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​紅と黒の残されし遺物 【序章】

・西暦2172年 カイが聖騎士団団長就任前に死亡、ソルに団長の座を託す。
  ソル、騎士団を脱走せずカイの遺言により団長に就任。副団長をポチョムキンが担う。

  (かつてのポチョムキンの上司、ガブリエルも何らかの形で死亡したと思われる)
・西暦2175年 団長ソルとクリフによりジャスティス撃破。ジャスティスとの死闘により、クリフ死亡。
・西暦2178年 聖騎士団とディズィー率いるGEARが全面戦争。テスタメントがディズィーの直属の部下に。

  〜GUILTY GEAR 紅と黒の歴史〜







◇◇◇◇◇






「カイ=キスク、君は“君が存在しなければ世界が存続しなかった”

そんな世界線を信じるかい?」

古い通信システムなのか画質は荒い。だが、そんな事を気にしない“月の住人”は

もう何度目かの通信対話にて、まるで日常会話の挨拶のように言葉を投げかける。

「いえ私は、自身をそんな大それた存在だと認識はしていませんよ。だが確かに、必要とされるのならば出来うる限り、

精一杯やれる事を探します。それが私の与えられた役割だと。」

「…その“応え”がまさしく君が救世主(メシア)たる所以だ。」

「そんな大袈裟な…! でも飛鳥さん、…貴方が唐突にこの話を振るとは思えない。

…何か“意図”があるのですね?」

私の投げかけに、モニター越しに穏やかに微笑み、
“老人”の長話に付き合って貰えるかい?そんな意味深な言葉から今回の事件は始まった…


 

 
◇◇◇◇





「で、だ。…テメェと飛鳥の茶呑み時間での語りに、“只の一般人”を巻き込む理由はなんだ?」

心底、心から面倒臭いとばかりに溜息を付きながら語る通信相手に、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

「私こそ、折角の二人だけの憩いの時間を邪魔して申し訳ないとは思っている。

だが、これはお前にも確認するべき事だと判断した。」

「カイくん? 私も同席しちゃってていいの?」

「ジャックさん。ええ勿論。寧ろ貴女にも聴いて頂きたい。」

舌打ちとその反応にクスクス微笑う声が同時に聴こえる。

「…そうと決まればさっさと話せ。時間は有限だ。一時間経過すれば賃金が発生すると思え。」

「ソル、お前は相変わらず…」

「“ソル”って野郎はもう存在しないんだがな…」

「今更、私がお前を本名で呼んでいいのならそうするが? そう呼ばれる事を嫌がっているのは寧ろお前の方だろう?
…いや、その話は後にしよう。とりあえず、要点だけ手短に説明する。」






◇◇◇◇◇





「パラレルワールドの重複だあ!?ソイツはもうこの時間軸と異なる世界線だろうが。何を今更、奴(飛鳥)は気にしてやがる。」

そんなモンにいちいち気をもんでやがるとそのうちハゲ上がるぞと溜め息を付く男の声を通信機越しで嗜める。

「まあ、私も初めは同じ事を思った。が、その別の世界線と今の世界線の交わりを行き来出来る存在…

アクセルさんの存在が、この世界線の世界軸と、滅びの道に歩んだ世界軸を繋げてしまったとしたらどうなると思う?」

「どうもこうもあるかよ。アイツは“やっと出逢いたい女と出会った”んだ。
奴にそれ以上の望みがあるかよ。カイ、テメェも判ってる筈だろうが。」

「…そう、アクセルさん自体の危険度は全く無いと言って等しい。
だが…彼の偶然に得てしまった力は、世界に対する影響力が大き過ぎるんだ…私とて、彼の安寧を邪魔する事は憚れるさ…
だが今回の議題は、彼の存在そのものではなく、彼が無意識に起こしてしまったこの世界と滅びを辿る世界軸の混同を

