DORAGON
DOES
HISUTMOST
TO HUNT
RABBITS
D
oragon
rabbits
&
R
リリンはリリスの身代わりに、アダムと闇へ堕ちていく。
珍しく、夢を見ていた…。
もう、久しく思い出す事など無かったはずの…
曖昧な記憶………、。
◇◇◇◇◇◇
「お前、誰だよ。」
やっとの事、常に自分に付きまとうウザいベビーシッターの視線を撒き、一人で公園のベンチに座り、
母がいつも自分に読み聞かせてくれた本を広げ、読み始めようとした時に、そいつは現れた。
まだ10歳にも満たない自分ですら、あまりにもレトロだと解る八十年代の英国のバンドマンらしき格好に、羨ましいほどの金髪と白い肌。
その長い金髪を垂らした頭を英国のバンダナで包み、その人懐っこい笑顔が、なんとなしに気に食わない。
「ワァーオ!こんなに小さくっても、“旦那は旦那”なんだねぇ〜!こーんなガキンチョでも、愛想が無いとは!お兄さん泣いちゃう!」
態とらしく泣くふりをする目の前の男を無視して、広げた本を読み直そうとすれば、
「ちょっと!ちょっと!無視は良くないよ!無視は〜!!」などと喚いているが、こうゆう輩は一切合切構わないに限る。
母さんも言っていた。知らない人にはくれぐれも注意しなさい。と。
「ふ〜ん?フレディ君!君がぁそ~ゆう態度取るなら、お兄さんにも考えがある!!この写真をご近所にばらまいても良いんだぞおー!!」
奴が見せてきた写真に、俺は血の気が引く感覚を感じ、慌てて取り返そうとするも、
背丈と体格の差が大きく、呆気なくかわされてしまう。
「…お前っ…!その写真っ!!一体どこでっ…!!!」
「ハッハッハ!聞きたい?聞きたい???そりゃあ、聞きたいでしょう〜!!!
でもぉ〜!君の態度に、お兄さん傷ついちゃったなぁ〜?まず、君にはしなきゃならない事がある!わかる?」
「無視してごめんなさい。」
「よぉーし!謝らないなら、お兄さんにも考えが…って…へっ!?あら。やけに素直なのね?」
「そっちから謝れ的な事を言っておいて、素直も何もないだろ。謝ったから、写真を渡すか、捨てるかしろよ。」
「かぁーっ!!可愛くないねぇ〜!その可愛くなさが、また可愛いんだけどねぇ〜。」
「お前…なんで俺の名前を知ってる?プライバシー法が聞いて呆れるぜ…。」
「こーんなオチビちゃんな癖して、この頃から賢かったのね。フレディ君は。
俺様は特別なの!なんなら、君のあらゆる事を知ってるぜ?」
凄いでしょ〜!とドヤ顔で語る男に、嫌な予感がして、さっさとその場から離れようとすれば、腕を捕まれてしまう。
思わず、離せっ!!この変質者!!!と喚きそうになった所を、口を抑え込まれる。
「…ちょっ、ちょっと!!失礼しちゃうなぁ!!俺だって、君みたいな野郎のガキンチョなんか興味無いって!!
なにせ俺には!“めぐみ”っていう、可愛い可愛い彼女がいるんだかんね!!」
「めぐみ?」
「そうそう!美人なんだぜ〜!綺麗なツヤツヤの黒髪を肩まで伸ばしててさ!東洋人にしては白いお肌でツルツルなの!
容姿もさることながら、性格も優しくてさぁ。あれこそ!ヤマトナデシコってやつだよねぇ〜!」
目の前で惚気始める金髪野郎に俺は呆れつつ、奴が語った惚気相手の人種に違和感を覚え、面倒臭い問題と理解しつつ興味本意でつい問い掛けてしまう。
「お前…純粋な白人な癖して、黄色人種と付き合うのかよ…。肌白いといっても、異国人なのに…。」
そう言葉を呟きながら、自分や母を、肌の色が異なるだけで蔑む視線を突き付けてくる奴等の顔が脳裏に浮かび上がる。
ふと目の前の男の表情を見上げれば、先程のヘラへラした笑顔が消え、真剣な眼差しで、此方を見つめてきやがった。
「フレディ。君は、肌の色でその人の全て判断しちゃうのかい?君の肌も白人のソレとは違う。それは、君のお母さんがそうだから。
でも、君のお母さんは、白人の人達と比べて何かが劣っているかい?」
「そんな訳無い!母さんは…!」
「そう。わかってんじゃない。君の住んでる地域は、白人至上主義がまだ残ってるんだねぇ。
“俺の生まれた時代”に比べたら、幾分マシにはなってきてるけど…。
今は色々辛いかもしれない、でも!頑張って居れば、君にはいろんな出逢いがある!
