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契約の石、それは愛故かそれとも呪縛か。

R-18

賞金首を粗方捕まえ、元老院に代わりイリュリア連王達の手によって一新された新生終戦管理局に突き出し.賞金をたんまり頂いた後、
奴らが隠し持ってやがった金銀財宝を長年の付き合いがある質屋の親父にいつものようにように突き出せば、
コイツだけはちょっとうちじゃ買取は難しいと突っ返されたもんを手の中で転がしてみる。

今のご時世じゃお目にかかれねぇであろう、白金がベースの指輪に、
随分とクラシカルな古めかしいデザインを模された止め具に鎮座しているそこそこデカイ石、こいつはダイヤモンドか。
ダイヤなんぞ聖戦時にありとあらゆるもんが回収され、全てギアに対抗しうる武器に加工されちまったんじゃなかったのかよと、
自身の随分と昔の記憶を呼び覚ますも、曖昧過ぎてもはや覚えてねぇな。
裏世界の闇取引に突き出せば、破格の値段がつくだろうが、今はそんな面倒くせぇ事してる暇もねぇ。

せめて月に一度は報告に城に顔を出せと語っていた第一連王であるカイに事付を済ます為に、
ファイアーホイールMK.IIをイリュリア城へと猛スピードで走らせていく。









◇◇◇◇◇




城に辿り着き、もはや検問など無く難なく城内に通され、王により近い人物しか通されないであろうエリアを歩いていれば、
前からよく見知った顔が此方に手を降って歩いてきやがる。

「フレデリック、お久しぶり!」

「…ジャック・オーか。…丁度良い、コイツをテメェにやる。」

俺が持ってるよりか良いだろうと親指でコインを弾くかのように飛ばした指輪は、綺麗に弧を描き、ジャック・オーの掌に上手く収まる。
手渡された指輪を食い入るように見つめてる目の前の女は、随分と懐かしいものを拾ったのねー?と物珍しげに語り出した。

「ダイヤモンドかぁ…、今じゃ流通すらして無いって聞いていたんだけど…。
でも、このデザイン…前に…どこかで見かけたあるような…。えーと…?
あっ!思い出した!!これって『シンフォニー』のじゃない!?
昔のセレブの御用達!乙女達の憧れ!まさに生唾ごっくんものよ!!!
当時は…シンフォニーの結婚指輪や婚約指輪が女子の間でのステータスって言われてたのに、
今じゃその価値が無くなったのは悲しい事ね。
でも腐ってもシンフォニーよ。闇市とか裏取引とかのこの指輪の本当の価値が判る所で鑑定して貰ったら?
きっと高値で買い取ってくれるんじゃないかしら?いつの時代も、ヲタクなコレクターは居る筈だもの。」

「金にしてぇなら自由にしろ。俺は他に野暮用がある。」

「私は今の所お金には困ってないし、だからと言ってアクセサリーとしても必要性は感じないのよ。
あなたから貰った指輪をはめる指は、既に定員オーバーだもの。」

ジャック・オーが自身の身につけていた左手の皮手袋をスルッと抜き取れば、その薬指に輝く指輪。
紛れもなく、遥か大昔の己が覚えたての魔法法力の金属精製で“アリア”の為にと作り出した一点物の婚約指輪。

…持ってやがったんだな…と思わず呟いてしまう。

「あら!失礼ね。確かにあなたにとっては化石みたいな物かも知れないけれど、

私にとっては割と最近の出来事のように思い出せるんだから!
…まぁ…でも、あくまでも思い出せるのは、ときめきとかキュンキュンとかおセンチな気持ちとかじゃなくて、
これを貰った日に起こった出来事、嬉しかったっていう感情を感じたなぁとか、そんな表面的な事ばかりだけどね。
あ!もしかしてその言い方だと、渡した事自体忘れちゃったりしてたのかしら?」

