DORAGON
DOES
HISUTMOST
TO HUNT
RABBITS
D
oragon
rabbits
&
R
例え身体が分かつとも彼女は著しく“彼女”だった。
何故、こんな事をしたのかと、私達が問いても、彼女の口からそれを語られる事は無かった。
そりゃあそうよね…。
フレデリックがちょっと半ギレで、扉を乱暴に開け放ち誰よりも真っ先に部屋から出て行く、
シンは言いたくなったらまた呼べよな!と笑顔で出て行き、
ラムは少し躊躇いながらもシンの後について行った。
エルの部屋には、私とエルの二人きり。
あの…行かないんですか…?とエルに聞かれて、
せっかくだから、二人で話さない?とフランクに問いかけると、
エルは少し戸惑いながらも、はい…と返事をしてくれた。
「単刀直入に言うわ。貴女の今回の事件の原因は、フレデリックに恋煩い起こした事が原因よね?」
「はい………。って!?
うええええええっ!?な、なななななんでっ!?」
座っていたアンティーク調の椅子を
思い切り倒してエルは立ち上がる。
思いっきり動揺している様に私は思わず笑ってしまった。
「貴女が消えた日の行動を事細かに調べていったら、すぐ分かったの。
それに、貴女は“私”だもの。同じ人好きになるくらい容易に予想出来る事よね。
そして、その気持ちに気付いた貴女は
私に申し訳が立たなくなった。だから、消えた。
そこに、私の心の欠片を戻したがっていたギアメーカー…飛鳥くんが、
貴女に近付いた。こんな所かしら?」
にこやかに淡々と説明してる最中も、エルは、まるで何かの罪を犯した犯罪人みたいに罪悪感で一杯な表情をしている。
「…私の事…何とも思わないんですか?
私…がソルさんと二人で居る姿に心がぐちゃぐちゃになって…
恋人同士だからそれは当たり前なのに…、私、貴女に嫉妬して…っ」
「多分、そんな私の嫉妬心や恋心は、エル…貴女の心になってしまったのね」
「…辛くは、ないんですか…?」
「うーん、特別辛さは感じないかな?
だって、過去の私が望んだ事は今全て叶っているから。
…私ね、フレデリックと出会う前は天涯孤独だったの。家族に渇望していた。
家族が欲しかった。一番最初にそれを叶えてくれたのはフレデリック。
そして、二番目はお腹に宿った赤ちゃん…。
でも、私はその家族を守れなかった…。
そしてそのせいで色んな人達の人生を私の手で終わらせてしまったわ……。
今ものうのうと生きている私にこんな事言う資格なんて無いと思う…。
でも、あえて言わせて?
エル、貴女に会えて嬉しい。
勿論、フレデリックやディズィー、カイくんやシン、ラム、
皆に会えて嬉しいと思ってしまう…
重罪人なくせして、こうして胸が温かくなるのよ…。
それにね…?コレは同じ人好きになった貴女にだけ特別に教えたい事…。
フレデリックは、私との約束守ってくれてたの。
不治の病にかかって、あともって数ヶ月の命…。
フレデリックはきっと私が不治の病に犯されてる事を知ったら、私を独りにしてその病を治す事に奔走してしまう…
それが哀しくて、病気の事長い間言えなかった。でも結局バレて、
私は治療して治る事より命が途切れるまで貴方と一緒に過ごしたいって言ったら、あの人、私になんて言ったと思う?」
『俺の前で無駄とか…無理とか、そんな言葉を使うんじゃねぇ』
エルがつぶやいた言葉に私は驚きとともに、その言葉を伝えたい人に貴方はまた出会えたのねと、掌を胸に当てる…。
「そう、まさにそうなの…!エル!ご名答…!」
そう答えると、エルはぎゅうっと自分の両手を祈るしぐさをして、私に強く語りかけてくれた。
「その台詞は、ソルさんが“アリアさん”を強く想っていても離れ離れになってしまう運命から逃れられなくて、
最後まで足掻き続けた想いからの言葉だったんですね…」
胸がきゅうってなりました…。
涙が、溢れてきて…。
なんて、なんて…深い愛…なんだろうなって…!!
そういいながら涙を溢すエルを私はそっと抱きしめた。
◇◇◇◇◇
「それでね…?フレデリックったらお前こそワガママだ!とか言い出して聞かなくって…!
