DORAGON
DOES
HISUTMOST
TO HUNT
RABBITS
D
oragon
rabbits
&
R
献身的な愛は自己犠牲と良く似ている。
「エルフェルトが居なくなっただと!?」
フレデリックの怒涛の声に、報告に来た衛兵達は肩をビクつかせている。
「おい!?ラムレザル!お前ならアイツの居場所わかるんじゃねえのか?」
「…今回はわからない、すまない、力になれそうにない…」
見るからに肩を落とすラムの姿に、シンが「親父だって散々探したじゃんか!
イライラすんのもわかるけどラムに当たるのはよそうぜ?」とズバリ言われて、私は少し吹き出してしまった。
「おい…ジャック・オー…」
「なに悠長に笑ってやがる。とでも言いたげね?
でも、ごめんなさい。こうゆう問題は、焦っても仕方が無いと思うのよ。
…そうね、もう一度初めから整理し直しましょうか」
私は、エルが消えてしまった日に、エルが意識を失ったりした経由や、エルの様子を、
フレデリックやラムにもう一度事細かに確認をした。
そしてエル。
あの子は、『もう一人の私』と言っても過言では無い。
あの子が私達の前から姿を消してしまった理由が…何となく理解出来たような気がした。
あの子は、ジャスティスに残された私の感情、恋愛思想的感情を慈悲なき啓示によって取り出され、
それを使ってあの子が創られたと、ギアメーカー…いえ、飛鳥くんは語っていたっけ…。
ギアメーカー…まさかね…。
でも、可能性があるなら検証はしてみるべきか。
「ちょっと、思い当たる節があるのよ」
私は皆にそう声がけをした。
◇◇◇◇◇
皆をエルの居場所に運ぶ為には、大掛かりな転送法力を使う必要があった。
とりあえず詳細はまだ言えないけど、ちょっとついてきて欲しいのと、皆に声掛けして、
イリュリア場のエントランスに皆を集める。
「ジャック・オー、お前にはエルフェルトの居場所がわかるんだな?」
「ええ、“エルは、ほぼもう一人の私”なの。
そう考えて、貴方とラムから聞いたエルの行動を検証と、思い当たる節とを合わせたら、エルは私が予測する場所に居ると思われるわ。
準備はいい?今からバックヤードに行くから、できればバックヤードに対処出来るメンバーがいいのだけど」
「バックヤードだと?」
「んー、フレデリックにはちょっと言い辛いんだけど…多分、エルは飛鳥くんと共に居る筈よ」
「な、んだと…っ!?」
その苦虫を噛み潰したような表情に、私は思わず笑ってしまう。
エル、貴女が思ってる以上に、フレデリックは貴女の事ほおっては置けないのよ。
貴女にもこの人のこんな表情を見せたい。
そうしたら、貴女が私を想って悲しくなる事なんて何も無いのに。
◇◇◇◇◇
「あの、私の真実って…」
「ああ、その事だね。…君は、君が何処から産まれたか、自分自身で理解できるかい?」
「え…?私は……ヴァレンタインシリーズの最終形態として、お母さん…ううん、『慈悲無き啓示』から創られたって事しか…」
「そう。慈悲無き啓示が創った初代ヴァレンタイン達は感情を持たなかった。慈悲無き啓示自身も感情を持たないからか、
その時は感情の必要性を感じてはいなかったのだろう。でも、フレデリックや僕からの妨害に、何が敗因の原因なのかを探り、
人間の行動心理を理解する為に自身も感情を得る為に人間に転生した。
そして、最終形態である君たちヴァレンタイン姉妹にも感情を持たせた…。ここまでは君も理解できるかい?」
「はい…。」
「先程も言った通り、ヴァレンタインシリーズには、元々感情は備わっていない。