「…なんでそんな事知りたがる…。」

「昔の私なら“忘れるなんて酷いじゃない!”とか言いそうだけど、お生憎様。今の私は知的好奇心ばっかり勝っているわ。」

「…完全に忘れてなんかいねぇよ、現に今、思い出しただろうが…。」

「でもきっとあなたの事だから、私の左薬指見るまで存在すら忘れてたんじゃない?」

「判ってんならわざわざ聞くな。」

怒るでもなく呆れるでもなく、やっぱりそうだったのねとクスクス笑いやがる奴の態度に、俺は一度だけ舌打ちをした。

「あ、そうよ!この『シンフォニー』のダイヤの指輪、エルにプレゼントしてみたら?凄く喜びそうだし、

このデザインなら彼女によく似合う筈よ!」

「テメェの好きにしろ。」

「何言ってるのよ!あなたから渡さないと意味が無いじゃない!
それに…エル、最近のあの子には“左薬指にはめられた指輪”が物凄く必要だって感じるのよ…。
あの子最近、身分問わず色んな男の人達から声かけられてて、
この前なんか新しくリニューアルした終戦管理局の所長として就任したお偉いさんから無理矢理手を握られて何度も口説かれてたわよ?
何とか愛想笑いで誤魔化してたっぽいけど、もうそろそろそれも限界になって来てるんじゃないかしら…。
エルがレオ君とお食事デートして、あなたが嫉妬で頭プッツンしちゃったのも、割と最近の話だしねー???」

「おい、ジャック・オー!そいつをこっちによこしやがれ!」

「はい!どうぞ☆

…まあ…あなたの事だから、手渡す時もロマンもおセンチも無さそうだけどね。
今エルは確か、カイくんとディズィーの自室でシンとラムと一緒にお勉強してるんじゃないかしら?

もう少しで終わる時間だし、せめてふたりっきりの時に渡してあげてね!

頑張ってねー!!」














「あっ、オヤジぃ!久しぶり!なあ、今回はどんな事外でしてきたんだ?
次外行く時は俺も一緒に連れてってくれよ!なっ!!」

「あ、ソルさん。お久しぶりです。お元気でしたか?
…シン!ソルさんと一緒に外に出るのは、ここまでお勉強が進んだらって約束でしょう?」

「…うぐっ、そうだった…。母さん…もちろん覚えてるぜ…。」

「シン…もう少しだ、一緒に頑張ろう。」

「ラムはとっくに出来てるだろ?何もここまでオレに付き合わなくってもいいんだぜ?」

「ラムはきっとシンに教える事が嬉しいんだよ。ね?ラム!」

「ふーん?そーゆうエルこそ、もう少し勉強しなきゃだめだって母さんに言われてたじゃん!」

「わ、私はっ、知力特化として“お母さん”に“創られてない”から仕方がないのっ!!!
……って、ソルさんっ!?!?い、いつの間にいらっしゃったんですかあっ!?」

「え?さっきから居たぜ?それで、ずっとエルばっかり見てたけど?」

「…ソルは、何やらエルに用事がある様子。…シン、私達は先に行こう。」

「えっ!?えっ…!?…ちょっ!!ラムにシン…!それって…!?」

ラムレザルとシンの言葉に慌ててやがるエルフェルトと、そのやり取りと俺の顔とを交互に見つめ、

その後、態と俺と視線を合わせ、何かを悟りふわっと笑いやがる“カイの連れ”に、俺は思わず気まずくなり視線を反らす。

「エルフェルトさん、今日はとても良いお天気みたいですから、貴女がいつも楽しみにされていた、

復興工事中のセントエルモが良く見渡せると思いますよ?…ソルさんと共にエントランスホールに向かってみてはどうでしょう?
丁度、日が沈む頃には晩御飯の用意も出来てると思いますから、その頃になったら、係の者にお二人を呼びに向かわせます。」

それでは。と、丁寧に俺に会釈をしたあと、奴は、部屋の扉に手をかけ、何事も無かったかのように去っていく。

俺と“奴”とのやり取りを物珍しく好奇心で見つめていやがったエルフェルトを睨み、

テメェ、エントランスに行くんじゃなかったのかよ。と語れば、

はっ、ハイっ!コッチです!!と、慌てて扉のノブを掴み、歩き出していく。




 

 

 

 

 