でも、何だかんだ私の最後のお願い守ってくれてた…。あの人は独りじゃなかった。周りに皆が居てくれた。
それが、とても嬉しかったのよ。
あ、そうだ!今言った事は全部貴女と私だけの秘密よ?
多分この事、特にエルに言ったってバレたら私がフレデリックに怒られちゃうから」
そうウインクをするジャック・オーさんに、
なんで私にバレたら怒られるのかが不思議で聞いてみると、
「んー、それはね?エルフェルト、貴女がフレデリックに直接聞かなきゃならない事だから教えないわ!」
と笑顔で返される。
「えええ!?」
「だって、なんだかあの人、貴女の前だと自分の体裁気にしだすんだもの!なんかおかしくって…!
何かあの人なりにエルに感じる部分があるのかもね」
だから貴女が私に引け目を感じる必要は無いんだけどなあと屈託なく笑うジャック・オーさんに、私はそれでも…と言葉を濁す。
「うーん…そーだなあ……だったら…こんなのはどう?」
ジャック・オーさんからの言葉に、私は驚き過ぎて、
先程座り直した椅子をもう一度思い切り倒してしまったのだった。
「うーん…そうねー!エルフェルト!貴女一回試しにフレデリックとデートしてみればいいのよ!」
デート、
デートって…???
っええぇえええええええええ!!!!???
ジャック・オーさんからの言葉に私は驚き過ぎて、先程座り直した椅子をもう一度思いきり倒してしまっていた…
思い立ったら吉日とばかりにジャック・オーさんに引きずられて、
(というか無理矢理彼女のバイクに乗せられて)デートの為の服を買いにイリュリア郊外の
アメリカンスタイルのブランドが立ち並ぶエリアに私達は来ていた。
ジャック・オーさんは数あるお店には目もくれず、一直線にとあるお店に足を運ぶ、私も慌ててついて行くと、
そこはある種、見慣れた看板のお店だった。
「こ、此処って…ソルさんが着てる…!」
「そう!ご名答!“RIOT”
此処の服って実はレディースも可愛いの!」
さ!レッツラゴー!とジャック・オーさんに背中を押され、一緒に服を物色して回る。
主にアメリカンカジュアルって言葉がぴったりなお店で、
ストレートのパンツや、綺麗にダメージ加工されたショートパンツ、デニムのショートスカートもセクシーさが強調されていて、
なかなか着るのはハードルが高そうで私は生唾をごくんと飲みこんだ。
カットソーもボトムスもシンプルなデザインで、ワンポイントがとても可愛かったりカッコ良かったり…
ためらう私にジャック・オーさんが見繕ったコーデの中に、先程躊躇ったショートパンツやデニムスカートが入っていて、
慌てて抗議するも、良いから着てみて!と押されて試着してみたら、鏡に写った自分の姿にかなり驚いてしまう。
「どう?サイズとかは大丈夫だった?」
試着室に入ってきたジャック・オーさんが、とても似合ってると褒めてくれる。
「で、でも…これだとなんだか…女子力が下がってしまう気がして違和感がぁ…」
「えーそう?んー?確かにフェミニンさは欠けちゃうかもだけど、エルの雰囲気だと、
十分フェミニンさはあるからこれくらいカジュアルな方がバランス取れて可愛いのに」
「そ、そうかなあ~??」
「ハイ!デートの時はコッチの組み合わせで、
今日はこのカットソーとデニムのショートパンツとスニーカーで私と一緒に街で遊びましょう?
ほら!私はロングデニムだけど、上はお揃い!ね?いいでしょ?」
お願い!と手を合わせられたら、無下に出来なくて承諾してしまう。
店員さんに随分良くしてもらって安くしてもらえたけど、こんな事はあんまり無い事みたいで、二人で顔を見合わせてたら、
是非とも写真を取らせてくれないかとの事だった。
驚いた私に、ホラホラチーズ♪とジャック・オーさんにせっつかれて法力写真にぎこち無い笑顔を向けた。
そのまま試着室で二人とも着替えて、街へ繰り出した。
◇◇◇◇◇
「おい、オヤジ、頼んでたモン完成してんのかよ?」
「お!ソルじゃないか。久しいな!