どうにか別次元に戻し安定させるという事だ。」

「…なるほど…多分それはアクセル君だけの力が引き起こした訳じゃなくて、

かつてイノが人類に対して行おうとした力の酷使から既に影響があったせいかも。」

「ジャック・オー、お前、コイツの与太話に付き合うつもりか?」

「あら?別にいいじゃない?どうせ貴方も私も都心から離れた郊外で時間を持て余しているんだもの。

それにもう“私達”は酷使出来る力を失った。“老人”は、若者に知恵くらい授けないと!」

「…誰と誰が老人だって!?」

「飛鳥さんもジャックさんと同じ事仰っていましたね」

「ほらー!そりゃ私達肉体は若いけど、精神はもうロートルだもの。
フレデリック、貴方だって自分で言ってたじゃない。“古い化石”だって。」

「意味合いが違うんだがな。」

「はいはい、同じ事じゃない。」

そう諌めるジャックさんの言葉に思わず笑っていると、

ソルからテメェ覚えておけとばかりにあからさまに舌打ちをされて、苦笑いを浮かべた。



◇◇◇◇◇ 



「飛鳥さんの話によると、その世界線は西暦2172年、

ソル、お前なら解るだろうが、ギアとの全面戦争の最中…私の命が失われた世界線。
私も自身で説明していて、にわかに信じられない事柄も多いが、

私が亡くなる際にお前に聖騎士団団長の任を最後の願いとして託したらしい…
お前がその意思を受け継いだ事も当時の傍若無人なお前を振り返れば信じられない事だが…」

「当時のフレデリックがどんな感じなのかはわからないけど、そんなに粗暴が悪かったの?」

「悪いってもんじゃありませんね…。
“呑む、打つ、買う”。三拍子揃ってましたよ。…って、すみません!貴女に話す事ではなかった!」

「ふーん?フレデリックー???そうなんだー???」

「カイ!!!余計な情報は挟むな!!!」

「あ、いや、すまない。話を変えよう。

そして…ここから先の話は私自身、胸が痛いのだが……
私が存在しない事で団の結束が弱まり、聖騎士団は弱体化、人々は希望を失い、ギアと戦い抜く気力を失っていく…
ソル、お前とクリス団長が力を合わせジャスティスを撃ち、ギアの命令系統の操作は終わるかと思われた…が、

母(ジャスティス)を失ったディズィーが暴走、力に覚醒し、ジャスティスの力であるギアの命令系統の操作を習得、

それにより人類は境地に陥っていく…
最終戦争時、聖騎士団団長であるお前と、人類に絶望し殲滅を目論むディズィーが衝突し、そして二人とも…」

「カイくん、君の存在そのものがこの世界線の時間軸における、まさしくターニングポイントだったって訳ね。
貴方が居たから人類は希望を抱けた、そして人々は立ち上がり、ギアを退け、フレデリックは安心して騎士団を飛び出した。
貴方が居たから、フレデリックがディズィーを打ち滅ぼす事も無かったし、貴方が居たからディズィーは人々に希望を持てた。
飛鳥くんが君を救世主(メシア)って言ってた説、強ち間違いではないかも。」

「そんな大それたモノではないですよ…!」

「そうだな、コイツは目の前の悪事、不運、それらが只見過ごせねぇって“だけだ”。特にテメェ以外の悪事には。」

「その祈りの様な微かな想いが周りを、世界をも変えていくのよ。大学の歴史の講義で習わなかった?」

「生憎、俺は歴史の単位は取ってねぇな。
で?そのテメェを失った歴史がこっちの歴史を脅かしやがるから、どうにかしたいっつう話じゃないのか?…途方も無い話だがな。」

「そうだ、途方も無さ過ぎて、藁をも縋る気持ちでお前に話を聞いて貰いたかったんだ。」

「カイくん、ちょっと気になったのだけど、先程、その時代のジャスティスはフレデリックが撃ったって語っていたけど…、

それは完全に“大破させちゃった”って事?」

「いえ、飛鳥さんから聞いた話では“撃破した”とだけしか。
ジャックさん、その疑問は、何かを見出したからこその疑問ですか?」

「えっとね、ジャスティスはアリアそのものを媒体としていた。
でもジャスティスは完全体では無いのは、フレデリックもカイくんも知る所よね…?
ジャスティスはいわば、アリアの遺伝子データをバックアップするデータベース。

私がジャスティスと融合して人間に戻れたのは、ジャスティスのデータベースの設定にそう記されていたから。
ジャスティスはどの世界線でも、どの時間軸でも“ジャスティス”よ。飛鳥くんがそう設定した筈だもの。