でも、ラムレザル・ヴァレンタインや、君、エルフェルト・ヴァレンタインは、
産まれた瞬間から感情が備わっていた。その感情は一体何処から“来た”のだろうか?」
私もずっと不思議だった事。何故私達には感情が備わっていたのか。
その疑問が、ギアメーカーその人によって、一枚一枚花弁を捲るように明らかにされていく。
「慈悲無き啓示は初めに、ヴァレンタインシリーズの基礎にジャスティスに残ったアリアの思考的魂の欠片を掛け合わせて
ラムレザルを創った。
でもアリアの思考的魂は既に僕が先に回収し終わっていた後で、ジャスティスとの融合には適さなかった。
その後、慈悲無き啓示はラムレザルにジャスティスに僅かに残されたアリアの感情を入れた。
それでもジャスティスとの融合はなされなかった。
君はその結果を踏まえて、初めからヴァレンタインの基礎とジャスティスの感情のみで創られたんだ。
その主に成る感情とは、恋愛的思想…。つまり、アリアの恋する心そのものが君が占めてる魂の殆どなんだ…」
「それって…。」
「今のアリアには、絶対的に欠けているモノがある。それが今語った君の魂。恋する心だ」
「それじゃあ!…ジャック・オーさんは、もう…恋する事が出来ないって事じゃないですか!?」
「ああ、かつてアリアがフレデリックに抱いていた愛しさや恋しさ、そんな感情が今のアリアが抱く事はもう…無いんだ…」
そう遠くを見つめる飛鳥さんの瞳は切なさに溢れていた…。
「飛鳥さんは、“ジャック・オーさん”の事が本当に好きなんですね。…羨ましいなあ…そんな風に私も一度で良いから、思われたかったなあ…!」
「フレデリックにかい?」
その言葉に泣き笑いを浮かべた私に、飛鳥さんは、困ったような…切ない表情を浮かべていた。
「君も“アリア”だ。君の願いならなるべく叶えてあげたい…でも、それは多分、君が思い描く叶い方じゃないかも知れないけれど…」
その言葉に、私は全て理解した。
「私の事は気にしないで下さい。どうぞ私の魂、使って下さい。ジャック・オーさんを元に戻してあげて下さい。
…それでソルさんが幸せになれるなら…私はっ…!!!」
『エルフェルト?それが貴女の本当の幸せなの?』
どこからともなく、声が聞こえる。
それは、とても見知った声で、私は声の聞こえた方向の空間を見上げた。
その見上げた空間の歪みから、ジャック・オーさんが飛び出し、
それに続いて泣き腫らした顔のラムと、いつになく怒った顔のシンの姿、
…そして今一番会いたくて最も会いたくなかった…ソルさんの姿を確認した。
「…まさか、アリア、君が直々に此処に来るなんてね…」
飛鳥さんの言葉にジャック・オーさんは不敵な笑みを浮かべている。
「もう一人の私を返しに貰いに来たの。例え貴方でも、邪魔はさせないわ」
そんなジャック・オーさんに苦笑いを浮かべる飛鳥さんを睨みつけているソルさんが、物凄く怒っている事は凄く伝わって来て、
私は思わず飛鳥さんの影に隠れた。
そんな私の姿に、ソルさんの視線が私を貫く。
「おい!エルフェルト!お前はいつまでそいつの戯言に振り回されるつもりだ!?
テメェが“アリアの一部”なのは理解した。が、お前は既にエルフェルトという一つの生命体だろうが!!
それともお前が前に俺に言った台詞は戯言だったのか!?
独りは嫌だと言い切ったテメェがたった一人の姉を泣かせて、自分は勝手に自己完結か!?あぁっ!?」
ソルさんの言葉に、私は思わずラムの方に視線を向ける。ラムが泣き腫らした顔で私を見つめてきた。
「ラム…っ!」
「エル…!エルは私にとって「違う」なんだ…失いたくない存在なんだ…!!
