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​飴と乙女と唇と。

 

今回は珍しく同行者がいないまま仕事をこなし、このイリュリアの首都を治めている第一連王であるカイに、

報告のみだが事付があり立ち寄った。


カイの気質そのまま品行方正な首都は、自身にはけして居心地が良い物とはいえねぇが、
城にさえ入っちまえば、俺の気質を知ってやがる不良王の事だ。
報告がてらお前が好みそうな酒が手に入ったとか何とか言いやがるに違いねぇ。

厳重な城門まで愛車を走らせ、入口で止めれば、門番が何も言わずに敬礼をし道を開けやがる。
最近は、俺の事を知る輩が増えたせいか、若干やりずれぇ感じを受け取るが、そんなもんいちいち気にしてられるか。

俺はそいつらに一切構わす、城門を通り抜けていく。

城門を過ぎ、手入れ画行き届いた庭を歩いていれば、よく見知った姿が視界に入る。
短い髪と跳ねた前髪。ブンブンと大袈裟に手を振るその姿に、相変わらずだなと思わず笑みを浮かべる。

仕事の帰りにて、どこぞの婆さんに押しつけられた自身では必要もねぇだろう甘ったるいお礼を自身の荷物から取り出す。
ジャック・オーにでもやれば良いかと思っていたが、目の前のコイツにやれば勝手に誰かしらにシェアされるだろ。



「ソルさん!おかえりなさい!」

「エルフェルト、テメェ甘いもん好きだったな?」

「え?え、あ、はい!好きです!それがどうかしたんですか?」

「仕事で押し付けられたもんだ。お前にやる。」

「う、うわわわ!い、いきなり投げないで下さいよっ!…って、この袋、キャンディ!」

「見りゃ解んだろうが。」

「結構何個か入ってますけどソルさんはいらないんですか?」

「じゃなきゃテメェにやってねぇよ。」

「そ、そしたら遠慮なく頂きます!」

エルフェルトが、袋から大きめの飴玉を一粒取り出し、包まれていた包装をガサガサと剥ぎ取り中身を取り出し、

それを口に含み、口の中で転がす姿を見る。
その光景で一瞬己の脳内で不審な考えが過り、慌てて視線をそらした。

「ソルさん!コレちょっと大きいですけど、とてもおいひいれすよ!」

「…っ、そ、そうか…そりゃあ…よかったな……。」

冷や汗が一滴、己の額から流れ落ちる。自身の不審さにバレないように視線を反らした。

「どうかしましたか?」

「なんでもねぇ…、俺はもう行くぞ。」

「あ、はい!」





城に向けて脚を運べば、こちらに向かって飛んでくる奴に咄嗟に声をかけられた。

「あっ!フレデリック!!おかえりーー!!ねぇ!今飴持ってない???」

「飴だぁ?…さっき袋に入った飴玉をエルフェルトにやったが。すぐそこに居るだろ、取りに行け。」

「わかったー!!ありがとう!エルに貰ってくるー!!」

ちょっとした予感を感じ、歩いて来た道を引き返せば、丁度ジャック・オーがエルフェルトに飴をせがんでいる最中だった。

「あ、ジャック・オーさん、わかりました、ちょっと待ってて下さいね。今取り出しますから。」

「ゴメン、そんな悠長な時間はもう無いみたい。直接エルのお口から貰ってくから、ちょっと我慢しててね!痛くしないから!」

「へ?って、え!?ちょ、ちょっと待ってくださっ………ん、んむー!?!?」



おい…マジかよ…!?

エルフェルトの口を遠慮なく貪り食うジャック・オーの姿。
暫くエルフェルトの口内で飴を探しているのか、コロコロと鳴る音と、舌が絡み合う音らしきものが耳をかすめる。
やっと見つけたらしき飴を奪った後、ジャック・オーはエルフェルトから身を離し、

「エル、ありがとう!助かったわ…少し遅れてたら手遅れだったかも!」

などと、先程の子供寄りな声から大人の声色に変化させながら語っている。

「…わ、私…っ!!、…お、女の人と…きっ、キス…しちゃ…!?!?」

案の定、状況が飲み込めねぇエルフェルトがパニックを起こしてやがったが、ジャック・オーは、

「あら?流石に乙女のファーストキスは憚れるものがあるけれど、あなたは違うって知ってるから大丈夫だと思ったの。」

などとケロッと言いやがる。

「どうしても気分的に嫌悪感が拭えないなら、すぐそこにフレデリックが居たから、上書きしてもらえばいいんじゃない?」

突如出された自分の名に思わず、今俺を呼ぶんじゃねぇ!!と叫びそうになるのを必死で堪える。
嫌な予感がし、とりあえず面倒事を避ける為にさっさと立ち去り暫く経った後、身体を後ろから思い切り体当たりされ、