そのデータベースを慈悲なき啓示…ううん、第一の男“ハッピーケイオス”は看破していた…。
看破していたからこそ、そのアリアの遺伝子のデータベースからヴァレンタインシリーズの模造品を沢山創り出した…」

「待って下さい…!そうだとすれば、その滅びの世界線のジャスティスに干渉し、

破壊する事無くジャスティスを無力化出来るという事ですか!?」

「そう、ジャスティスを破壊する事無く無力化、人間化出来るとしたならば、ディズィーがジャスティスを失って暴走する事を抑えられる…
カイくん、ディズィーが何も理由も無く人類に牙を向けれる子じゃない事は君が一番解っている筈よ」

「でもその理論では、ジャスティスと融合化出来る、ジャック・オーさん、貴女でしか…!」

「正しくは、“融合化出来た”…ね。今の私ではもうジャスティスを抑える力は無い。でも………」

「ジャック・オー、それ以上は終いだ。カイ、テメェもだ。」

「…フレデリック、貴方も“気付いてしまった”のね。
うん、私もこれ以上はお終いにする。ごめんなさいカイくん。
私達が言えるのはここまでよ。」

「いえ、此方こそ、ありがとうございました。
沢山ヒントを頂きました。そして貴女が語りを止めた経緯もソルが不機嫌な理由も…。

“犠牲にするものが大き過ぎる”…そうゆう事ですね。」

「カイくんは賢いわね…
そして優しい…。貴方なら、きっと正しい選択肢を選べる筈よ。」





◇◇◇◇◇





「フレデリックー?、なんか、ラムとシンとエルが今からこっちに遊びに来るってー!」

「ああ?なんだ?急に…しかも来たいじゃなく“来る”かよ!?」

「ラムがたまたま仕事終わりで此方(北米)に来てて、それに付きそうようにシンも来てた所をエルが後から合流したみたいね。」

奴らを賄う食料の備蓄なんぞ無ぇだろうが!?と頭を搔きながらぶつくさ文句を言ってるフレデリックの後ろ姿につい笑ってしまう。

そして怒られる。

「でも、先日のカイくんとのお話から考えたら、エルとラムに会うのはタイミング的にもタイムリーよね…?」

あなたはどう思う?そう問いかけると、少し苦虫を噛み潰した様な表情で、その話はもうするな。そんな言葉をフレデリックから言付けされる。

私の勘だと…もしかして…

そんな事を脳内に掠めたけど、とりあえず今は考えない事にする。

考え出したら止まらなくなるもの。



久しぶりに大勢で賑やかにキャンプファイヤーを囲みながら晩御飯を食べる。

慌ててフレデリックが食料をバイクで買い出しに行ったお陰か、大食漢のシンは満足げに食事を楽しんでる。
なんだかんだ面倒くさいとか良いつつ、フレデリックは面倒見てしまうのよね。これはどうするの?

とかこれはどうやって食べたら!?と二人の女の子に質問攻めされてる相棒(パートナー)を遠くに見つめながら

私は丸太で作ったベンチで脚をブラつかせて星を見つめる。

やっぱり昨日のお話が脳裏に焼き付いて離れないな…

このタイミングでエルフェルトが此方に来た理由も知りたかった。
自ら軍に志願して世界中駆け回ってるラムレザルや、そのお供として付き添ってるシンならまだしも、

エルフェルトはディズィーと共にお城から離れる事は滅多に無かった。

私が“目覚めて”から、エルフェルトは意図的に“私達”、ううん、フレデリックから距離を取ってるように感じていた。
フレデリックがエルフェルトに気を掛けてる想いのバランスより、不自然にエルフェルトは激しく遠慮をしているようだった。

エルフェルト、あの子はある意味もう一人のアリアの欠片だ。ラムレザルもアリアの欠片だけど明確な違いは只一つ。
アリアを目覚めさせる役割を担っていたかだ。アリアを目覚めさせる役割なだけのユニットである私も、

アリアの遺伝子の影響なのか解らないけど、ジャック・オーとしてこの人(フレデリック)に惹かれた。

私は只の役割。この人を愛してはいけない。そんな想いを抱き悩んだりしたのは、

もしかしたら“私だけでは無い”のかもしれない。そんな事をふと思う。

これは只の女の勘だけど、フレデリックは明確にエルに対する態度が違う。

言語化は難しいけど、難しい時期の女の子に対する男性特有のたどたどしい態度というか、

私の前では何時も何もかも素をさらけ出してるのに、エルの前だと妙にカッコつけたがりというか、なんというか。
ラムとシンに対する砕けた態度とディズィーに対するぶっきらぼうだけど優しい態度ともまたちょっとニュアンスが違うから、