それでもエルが消える事を選ぶのならば、私は戦わなければならない。…それが例えエル、貴女を悲しませても…!!」
涙を浮かべても、私をまっすぐ見つめてくる眼差し…。私はもう、涙を止められなくなっていた。
「なあ、エル?エルが何を悲しんでるのか、なんで自分で自分を消したいと思った理由とか、俺達にはわかんねえ。
でもさ、ほら!ジャック・オーだって、親父だって、ラムだって、カイの野郎だって、母さんだって…あ!勿論オレも、エルが必要なんだ。
また一緒にうまい飯でも食ってさ!色んな事を一緒に経験しようぜ?
それを邪魔する奴は…俺は、許さねえ!!」
「シン…っ!」
私のグシャグシャな泣き顔と皆の強い眼差しで、飛鳥さんは、とても困った表情を浮かべていた。
「飛鳥くん。もう、諦めてくれないかしら?ほら、皆エルが大好きなのよ。勿論私も」
「だが、君は…」
「貴方は私に、恋愛的思想が戻らない事を懸念しているのね?
うーん…でも、今の私は今の私なりにフレデリックの事を愛しているのだけど…それでは納得いかない?
それは別にかつて抱いたトキメキとか胸キュンとか…そんなものでは確かになくなったけれど…
二人でいる時の穏やかな空気が流れる…そんな愛も結構オツなものだと思うのよ」
ジャック・オーさんのあっぴろげな言葉に、
此処に居たほぼ全員が驚いた表情になる。(シンだけはウンウンと頷いてた)
ソルさんが動揺してジャック・オーさんの言動を止めにかかろうとするも、
ジャック・オーさんが私に任せなさいとばかりにソルさんにウインクを投げかけたからか、
ソルさんは、苦い表情を浮かべながらも、動きを止める。
そんな二人のやり取りに、何か懐かしさを感じたらしき飛鳥さんは、
アリア、君がそう言うのなら…この件については手を引こう…。
そう言って、私の肩にそっと手を乗せて、君には辛い思いをさせたね…ごめんよ…と耳元で囁かれた。
「皆の所に帰ると良い。またもし君が辛くなる事があれば…僕を呼んで…?その時に、今回の借りを返すよ」
そう言葉を残して、飛鳥さんは、法力であっという間に姿を消してしまった。
「あの野郎…!!トンズラしやがった!!」
握り拳を鳴らして舌打ちするソルさんに、殴る気まんまんだったのね。と苦笑いするジャック・オーさん。
そんな二人の姿を見つめていたら、ラムが私をギュッと抱きしめてくれた。
私はラムと抱き合ってわんわん泣いた。ラムも泣いていた。
そんな私とラムをジャック・オーさんは、そっと抱きしめてくれた…
それはとても、とても温かかった。
◇◇◇◇◇
「彼らをこのまま行かせて宜しかったのですか?」
黒い鴉濡羽色のローブをまとう男の声掛けに、白いローブの青年は、振り向く事なく言葉を紡ぐ。
「彼らが彼女を取り返しに来る想定は一応していたからね。」
アリアは情が深い。
自分と関わりの深いであろうエルフェルトに情を移してしまう事は想定済だったけれど、
フレデリックがエルフェルトに特別な感情を抱く事までは、予想していなかった訳では無いけれど、確率は低いと思っていた…。
「彼らの事は解っているつもりだったけれど、僕もまだまだって事かな?」
軽く笑いかけるように言葉を紡ぐ主に、
黒ローブをまとった男は、致し方無かったのでしょうと語る。
「背徳の炎、あの男とて、例え創られた人形であっても、感情を抱き自身に屈託なく笑いかけてくる者を邪険にする事は憚れるのでしょう。」
主に対しての最大の敬意を抱きつつ、自身の言葉を紡ぐ部下に、白いローブの青年は、朗らかに笑いかける。
「それは君の体験からの言葉でもあるのかい?」
「…どう受け取られても構いません。」
「そうだね…。僕は間違っていたのかもしれない…。
今は、ただ彼らに任せよう…。」