お前さん最近顔出さないから全部既に完成してるさ。ほら。コイツだろ?
全く…すぐ破りやがるからな。金払いがやたら良いのと、本物見定める目が無きゃ
お前さんみたいな客は勘弁願うんだがなあ…!」
「…フン、」
「ま、ちょいと待っててくれ、奥から何本かお前さんの為に作っといたもんがあるのさ」
「さっさとしてくれ」
「なにすぐ終わる」
全くせっかちな客だなと語りながら奥に消えていく店主の後ろ姿を眺めながら溜息をついた。
やれやれだぜ…
最近は忙し過ぎてなかなか此処には来れなかったが…
「…客が人っ子一人居やしねえ…仮にも老舗店だろうが、大丈夫なのかよ」
真っ昼間に誰も居ない店内を見渡し、カウンターの方に視線を戻すと、
見知った女二人が写ってる写真を見つけ、驚きで固まってしまう、
「おい!?オヤジ!?この写真一体どーしたっ!?」
「おお!お前さんがそんなに驚くたあ…アレか?どっちか好みのタイプか?」
「いいからさっさと答えろ!」
「からかうのもおっかねえな!
今日たまたま来たお客さんだよ。二人ともタイプは違うが大層な美人で、しかもやたらスタイルも良くてだなあ!
服しこたま買ってくれて、そのまま街繰り出すっつうから、お店の宣伝になるかもって思わず写真頼んじまったんだ」
「どっちに出ていった!?」
「ん?多分そこらへんの観光地ぶらつくってたけどなあ…って、お前さん!ナンパでもする気か!!」
オヤジの戯れ言を放置し金を叩きつけるようにカウンターにしこたま置き、後日取りに来るとメモを残し、俺は慌てて、
ジャック・オーとエルフェルトの行方を探すために愛車に跨がった。
◇◇◇◇◇
い、今までこんな事無かったのに!?
今日何回も遭遇したナンパに私は驚きを隠せない。
もううんざりねー?私と腕を組んで並んで歩くジャック・オーさんは露骨にハア…と溜息をついた。
「こ、こんな事って…こんな事ってっ!?」
「ん?エルどうしたの?」
「今まで男の人から声かけしてもらった事とか、ナンパなんて一度も無かったのに!?
あんなにネイルも化粧もヘアケアもバッチリしていたのに…!!」
「そのバッチリがかえって良くなかったのかも。だってつけ入るスキが無いんだもの。
少し砕けた感があった方がモテるって聞くしね」
「そ、そんなあ…!!」
「今も不特定多数にモテたいの?」
「いいえ…今は…」
「なら気を病む必要なんてないじゃない?」
「ジャック・オーさん、私…」
呼びかけようと言葉を発した最中、バイクの埃風に思わず目を瞑って、暫くして恐る恐る開けると、
バイクを急ブレーキしたタイヤ跡と、ソルさんの姿が視界に入って私は思わず固まってしまう。
(あああよりによってこの格好の時にいいいいいい!?)
脳内パニック状態の私とは裏腹に、見つかっちゃったかーアチャー!などと悪態をついてるジャック・オーさん。
ソルさんが私達と出会い頭こんな治安悪いところで女二人で何やってやがる!!と大声で怒鳴り散らし、
ジャック・オーさんは私達を普通の女だと思ったら大間違いよ!などと応戦している。
普通もクソもあるか!ジャック・オー!テメエの格好はともかくエルフェルトの格好は此処ではご法度だろうが!!
とソルさんは何故か私の服装に対しての怒りが収まらない。
「あーもう!せっかくエルと二人で楽しかったのになあ!
ごめんねエル!私もう帰るねー!そうゆう事だから、フレデリック、この後エルをお願いね!それじゃあ!」
「え?えぇえええええええええ!!!!???」
思わず叫ぶ私に、ジャック・オーさんは口パクで「頑張って」と伝え、自分の法力で出したカスタムバイクに跨がって走り去って行く。
うわあああああああ!!!!!
ど、どどどうしたらああああ!?!?
挙動不審になって、その場でどうすればいいかわからなくなってる私の姿などお構いなしに、
ソルさんはソルさんで、クソっ…といかにも面倒くさそうに頭を掻いてる。
うおおおおお!!!