私は少しだけふてくされる事にする。

なるほど…これがいわゆる嫉妬って感情ね。とバーベキューの串にかじりつきながら、ずっと見つめていたエルと視線が合った。
エルは何かを強く決意した目線で私の方に歩いてくる。

やっぱり何かあったのね。

そんな事を悟りながら、私はエルを出迎えた。





◇◇◇◇◇





「エルフェルト、元気だった?」

「はい!それはもうお陰様で…!」

「ラムとシンは割と頻繁に此方に来てたから何度も会ってるけど、エルとはなかなか会えなかったから嬉しい!」

「はい!私もです!お二人ともお元気そうで良かった…!
そうですね…こうしてイリュリアから外出するのも実はかなり久しぶりなんです…!

でも、もうきっとこの景色に触れられるのは…最後だから………」

「え!?」

「あ!いえいえ!なんでもないんです!」

「…エル、今のタイミングで“私達”に会いに来た理由を教えて欲しい。
貴女の今の口振りから、私が抱いてる不安と一致するのよ…」

「ジャック・オーさん…」

「貴女は私と同じ“アリアの欠片”だもの。
貴女はもしかして、カイくんから、別世界軸の干渉についてお話を聞かされなかった?」

「いえ…カイさんから直接は聞いていないです。でもカイさんとディズィーさんがお話されてる内容を偶然聞いてしまって、

私…それでいてもたっても居られなくなって…!」

「エル、落ち着いて?カイくんが貴女に直接伝えていないと言うことは、貴女にその役割をさせるつもりは全く無いという事。
だってそうでしょう?“それを貴女にさせる“という事は、貴女を滅びゆく世界線に向かわせる事と同義だもの!」

「いえ、寧ろ私は、その世界線に向かいたいんです。
でも、皆さんが反対する理由も理解しています…」

「エル…」

「こんな事、ジャック・オーさんに言う事は物凄い罪だと思って今までずっと心に秘めて出さずに居ました。でも…」

「ううん、大丈夫。きっと私も貴女も同じだもの…」

「ソルさん」
「フレデリック」

 

「「が好き…。」」
 


「ね?」

「ジャック・オーさん…」




◇◇◇◇◇




「いえ…正しくは、私は“ソル=バットガイ”さんという男性が好きだったんです。

そもそも私にとっては“フレデリック”さんという方は良く存じ上げて無いですし、例えソルさんがフレデリックさんであっても、

私が愛する男性はソルさん、ただ一人だけなんです…」

「でも、“ソル=バットガイ”という男性は消え、今は“フレデリック”として生きている…」

「そうです。でも、その事について、悲しいとか悔しいとかそんな感情は一切無くて、

心から幸せそうな“かつてのソルさん”を見て心から良かったって思えました。ですから私はゆっくりでも、

この恋に終止符を打てると思っていたんです…。でも…私、私は…知ってしまいました!
もし…少しでも可能性があるのなら…もう一度“ソルさん”に逢いたい。“ソルさん”の近くに居たい…。“ソルさん”の助けになりたい…
そんな風に思ってしまったんです…!」

「エル…、それは…茨の道よ…。貴女の安全など何も保証出来ない、向こうの“フレデリック”が貴女を信用してくれるかも解らない。

誰の助けも無く、無駄に貴女の命を散らしてしまう可能性すらあるわ。
それに、貴女を大切に想う人達が貴女を滅びゆく世界線に喜んで渡らせる筈も無い…、

私は勿論、ラムもシンも、ディズィーもカイくんだって、皆が皆反対すると思う。

それに、貴女が向こうの世界線に行きたい理由を知ったフレデリックは誰よりも激怒するでしょうね…」

「ど、どうして…?」

「エルフェルト、貴女は“フレデリック”に自分のかつての想いを伝える事はしないと言っていたけど…、

貴女が本気で滅びゆく世界線に向かいたいなら、フレデリックに何もかもを打ち明けた方が良いと思う。
一番あの人を説得するのが困難だもの…、嘘や取り繕いも効かない、理論武装なんて以ての外、三倍になって返ってくるわ。