俺みたく!めちゃめちゃ好きな娘ができたりしてさ!付き合っちゃったりしちゃったりできる!」
「………そんな訳あるかよ…。“アイツ”はこの街の市長の娘で、あの市長は根っからの白人至上主義者だぜ…。」
「“アイツ”って、アリアちゃんの事?」
「!!?」
「ほっとうに、フレディ、君はわかりやすいねぇ!さっきも言ったでしょ?俺に知らない事はないってさ!
…いやいやいや!だから…違うって!そんなお顔で見ないでちょうだいって!」
座っていたベンチから立ち上がり、慌てて電話ボックスまで脚を運ぼうとした俺を捕まえて、ストーカーじゃない!ストーカーじゃないから!と慌てて訴える男に、思わず吹き出してしまう。
「お前がストーカーじゃないなら、何だっていうんだ。…まさか、“未来から来た”とかでもいうんじゃないだろうな!?」
「さっすが…!“旦那”…!ご名答!!って、あ、いやいや、こっちの話!」
「…………。平行世界。パラレルワールド…。いや、まさか…。」
自分が最近、読み漁っていたSF小説が脳裏に過り、思わず、目の前の時代錯誤な格好をした男をマジマジと見てしまう。
そして、必ずそのSF小説での平行世界の時空の旅人には、何かしらのルールが課せられている。例えば…。
「未来が変わってしまう関わりをしてはいけない…。」
ポツリと呟いた言葉。その言葉に「あー!その点は大丈夫!“この時代”はつかの間の………いやいや!なんでもない!!」
と笑顔で濁した男に、何故旅行者より、偶々コイツに関わってしまった存在ってだけの自分が、気を遣ってんだ…と、頭が痛くなった。
「“お前は俺の未来を知っている。だが、お前の課せられたルールで、その事を今の俺には言えない”
そうゆう仮定で今から俺はお前と語るから、お前もそれに合わせろ。いいな?」
「…お前じゃないぜ?…俺様にはアクセルって素敵な名前があるからさ、そう呼んでくれない?フレディ♪」
「……わかった。」
◇◇◇◇◇
「…………随分…待たせてくれたじゃねぇか…。」
目の前の…自分が貪るように嬲り殺したギアの死体に寄っかかり、先程懐から取り出した一本を口に加える。
くしゃくしゃになった煙草のケースを地面に投げ、使い古したジッポライターを点火し、煙草の先端を炙った。
硝煙か自身の煙かわからない視界の中から、この灰色の景色には余りにも似つかない。真っ赤なバンダナと太陽の光のような煌めく金髪。
使い古したデニムのジャケットの下には、奴のアイデンティティである産まれた自国の国旗を羽織り、初めて見かけた時は、
いかにもなギャングテイストな半パンデニムでは無く、今はロングパンツのデニムを身に纏っている。
「やっほー!旦那ー!元気してたー???」
初めて見かけた時と全く同じのテンションに、俺の血液は沸騰寸前だった。
思わず無意識で、奴の襟元を掴む。
「…っ!?ちょっ!!!ちょっと!!!タンマ!タンマっ!!!」
「……俺は…“あれから”テメェを探した…。探し続けた………。」
この一言で、全てを察しやがった目の前の男は、顔を少し歪ませた笑顔を向けて、言葉を紡いできやがる…。
「………ごめんね、旦那。“そいつ”は俺にもどうにもなんない。
俺は、俺の思った通りに行きたい時代に行ける訳じゃないからさ。」
抵抗なくされるがまま、心底悲しげな目の前の野郎の笑顔に、俺は毒気を抜かれ、掴んだ襟元を離す。
地面にいつの間にか落ちていた煙草を「あーあ、コレ、最後の一本だったんじゃない。」と拾い渡してくるからか、
無意識に手を伸ばした。
少しホコリを払ってもう一度火を付け煙を肺で満たす。
頭に靄がかかるこの感じに身を埋める。
「すっかりと、まあ〜やさぐれちゃって。あの頃の可愛い面影はどこへやら。」
「黙れ。」
「はい!ごめんなさい!」
「アクセル、テメェ、何しに“此処”に来た?」