どっちにしても望み薄!!
ならばっ…
死ねばもろともだああ!!!
「ソルさんっ!!!バイクの後ろ乗せて下さいいっ!!!」
少し茜が消えかけて紫色に染まりかけてる夕刻の
だだっ広い荒野で、大声で叫ぶ私に、さっきまでしかめっ面だったソルさんは私の言葉に思わず吹き出して、
「おう、乗りやがれ」
と親指を後部座席を指してくれた。
◇◇◇◇◇
郊外にあるログハウス風のレストラン兼バーの前にソルさんはバイクを止めた。
先程の場所から十キロ程は離れていたけど、ソルさんがバイクを飛ばしたからかあっという間だった。
バイクに乗る前、飯は食ったのかと聞かれ、えーと、まだですが…と呟けば、さっさと乗れ。
旨い店がある。シンとラムレザルに食わした記憶があるが、
エルフェルト、お前はまだだったなと言われて、それは是非!と返事をして現在に至る。
バイクに乗る為に、ソルさんの肩におずおずと捕まれば、
しっかり掴まれ!振り落とされてぇのかと怒鳴りちらされ、
それでは失礼しますっ!!!と思いきり抱きついても、自分の腕まで届かなくて、
結局思いっきりソルさんの背中にぴったり引っ付く事になってしまった…。
む、胸が潰れて痛かった……っ。
バイクから降りてフラフラしてる私の肩を掴み、ソルさんはさっさと行くぞと先に歩き出す。
私は慌ててその背中を追い駆けた。
此処の食べ物は確かに絶品だった。
お城のお上品な食べ物とは全く異なり、ステーキを頼めば凄い分厚さ、
ハンバーガーは巨大タワーみたいでポテトフライが大盛り。飲み物のサイズもとても大きくて、
ビールジョッキも私の顔位あるかと思えた。普通のサイズの飲み物はウイスキーかバーボンかカクテル各種。
私は子供だからとお酒は一滴も飲ませて貰えなかったけど(子供って訳じゃないんだけどなあ…)
ソルさんははじめはビールを何杯か煽り、今はバーボンをゆっくりと嗜んでいる。
ほのかに頬が染まる姿に、私も顔が熱くなり思わず顔を逸らした。
「もっと食わなくていいのか?シンやラムレザルはそうとう食いやがるからな…」
彼らを思い出して含み笑いを浮かべるソルさんは、かなり色っぽく感じる。
「お、乙女になんて事言うんですかっ!だいたい女の子はそんな量食べれませんってば!」
「どうだかな…その台詞はラムレザルに言いやがれ、アイツはそうとう食いやがった」
「それって…多分、ラムじゃなくてルシフェロが隠れて食べてたんじゃ…?」
「あの使い魔か。」
「そうですよ!ラムだって、そんなに食べれない筈ですし!
いいですか!乙女に沢山食べろとか言うの絶対にダメですっ!」
そう口論しても、
「乙女だぁ?ラムレザルもテメエもまだ産まれたての赤ん坊じゃねーか」
と軽くあしらわれてしまう。
ムッとして、思わずソルさんを睨んでも、まるで相手にされていない。
「ソルさ…」
抗議しようと声かけしようとしたら、後ろからの来客に遮られた。
「おやあ!旦那ぁ!!奇遇だねぇ!!」
「アクセルか…ちっ、タイミングが悪りぃ時に…」
「はははっ!デート中に悪いねぇ!いやあ、まさか旦那がこんなカワイコちゃん連れてくるとは…」
「ったく、そいつはエルフェルト・ヴァレンタイン。世界に喧嘩売ったラムレザル・ヴァレンタインの妹。
前にテメェに説明しただろうが、コイツは正真正銘のギアだ」
「うええええええっ!?君がっ!?マジでっ!?…いや、でも、こんなに可愛かったら世界侵略されちゃってもいいかな~?なんて!」
「もう!今は人間達との共存が目的ですからそんな事はしませんってば!」
「いやいや、メンゴ!気ぃ悪くしちゃった?旦那ぁ!ここの席相席してもいいかなあ?」
「勝手にしろ」
「旦那さ、前に1杯奢ってくれるって言ってたからさ!今そのお言葉に甘えちゃってもいいかい?
