふーん?要は、エルが子供作れる準備が出来たって事なんだろ?それでどうしてオレとカイは、今エルに会っちゃいけないんだよ?」

端的に疑問を語るシン。

「…今の彼女に、あなた方のような身近で親しい男性が会えば、かえって苦しめる事になります

…それに、今下手に彼女に近付けば、もしかしたら…“搾り取られ”ちゃうかもしれませんよ!?」

「…搾り取られる?何をだよ?」とシンは首を捻る。

「シン!ファウスト先生の言う事をきちんと守ろう。エルフェルトさんを余計に傷付けたくないだろう?」

 

自身の息子の純な疑問に対し、父親であるカイは、慌てて事をぼやかしつつ諭すものの、

当の息子は誤魔化された事を理解して声を荒げてしまう。

「オレとカイがエルに会ったら、エルの病気が悪化するのかよ!?」

「いえ、かえって“発散”させた方が、発情期は早く収束します。ですが、カイさんはともかく、“貴方”にはまだ早い事柄でしょうか…」

言葉をオブラートに包みつつ穏やかに説明をするファウストに、シンは尚更機嫌が悪くなった。

「なんだよ、もったいぶらすなよな!」

ふてくされるシンに、ラムレザルは「エルの為だ。シン…お願い」と言葉をかける。

ラムレザルの真っ直ぐな瞳に「…わかったよ。ラムの頼みだ」と渋々承諾をする。

「とりあえず、発作を緩める薬と、精神を安定させる薬を処方しときます。

発情期は一時的なモノですが、どの期間で収まるのか、まだ見当がつきませんので、何かありましたら何時でもお呼び下さい。

夜中でも対応しますよ!それではー!!」

ファウストの迅速な見立てにエルフェルトの発作は一時的に収まったのだった。




それから5日後、ファウストの処方した薬のお陰か、エルフェルトの症状は少しづつ落ち着きを見せ始めていた。
発作が激しい時はまともに食事も取れなかったが、最近は少しづつ取れるようになっている。
エルフェルトが身体の異変の症状が出た日、カイはエルフェルトの症状をソルに報告、

予定がなければ近い内に城に寄れないかと伝える。

今はカイの管轄下であるイリュリアにラムレザルもエルフェルトも保護しているが、一応保護者はソルという事になっていたからだ。

ソルは渋々ながらもその報告に承諾。
5日後、イリュリア城に姿を表したのだった。



◇◇◇◇◇



あてがわれた自室にて、ラムレザルとディズィーと三人で朝食を取っていたエルフェルト。
その際、何かしらの報告に来たメイド長が、ソル様がお見えになりましたよ。とディズィーに伝える。

「この調子でしたら、今日の晩御飯は…久しぶりにエルフェルトさんとソルさんも含めた家族全員でお食事が出来るかもしれませんね」

ディズィーの何気ない言葉に、エルフェルトの体調が急激に変調をきたし始める…。

それを見て慌てるラムレザルにディズィーは大丈夫と励まし、もう一度メイド長を呼び寄せて対応に急いだ。
ディズィーはその事実をカイに報告。カイは緊急性を察知、急遽ファウストをイリュリア城に呼び寄せる。



◇◇◇◇◇



「これは……、初めて診た時の症状が見事にぶり返していますが、…何かしらのキッカケがあったのではないですか?」

客間に集まった、カイ、ディズィー、シン、ラム、そして、部屋の片隅で腕を組むソルは、ファウストの言葉に眉を潜める。
ファウストからの質問に、あの…と一番最初に声を上げたのはディズィーだった。

「メイド長さんから、ソルさんが見えたとの報告があって、久しぶりに晩御飯を皆で食べれますね。って伝えた後に

…エルフェルトさんが急に体調を崩しまして…」

「…ふむふむ………、なるほど…!…カイさん、ディズィーさん、そして、ソルさん、少しだけお時間を頂けますか?

お三方に私からエルフェルトさんの病を緩和、上手くいけば完全解消する為の手段をお教えします」

「オレとラムは居たらダメなのかよ?」

食って掛かるシンに、ラムが静止をかける。

「シン、ここは三人に任せよう」

「ラムはいいのかよ!?オレ達だけ部外者扱いなんだぜ!?」

「きっと私達では対処出来ない事柄なのだと思う。この三人が、エルや私やシンを蔑ろにするような事は無いよ。

それはシンが一番判っている筈だ」

「…そう、だけどよ」

「この医者を少なくとも、カイとディズィーが信用しているように見える。私はあなたの父と母である二人を信用している。

シンもきっとそうだと思う」

「…わかったよ。今回だけだぜ!?あとエルが治ったらキチンと教えてくれよな!?」

「カイ、ディズィー、ソル。エルをお願い…」

そう言い残し、シンとラムは部屋を出ていった。




◇◇◇◇◇




「で、ガキ共をおん出して説明ってのは何だ?」

面倒臭いとばかりに聞くソルに、ファウストは、ソルさんはどこまでエルフェルトさんの症状を知ってますか?と質問をする。

「そもそもだ、エルフェルト…いや、“ヴァレンタイン”に発情期なんぞつけた理由は何だ?」

「私もそこが気になり、同じヴァレンタインであるラムレザルさんの血液鑑定をさせて貰いましたがそんな傾向は一切ありませんでした。

念の為もう一人の元ヴァレンタインであった、ジャック・オーさんの血液鑑定もさせて貰いましたが、こちらもそんな傾向は一切無かった。
そして、エルフェルトさんの検査にて、一つ判った事があります。

彼女は極少量ではありますが、兎のDNAが混ざっていた事がわかりまして、

どうやらそれが今回の無茶苦茶な発情期の発症に関わっているようでして…」

「…兎だと!?」

ソルの驚きに、カイが、それには補足がある。と説明していく。

「その点を私も気になって、厳重体制で隔離されている“慈悲無き啓示”本人に聞いてみたんだ。

なぜ、エルフェルトさんをそんな風に創ったのかを。そうしたらば、『あの子は、新人類の第一の母になる存在だった。

だから、沢山子を産まなきゃ人類は増えない』そんな答えが返ってきたんだ」

「それにしてもだ…なぜ兎である必要がある。発情期なんぞ面倒臭えもんに頼るより、

人間の万年妊娠期間の方がよっぽど効率が良いだろうが」

「ああ、それは私も思った疑問だった。でも、それ以上は慈悲無き啓示本人から、自分で考えろと言われてしまったよ」

「…いや、強ち…人の方が優れてるとも限らないかもしれませんよ?人の身だと、雌より雄の方が生殖活動的には盛んです。

まあ…そんな事をカイさんやソルさんを前に改めて説明する必要は無いのですがね。

ですが、兎の雌は発情期になると雄に接触しただけで擬似妊娠をしてしまう程、生殖活動が盛んになります。
発情期が来ると、エルフェルトさん自身の気持ちとは関係無く、生殖欲求に苛まれます。

いわゆる強制的に生殖活動が出来る男性を探してしまう。これは人の女性には無い行動パターンです」

「あの…でも、ファウスト先生から処方されたお薬で、エルフェルトさんの症状はだいぶ軽くなっていましたが、

どうして今日、急に症状が悪化したのでしょうか?」

「それは、ある一つのキーワードがあります。先程、貴女はソルさんの名前をエルフェルトさんに語りましたね?」

「あ…そうですね…。エルフェルトさんは、ソルさんの事を慕っていましたから、きっと嬉しいかもって」

「…その慕う心が、彼女の“秘めざる気持ち”だったのならば、皆さんは彼女とどう向き合いますか?」

 


 

bottom of page