「それが“判れば”いいんだけどねえ。さっき偶々この時代に飛ばされて来たからさ、
次いつ何処で、何処に飛ばされるかもわかんないんだよね。せめて未来に行くか過去に行くかだけでもわかったら便利なんだけどさ。
旦那の格好でなんとなーく?今の時代は把握出来たけど。」
「テメェのその言い草だと、まるで既に、今より遥か先の未来すらも見てきたと言わんばかりじゃねぇか…。」
「まぁ、ね。…でもさ。未来に何が起きるかとかは、事細かく言えないんだよねぇ。俺様も伝えたいのは山々なんだけど、
多分、言葉自体発せられない縛りが発生しちゃうかなぁ…!みたいな?」
「……だろうな。」
「あ!!やっぱりわかってたんじゃん!わかっててカマかけるとか、相変わらず旦那はえげつないねぇ〜!」
「で、テメェはこれからどうする?俺はテメェに構う時間なんぞねぇぞ。」
「旦那ならそーゆーと思った!…ま、俺様に関してはとりあえずいつも通り気ままにさ、
“流される”ままこの時代を散策しましょっか。って感じ。あっ、そうそう!旦那ー!この時代のおいしい飯屋かバー教えてくれない?」
「ああ!?」
「ほら!旅は道連れ、世は情けってね!」
◇◇◇◇◇
「てか、そんな仰々しい格好でさー、こんな夜の色っぽいお姉ちゃんがひっきりなしに誘ってくる場所に来ちゃうとか。
それ、聖騎士団の制服でしょ?」
バーボンのストレートを片手に、空いた手をこちらに向けからかうように指を指して来やがる野郎に、
俺はウイスキーを煽りつつ一言声をかけた。
「アクセル、テメェは今まで“何度行き来”してきやがった?」
「いやー、最初は数えてたんだけど、途中からわかんなくなっちゃったんだよねぇ。」
「だとしたらだ、この光景はテメェにとっちゃ、見慣れてるだろう。」
「はっはーん、なるほどね。俺からの断片的な情報から、推測していく感じね?」
そーゆー事なら協力するよー?と肩をすくめる奴に、さっさと答えろとせっつけば、
せっかちなのは相変わらずなのね。そんなんじゃ、未来のかわいこちゃんに嫌われちゃうぜー?等と、
訳のわからねぇ事をほざきやがった。
「…ああ"!?」
「やっだなぁ!そのまんまの意味だぜ?
旦那はさ…その内、可愛いかわいーい真っ白な兎を一匹飼う。
その兎は旦那にべたべたになついている。旦那もまんざらではない。
でも、旦那が下手撃つとその可愛い兎はさ、一匹の雄ライオンにかっさらわれちゃう!
ちゃんちゃん!おしまい!なんつってー!」
「…テメェのワケわからねぇ未来予言か。」
「そんな仰々しいもんじゃないって。強いていえば、旦那の幸せの話?」
「…そんなもんに興味は無ぇ。」
「“今の”旦那はそうだろうねぇ。でもさ、頭の片隅に留めておいてよね?これは俺様からの、旦那に対するプレゼントだからさ。」
◇◇◇◇◇
「………っ、アクセル…あの野郎…………」
外の風が、張ったテントの布を鈍く叩きつける。
風の強さに煽られ入る隙間風を頬に感じるも、身体は冷えずにいたのは自らの腕に抱えた柔肌が温いからか。
見せつけられた夢見の悪さで頭痛がする、思わず開いた右手で頭を抑えた。
その拍子にふと視線を下に向ければ、己の右肩にかかる重さに目が向く。
ーーーー旦那はさ、その内、可愛いかわいーい真っ白な兎を……
「……白い…だと?そんなもん、もうとっくに変わっちまってるだろうが…」
自らの肩にかかる薄朱色の艶の束をそっと掴み、重力に任せて梳いて行く。
サラサラと空気を透く、朝日を通す絹糸の様なそれは、まるで赤い光を放ってるかの様に見えた。
俺が動いたからか、眼下の奴の整った薄い眉が不快感を示す。その仕草に、ふと嗤いが込み上げる。
「…エルフェルト…やっとテメェが自らの意識で、俺の所にまで“堕ちてきやがった”んだ…。
そう簡単にこの深淵から昇らせはしねぇよ…。」
覚悟しろ。
そう呟きながら瞼の上からそっと口付けを施した。