あ!そうだ!エルフェルトちゃんは何飲む~?このカクテルなんか、飲みやすくて俺のオススメ~!」
「あ!それ美味しそう…!ねえソルさん、私もお酒飲みたいなあ…?」
「ガキが何いっちょ前に抜かしやがる、テメエはコーラでも飲んどきやがれ」
「む~っ、確かに私はまだ産まれたてかもしれないけど、
お母さんは私を大人として創ってくれたから子供なんかじゃないのに!」
「“子供じゃねぇ”、ガキに限ってそう抜かしやがる」
聞く耳持たないっていう風体のソルさんを、私はジト目で睨んでると、ここはオレに任せて?とウインクをするアクセルさんが、
軽い口調でフォローに回ってくれた。
「旦那も硬いなあ~!見た目だけじゃ彼女二十歳そこそこじゃん!
あ~それともナニ?彼女が酔った姿すら誰にも見せたくない…とか?くぅ~!!熱いねぇ!妬けるねぇ!」
「アクセル…テメエ!!」
「おっと!サーセンサーセン!!」
アクセルさんの思わぬ言動に私の心臓もびっくりして飛び上がる。
降参とばかりに両手を上げる仕草をしておどけるアクセルさんと、つい慌ててしまった私の様子とを見比べたソルさんは、
いかにも面倒くさいとばかりに深い溜息をつき、
「エルフェルト、酒飲むんなら勝手にしやがれ。だが俺ぁ、お前が飲み潰れても面倒なんぞクソ喰らえだ。
せいぜい酔わないようにするんだな」
と投げやりに呟いた。
私はその言葉が嬉しくてつい席を立ち上がり、
ありがとう!!と勢いをつけて隣の席に座っていたソルさんの首に思いっきり抱きついてしまった。
「ひゅ~♪エルフェルトちゃんは大胆だねぇ~」
口笛を鳴らしニヤニヤしながら呟くアクセルさんの言葉に、
私は我に返って慌ててソルさんから離れてごめんなさいごめんなさいっと繰り返し謝りまくる。
そんな慌てた姿の私に何も言えなくなったソルさんは顔を逸し、
一回だけ軽い舌打ちをしただけだった。
私はお酒の種類がわからなかったから、アクセルさんに色々教えて貰いながら色んなお酒を試してみた。
デザートのように甘いお酒から甘酸っぱく飲みやすいもの、アルコールが強くて飲めないものはアクセルさんに飲んで貰ったりして、
人生で初めてのお酒は、とても楽しいものとなった。
「エルフェルトちゃん結構強いねえ!」
「そーですかあ?なんかふわふわしてて、今とても楽しいです!」
「エルフェルトちゃんは、旦那の事好きなんでしょ?」
「ソルさん~?ソルさんの事ですか~?好きですよ~!でも…好きになっちゃあいけないんです!だってジャック・オーさんがいますから~!」
「そっか…それを旦那には伝えた?」
「伝えれません…。でも良いんです…私はソルさんの近くに居れればそれで幸せですから!」
「エルフェルトちゃん…。…今、旦那は外に居るよ…?きっと旦那は寒がっているだろうから、
君が後ろから抱きついて温めたら、旦那は喜ぶと思うなあ!」
「はいっ!!わかりました!!エルフェルト・ヴァレンタイン!!ソルさんの背中を温めてきます!!!」
ガタッとテーブルから立ち上がり、外へ歩いて行く私に手をふるアクセルさんにこちらも少しふらつきながら手を振り返す。
「いってらっしゃ~い!」
「はいっ!!行ってきますっ!!!」
「少し抜けてる所あるけど、彼女、いい娘だねぇ…旦那がほっとけない訳だ…。
ん?そーいえばエルフェルトちゃんてば、旦那と出会いたてほやっほやの頃のアリアちゃんにどことなく似る気もするんだよなぁ…?」
◇◇◇◇◇
「あれぇ?おかしいなあ…
確か、ソルさんはさっきまでお店の入り口で一人お酒飲んでた気がしたんだけど…
ソルさぁーーーん!!!」
んんん?
私、酔っ払っちゃったから、ソルさん呆れて先に帰っちゃったのかな…?