首を締めるかのように抱き着かれた。
こんな事を遠慮無く俺にかます奴はジャック・オー、奴しか居ねぇ…。

「フレデリック〜!絶対今の見てた?見てたでしょう??」

ニヤニヤしながら聞きやがるジャック・オーからの質問に、
冗談も程々にしろとあしらえば、ふーん?あっそうー?などとほざきやがる…。

「やっぱ女の子の唇って凄く柔らかいのね?特にエルってば普段から手入れ行き届いてるからなのか、

身体からもほのかにいい香りがして〜」

「それ以上語るんじゃねぇッ!!!」

「エルの元に行く気になったかしら?」

「…そもそもだ、テメェが蒔いた厄介事じゃねぇか!」

「だって、飴切れで危なかったんだもの。でもあなたが偶々飴をエルに渡してくれてて助かったわ。」

「…エルフェルトに飴渡す前に、テメェから先に渡せばよかったぜ…。…俺は用事がある。テメェらにかまけてる時間はねぇ。」

「えーっ!?エルの唇に上書きしてあげないの!?」

「ああッ!?俺はこれからカイの奴に用事があるんだよ!!」

「……んーと…そしたらエルに、あなたの部屋で待ってるように伝えとくわね。流石にこんな時間だもの、

カイくんに用事があったとしてもこれから何処かに出かけるって可能性は低そうだしね。」

「ッ!?…ジャック・オー!?テメェッ!!!」

「あら、違った?それともあなたがエルのお部屋に向かう?でもそれは、あまりオススメ出来ないわ。
高待遇で専用の部屋まで用意されているあなたの部屋と、

同じく国賓待遇だけど、統一されてる客間に泊まってるエルの部屋とでは、声の漏れ方が全く違うもの。
…また、メイド達にゴシップネタを提供するつもりなのかしら?」

「テメェは…ッ!!」

「フレデリックー!素直にならないとダーメなんだぁ!!ほんとうはぁ、嬉しいくせにぃ!
私知っているんだよ?フレデリック、あなたが、最近王立図書館で、細胞学の研究してるって事!
一応ね?専門であるこのジャック・オーちゃんに聞く事しないで一人で研究してるって事はぁー?

研究内容を私に知られたく無いってことでしょう?
細胞学の研究、しかも法力学が発展した現在においても未だに理論が何も確率されていない細胞学って、

今の所一つしか無いんだよ?それはぁ…ズバリ避妊する方法…!」


「……黙れっ!……、そ、それ以上は…言うんじゃねぇ……っ。」

「んー、避妊具が足りなくなったら確かに大変よね。

貴方は多分、世界中を転々としてる筈だから、コンドームの調達なんてより難しいモノとなってる。…
今はエルはイリュリア城に置いていってるけど、その内一緒に連れていきたいのでしょう?
賞金稼ぎとして働けば働く程、ギア細胞が活性化しちゃって、それをなんとか性欲で発散させているんだもの。

そりゃ何が何でも連れて歩きたい筈よね。」

「ジャック・オーっ!!!」

「うわぁお!おっかないなぁもう〜!そんなに耳元で叫ばないでよぉ〜!そんなにおっかないとぉ…エルにも嫌われちゃうぞ?」

「…そりゃ無ぇな。」

「…大した自信〜!!…でも、ご名答ね…。エルがあなたを嫌うはずなんてないんだもの…。
だからって、そんなエルの好意にかこつけて、なんでもかんでもさせて良いってのは違うんだからね!?…わかった?」












◇◇◇◇◇



案の定、カイとかなり話し込み、城を離れるには明日以降にした方が良いと判断できちまう。
自身の部屋の扉のノブに手をやり扉を開け放てば、俺の懐に飛び込んできやがるエルフェルトを受け止める。

「……エルフェルト、テメェ…ノコノコと此処まで来やがって……。」

こいつが此処に来てる理由なんざ、ジャック・オーにけしかけられたっつうのがモロバレだ。
だって、だって…!と上目で訴えてきやがるこいつに、でこに指を突き、だってもクソもあるかよ。と溜め息をついた。

「……ったく、…よりによって今日かよ…、エルフェルト、お前にとっちゃ厄日だろ…。」

「…?…あの…それは…一体どうゆう意味で…………っ!?」

まっすぐな目で見つめてきやがるエルフェルトの顎を持ち上げ、軽く口付を交わし、離した。

「テメェにも前に言っただろうが、俺は仕事終わりは気が立ちまくって仕方がねぇってな。…」

奴の頬に手を置いたまま、まさか、わざわざ俺の部屋に来やがった理由が、キスの上書きだけで済むとはテメェも思ってないだろ。

そんな旨を伝えれば、無言で俺の身体に体重をかけてきやがった。

俺は奴の肩を掴みながら、自身の宛てがわれた個室へ入っていく、

その扉は、明け方まで開く事は無かった。






 

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