本音をぶつけてやっと聴いてくれる感じね。」

「私の想いを伝える事は、それこそ“フレデリックさん”やジャック・オーさんにご迷惑なのでは…!?」

「フレデリックに関しては聞いてみないと解らないけど、私に関してはなんとなくエルはそうなんじゃないかってずっと思ってたの。」

「え!?」

「一年前…私が目覚めてから、エルフェルト、貴女は態とフレデリックに対して距離を取ってるように見えたの。

まるで何かの気持ちを悟られないように…
人間、抱いてしまった“欲に良いも悪いも無い”のよ。
そりゃあ確かに貴女が気持ちを伝えて、私がフレデリックからふられるとかなら私も抗うけど、その事と、

貴女が自分の気持ちをフレデリックに伝える事は全くの無関係よね。
それに貴女の望みは、自身の“過去への決別”。
貴女は現在存在している“フレデリック”ではなくて別の世界線で存在しているであろう“ソル=バットガイ”に逢いたいと熱望している。
その想いは例え過去にソル=バットガイ本人であった、フレデリック自身でも説得は不可能よ。」

「そう…ですね…そうかもしれないです…」

「今が丁度、気持ちを伝える良いタイミングじゃない?
ラムとシンが水辺の方で戯れてて、キャンプファイヤーの後片付けしてるフレデリックから離れてるもの。ほら…エル!行ってらっしゃい!」

「え、えええ!?い、今から…!?」

「思い立ったら吉日ってね!
大丈夫!フレデリックがブチ切れたらフォローしに行くからー!!!」





◇◇◇◇◇





「何だ?エルフェルト、退屈にでもなったか?」

声をかけずに後ろから近づいただけなのに、“ソルさん”…ううん、“フレデリックさん”は、すんなりと私だと認識して声をかけてくれた。

「あ、あの…“ソルさ…” いえ、“フレデリックさん”…?…それともお義兄さん???

あれ…?私、貴方の事どのようにお呼びすればいいですかね…?」

「何でも構わないが、エルフェルト、テメェの前で俺は“フレデリック”で居たつもりは一切無いな。…深く考えんな、

“今まで通り”でいいだろ。そんでもって、最後のは何だ…?とりあえず、最後のだけは…止めておけ…」

最後の呼び名に心底嫌そうに眉間に皺を寄せるからか、つい可笑しくて笑ってしまう。

「あ、はい!そしたら、“ソルさん”。私、貴方にお伝えしたい事があるんです。」

「…さっき、ジャック・オーと何かしら話込んでたヤツか。
あいつに何か変な事吹き込まれたか?」

「いえいえ!私がジャック・オーさんに色々ご相談させて貰っていたんです。

…ソルさんも、きっとカイさんからお話を聞いてると思いますが…
私、此方の世界線を干渉している滅びゆく世界線に行こうと思うんです。
あちらの世界線にジャスティスが肉体だけでも存在しているのなら…私がそのジャスティスを破壊せずに無効化出来る筈だから…。
そうすればきっと向こうの世界線のディズィーさんの暴走も止められて、そうしたら、少しでも滅びの道を避けれて、

此方の世界で、向こうの世界線からの滅びの影響も無くなる筈です…!」

「おい待て!テメェ!!!己が何言ってんのか理解出来てるのか!?
あの時代、戦争真っ只中の地獄絵図だ。優しみも慈悲も無い。テメェみたいな小娘(ガキ)が渡り歩ける場所じゃねぇ!!!
綺麗に死ねるならまだ本望だ。手足が食いちぎられる。ギアに命をもて遊ばれて即死すら叶わねえ。

雌の身なら、野党に狙われ人身売買されるならまだマシだ。ギアに巣に持ち帰られて、苗床として奴らに寄生される事すらある…!!」

“ソルさん”が私に畳み掛けるように、私の肩を掴み真剣な眼差しで訴えてくる。どんな意見も揺るがないと決めてた筈なのに、

貴方の視線と言葉は私の心をグラグラと揺さぶりをかけてくる…。でも…でも!!!