さっきまでのハイテンションが、嘘のように冷めてしまう。
ここに居ても仕方がないし、とりあえずさっきのお店に戻ろうと来た道を振り返ると、
先程のお店にいた三人組の男の人達が、ニヤニヤしながら私を見つめてくる…
とりあえず、知らないフリして通り過ぎよう…そう思い、構わずすれ違うと、一人の男の人に腕を掴まれた。
「あのう…?私に何か御用ですか?」
「お嬢ちゃん、さっきの野郎達にフラレたっぽいなあ?俺達が変わりに慰めてやるよ…」
「あ!いえいえ!私の事はお構いなく!」
「そうつれなくすんなって!後悔はさせねーからさあ!!」
…これは所謂、女子を無理矢理てごめにする的なアレですかっ!!?うわあ!!はじめて遭遇しちゃった!!
きっとこのまま無し崩しにされたらあんな事やこんな事に…!!!
って、私妄想してる場合じゃない!
貴方達っ!!!私に声かけちゃった事を後悔させま…
あ!!!
いつも法力で出せるようにセットしてた私の相棒ちゃん達が居ない!?そっか、服着替えた時に一緒に外した事忘れてた!!
仕方が無いので、掴まれてる男の人の腕を掴み、関節をひねってぶん投げる。
私のその行動に他の男二人も私に襲いかかってきた。流石にただの人間相手でも、二人相手するのは、
酔いが回ってる今の私にはしんどくて、こちらの隙をつかれて、今度はがっちりと身動き取れないようにされてしまった。
ぶん投げた男の人もふらつきながらこちらに向かってくる…
自分の額に冷や汗が流れてるのを感じ取った。
「エルフェルト。今の気分はどうだ?」
「そっ…ソルさん!!」
「ったく、どこの世界に酒に酔い人に捕まっちまうヴァレンタインが居るんだ…テメエは…」
「ご、ごめんなさい!」
「エルフェルト、お前の探しもんはコイツだろう」
ソルさんが空に投げたものを捕まりながらなんとか両手でキャッチすると、
それは私がいつもなら肌身離さず持ち歩く“Missトラヴァイエ”
“その娘”を構え、私を捕まえようとしてた男達に突きつければ、呆気なく手を離された。
銃口を向けられていない二人の男は、私をもう一度つかまえるべく動いてくるけど、咄嗟に身体をひねり、
その男達の足元に遠慮なく弾丸を撃ち抜いていく。何発かは、彼らの服をかすったり、彼らの足元を思い切り撃ち抜いたり。
良く“この娘達”の見た目で玩具みたいに感じられるみたいだけど、これで本物だと理解出来た彼らは、
自分達が持ってた法力拳銃では太刀打ち出来ない事を知ると、慌ててその場から逃げて行った。
あ…危なかったああ…
ほっとしてその場にペタンと座り込む私に、近付いてくる赤い靴が見えた。ほんの小さく“RIOT” のロゴが見える。
「ソルさぁあん!!どーして助けてくれなかったんですかあ!!!」
「そいつを手渡してやっただろうが。それに、俺は酔っぱらいの面倒は見ねえとお前に言った筈だ」
「…確かに、言ってましたけど…あ、そういえば、”この娘”どうしたんですか?」
“この娘”って言葉にソルさんは眉をひそめるも、私が持ってる桃色の拳銃に指を指すと、ああソイツか、と呟き、
「ジャック・オーが法力で俺に押し付けて来やがったから、預かったまでだ。他の銃は転送の量が多くて無理みてぇだが、
そいつだけでもってな。」
「ジャック・オーさぁああんん!!」
そう叫びながら思わず手に持ってた私の相棒ちゃんをギュッと抱き締めてスリスリしてると、
ソルさんから呆れたような溜息が聞こえてくる。
「…ったく、いつの間にかテメェはジャック・オーに懐いてやがるし、ジャック・オーはテメェに肩入れしやがるし…
やり辛えったらありゃしねぇ…」
眉を潜め、かったるい時に浮かべる表情で、私を見つめるソルさんのその言葉に、私は思わず聞いてしまっていた。
「私とジャック・オーさんが仲良くしてたら、ソルさんの都合が悪くなるんですか?」
「気に食わねぇ…」