「でもだったら尚更…!そんな酷い世界線に、向こうの“ソルさん”を一人になんて…させておけません…ッ!」

「テメェ…一体何言って…!?」

「…私…貴方の事が好きです…!いえ…正しくは…ソルさん…貴方の事が好き“でした”。

でもこの気持ちは、貴方に伝えず自分の中で永遠に秘めるつもりでした…。

貴方とジャック・オーさんの幸せそうな姿を拝見したら、とてもじゃないけど、私が入る空きなんてありませんから…
でも、たまたまお城の中でカイさんとディズィーさんが会話されてる内容を耳にして、私…いてもたっても居られなくなったんです…!
その世界線の滅びの道を変えられるかもしれない!
“お母さん”に創られたこの身体は、どの世界線だとしても『ジャスティス』ならば融合出来る筈です。
『ジャスティスが破壊されなく存在してるかどうか。』
『私が自力でジャスティスが存在する場所まで辿り着けるかどうか。』
『向こうのソルさんに信用して貰えるかどうか。』
いくつかの難問は確かにあります!でも、それは実際に行ってみて、やってみないとわかりませんから!」

「エルフェルト…テメェは自身の下心の為だけに戦場に行くと言うのかよ…!?」

「なっ!?下心…!?」

「テメェの事だ。てっきり、また異世界で婚活したいだなんだと言い出すかと思いきや…、

いや…それよりも“よりくだらねぇ事”に執心してやがった…!」

「ソルさん!貴方が過去に経験してたかもしれない事柄なんですよ!?
それをよりくだらないだなんて…!?」

「エルフェルト、テメェにとっては只の物語に過ぎないが、俺はその話の途中までは鮮明に記憶がある。
その最悪の世界線を“途中から改変した奴ら”が居る事もだ。
その世界線は、“改変出来る莫大な力を持つ奴等”が必要無ぇと呆気なく見捨てやがった世界だ…!

そんなモンにテメェが首を突っ込む道理は何だ?…己の欲でしか無えだろうが…!」

「…欲で何が悪いんですか…!?此方の世界でも色んな事がありました…そして貴方のお陰で、世界はまた安寧を取り戻しました…!
ラムは此方の世界でやれる事をってどんどん前に進んで行きます。
私は…この宙ぶらりんな気持ちが邪魔をして、どうして良いのかずっと解らずにいたんです。私は何の為に生まれてきたのだろう…?

そんな気持ちを抱えたまま…」

「テメェはまだ生まれたばかりだ。この世界の人類ですら長年生きてきて見つけられてねぇ“答え”を、生まれて数年しか経ってないお前が“そいつ”を簡単に見つけられるなら、人類の立つ瀬なんぞ無いな。」

「私、人類になりたくても、“まだ人類じゃありません”もん…」

「俺は“奴にコアを抜かれた”が、細胞的には人間じゃねぇ、まだバケモンだ。ジャック・オー、あいつもだ、“中身”に融合を拒否されてな…

人間になり損なった中途半端なバケモンだ。
飛鳥さんぞ、自ら魔改造してバケモンになりやがった。
カイの野郎もだ…アイツの場合は…頑なに原因を語ろうとしないが、バケモンに覚醒しやがったしな。

カイの嫁はそれこそ、生まれながらのバケモンだ。テメェの姉も、シンの野郎もだ…細胞的にはバケモンだが、

心根は人類に適性してってやがる。
どうだ?テメェの周りには、寧ろ純粋な人間なんぞ居ないだろうが。」

「確かに…そう言われたら、何も言えなくなっちゃいますよ…」

「テメェは今のままで“人間になっていけばいい”
人間たる理由が何も遺伝子情報だけで成り立ってる訳じゃあない…」

そう優しく私を諭すように見つめる貴方に、私は苦笑いを向かながら遠くに想いを馳せた。

本来の目的とは違っちゃったけど、伝えたい事は伝えれた…
自分の胸の位置で片手をギュっともう一つの掌で握りしめる。

“ソルさん”…私行ってきます…

そう心の中だけで呟いた。










◇◇◇◇◇◇









昨日の夜に貴方に最後の挨拶をして…
シンとラムと、イリュリアに帰る為に列車に揺られながら車窓の景色の遠くを見つめる…
私の想いをバレない様にいつものように明るく沢山話しながら、次の途中休憩の為に列車が止まるであろう場所に想いを馳せた。