「そっ…それって…やっぱり…ジャック・オーさんが自分以外と仲良くしてるの見てるの嫌だなぁ?って…事…ですよね…?」
ソルさんの言葉を自分なりにキチンと解釈してみて、凄く傷ついてる自分がいた…
私…やっぱり…この恋は…諦め…
「違う。…両方だ……、さっさと行くぞ」
え…?、両方…?両方って…
私は無意識にソルさんの腕にしがみついた。その答えを聞きたくて必死だった。聞けるまで絶対に離さない!そんな勢いだった。
「両方…、両方って!!どうゆう意味なんですかっ!!」
「…チッ、離しやがれ!」
「言ってくれるまで絶対に離しませんっ!!!」
しがみついて叫ぶ私の言葉に何か逆鱗が触れたソルさんは、私を睨み、吐き捨てるように言葉を投げかけた。
「テメェが俺達の元から消えて、飛鳥の野郎に頼り、自らを消そうとした理由を語りもしねぇ癖に、
俺には事細かに説明しろだと…?ご大層な身分になりやがったな、…あぁ?」
「っ…そ、それは…」
「これは取引だ。お前が先に語らねぇ限り、俺がお前に語る必要性は全く無え。……さっさと行くぞ…」
後ろを向き、先に歩き始めようとするソルさんの腕を強く離れないようにギュッと両手で抱え込み掴む。
何が何でもソルさんの心中を知るのに必死な私はなりふり構わずそのたくましい身体を引き止めた。
「…私の事、事細かにソルさんに伝えたら…ソルさんも言ってくれるんですか!?
だ、だったら…わ、私…恥ずかしいけど…い、言いますっ!!全部ぶちまけますっ!
だからっソルさんも全部ぶちまけてくれるって約束ですからねっ!!!」
「おい、テメエ!?何勝手に…っ」
「私っ…!!貴方の事が好きです!!!好きで…好きすぎてっ……っ…ジャック・オーさんに申し訳なくてお城から飛び出しましたっ!
飛鳥さんが私の所に現れたのはそんな時です。
…私の魂は元々ジャック・オーさんの物だから、元に戻したいって…言われて……私もその言葉に飛びついて……
だってっ!!!…私も“ジャック・オーさん”になれば、ソルさんに愛して貰えるかもってっ!!そんな誘惑に勝て…なっ………っ!!」
途中言葉にならなくて泣き崩れて地面に座り込みポタポタと滴る涙が沢山の水玉模様を描きだしてる。
自分が惨めで、もう、ソルさんから聞き出したかった事もどうでもいい。この場から消えてしまいたい衝動に駆られる…
でも、一度出し切ってしまった感情はうまく扱うことが出来なくて、
止めどなく流れる涙と嗚咽に振り回されてうまく立ち上がる事も叶わない…。
そんな最中、私の腕を引っ張り上げ、無理矢理その場に立ち上がらされ、俯いた顔を無理矢理上げさせられる。
ソルさんと目が合った。
「エルフェルト…すげぇ顔だな…」
ヘヴィだぜ…そんないつも聞き慣れた言葉を耳にかすめ、私はより一層悔しさと恥ずかしさで涙がボロボロ溢れてくる。
「そ、そんなの…あ、あだりまえじゃないでずがー!!!…ひどい…!!ご、ごんな顔みられだぐながっだのにいいぃい!!!」
ソルさんの馬鹿ぁあああっ人でなしっ悪魔ぁああ!そう叫び、その硬い胸板をポカポカ殴り続けると、
私のしたいようにソルさんはさせてくれた。
とりあえず叩きたい気持ちは収まって、そのままソルさんの胸板に頭をくっつけ暫く立ち止まる…。
心臓の音…体温…それだけで私の心臓もバクバクいって、本当はしがみつきたかったけど、
それは出来ないから頭をグリグリして…私は瞳を閉じた…。また一筋涙が零れた。私の動きが止まったからか、
ソルさんの掌らしきものが、私の両肩に添えられた。
引き離される…もう、終わり…そう覚悟して、身を固めると、
ギュッと…抱き締められる感覚を感じて驚く。思わず上を向こうとしたら、それはとっさに遮られた。
嬉しくて…嬉しくて…こちらからソルさんの背中に両腕を回し、ギュッと引っ付く。また止めどなく涙が溢れてくる。
その匂いと温もり…何か凄く懐かしくて、安心した私は、いつの間にか意識を手放していた…。