私に今回の事の真相の全てを話してくれた張本人がそこに居る筈。
私は少しお手洗いに行ってくるね?と言付けて、一人乗っていた列車をこっそり降り、持っていたチケットのデータを通し改札を通り、

ただただ何もなく、広い荒野に向かってひたすらに歩いて行く。






「…………、もう、そこにいらっしゃるのでしょう?“第一の男”さん…。」

誰も居ない筈の荒野に、まるで独り言の様に話しかける。
その次の瞬間、時空が歪み周りの空気が震え、次の瞬間には、筋肉質だけど
少し華奢で背の高い、肌の色は人のソレとは異なる色をしていて、不思議な形のサングラスの奥の視線は、

好奇心の塊の様に此方を見つめてくる。

「…そうだね、エルフェルト。良く来たね…!
『第一の男』か…。確かに“それ”も悪く無いけど…君にはもっと別の呼び方を所望したいな?…君は“僕の娘”だからね。
そうだ…今から僕の事、気軽に“パパ”って呼んでみない?」

そんなゆるい感じで声をかけてくる目の前の男性に、私は思わずムッとして少し睨みつけてしまう。

そんな私の態度が心底嬉しかったのか、「いいねえ、その表情!」とよくわからない絶賛をされる。
やっぱり“お母さん”の中に存在していた頃から、“この人”の事は理解出来ない…

そんな事を心の中で思いながらも私は真っ直ぐと彼を見据えた。

「でも、本当に良いの?
コレは僕からの提案ではあるけれど、“向こう”に行ったら、もう此方に帰ってくる手立ての可能性は著しく低くなるよ?
勿論、全く不可能って訳では無い。けどね、その確率を引き当てるのは神の奇跡を待つ程のモノだ。

………、好い眼だね。うん…、君が…本気だって事は理解出来た。
僕が君に今出来る事は、君を向こうの世界線に渡らせる事。
君が…向こうの世界で成すべき事は、戦場で壊されかけてるジャスティスの肉体を見つけ出し、その肉体の魂の欠片と融合する事。

ジャスティスは、ギア一号機としての役割だけじゃなくて、飛鳥君がアリアの遺伝情報を保存する為のバックアップとしての役割もある。
その鍵として、飛鳥君は僕に隠れてこっそりとアリアの格として“ジャック・オーを創って”いたけど、僕が創った君は当然役割が違う。

その鍵の構造を解析して、エルフェルト…君を創ったから。

飛鳥君はアリアという人間をオリジナルそのままに世に戻す事を目的としていたから、色々なバグや想定外が起こったけど、エルフェルト、君に関しては、よりジャスティスと融合しやすい鍵としての役割を求めた。
ある意味、本物であるジャック・オーよりも、ジャスティスと適合し易いという利点があるね。
贅沢を言うなら、純度の高い高エネルギー体があればより早く融合しやすくなるんだけど、

それは君が向こうの世界の“ソル=バットガイ”に頼んで、彼からエネルギーの調達をしてもらえば良いと思う。
まあ…君がそこまでの段階にたどり着けれたらの話だけどね。

それじゃあ…エルフェルト…!

君にとっての幸福を…!」











◇◇◇◇◇◇











何かとてつもない見過ごしをしたかのような胸騒ぎがして、

慌てて夜中、外でスペースシップで作業してるフレデリックの元に駆け込む。

まだ寝てなかったのか?と、目を焼かれないように着用していた作業用の保護レンズを外し、私の姿を見据える彼に、
何か物凄く嫌な予感がするのよ…と一言伝えれば、フレデリック、彼も何かを察して眉間に皺を寄せた。

「ったく…余生を愉しむって言った矢先にこれかよ…」

口先ではいかにもな面倒臭いと言いながらも、その表情は深刻で、
フレデリックは通信法力の魔法陣を掌に生み出した。
通信先は、もれなく…イリュリア城…

やっぱり…フレデリックも…気づいてたのね…


「ソル…!私からもお前に連絡をする所だった。」

通信先のカイ君の声色に、やっぱり何かしらの事件が起きたのだと把握する。

この胸騒ぎは当たって欲しくは無かった。

でも、もうきっと…、彼女は………

 

 


 

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