目の前を歩く、エルフェルトの後ろ姿。
歩く度に左頭の跳ね髪が揺れ、肩上より更に短い髪が動き、首裏のうなじが視界に入る。


前にコイツと最後に会った時を思い出し、“首の痣”が消えているのを認知すれば、

己が如何に長く城に暫く立ち寄る事が無かったという事実を再確認する…。
他のモンがコイツに寄り付かねぇようにと己が散々付けた痣なんぞ、生きてる限りはその内消えちまう。

手の中で転がしていた指輪を意識する。

お前は“コイツ”を愛だと宣うだろうが、
お前が母と呼ぶ奴に施された鎖付きの首輪と同等、もしくはソイツより質が悪いシロモノだぜ。

笑顔で此方に向き、ソルさんこっちです!と嬉しそうに語るエルフェルトの姿に、

まるで他人事の様に、これからのテメェの運命に同情しちまう。

コイツをお前に身に付けさせた先…、テメェは俺の世界の一部となる…。

かつて大昔…“アリア”は俺に言い切った、“此れは私の世界”だと。

目覚めたばかりのジャック・オーは、
「私の“肉体”は、貴方にその言葉を発した“記憶”はあるけれど、その時の感情を有しているのは、

今や私ではなく、エルフェルトの方よ。」

 

そう言い切りやがった。



…これは愛なんかじゃねぇ。

強いて言うなら、独占欲。
己が過去に拗らせた…選択の過ちの選び直しって奴だろ。

そんな男に捕まっちまうなんぞ、ヘビィ過ぎるにも程があるだろうが…。

そんな事を思えば
「またまたーそんな事言っちゃって!今更手放す気もない癖に。」
笑顔で論破しやがったジャック・オーの姿が脳裏を過る。

ったく…“アリア”、テメェは相変わらず鋭くて五月蠅ぇ。

エントランスホールの窓際に駈けていくエルフェルトの姿を見つめながら、思わず眉をしかめ笑みを浮かべた。




















◇◇◇◇◇


イリュリア城の王族の関係者しか立ち入り出来ない居住区エリアの開けたエントランス。

軽い休憩所になってるそこは、大きい窓が幾つも並び、城の一番西側に設置されたこの場所からは、
復興途中でまだ完成しきれていないセントエルモオルガンタワーがよく見え、丁度西日に照らされて白い壁が輝いていた。

「わあ…綺麗!今日はまた一弾といいお天気なんですね!
ここからだと、作業員の皆さんが一生懸命復興工事してるのがよく見えるんです。
もうそろそろ此処の階にタワーが届きそうで毎日眺めていたら、最近はよく作業員さん達と視線が合うんですよね。
皆さん本当優しくて、忙しいはずなのに必ず私に手を振ってくださるんですよー?」

そう言いながら窓に食いついて眺めるエルフェルトを発見した外の野郎達が、確かに思いっきり此方に手を振ってやがる…。

ね?と俺に笑顔を向け、すぐ窓を向き手を振り返すエルフェルトの後ろから、野郎共に殺気を含めてガン付けすれば、
奴らは何かを察したのか慌ててそそくさと現場に戻り、全員その場から居なくなった。

「あっ、あれえ?皆さん急に居なくなっちゃいました…。」

「この時間だ、仕事終わりかなんかだろうが。」

未だに気付いてねぇエルフェルトの会話に適当に合わせておけば、

「そうなんですかね…?いつもなら皆さんジェスチャーとかで私に色々伝えてくれたりするんですけど…。」

訝しげに考えこむエルフェルトに、もうそれは良いだろうが、と思わず溜息が漏れた。



「あの…そういえば…ソルさん、私に用事があるって…?」

「エルフェルト、テメェに渡したいモンがある、…。左手を出せ。」

「え?…左手…ですか…?」

掌を上に出された左手をひっくり返し、手の甲を上にする。


先程から自身の手に収めていた指輪を奴の薬指にはめれば、案の定、指輪のサイズが一回り程大きいのか隙間が空いてるのが見える。

驚き過ぎて目を見開き固まる目の前のエルフェルトは一旦放置し、
俺は金属整形の法力を指輪にかけ、エルフェルトの指のサイズに指輪の大きさを変化させる。

「…ったく、鉄や鋼ならざっくばらんでいいんだが…金や白金は繊細過ぎて面倒くせぇな…。」

白金の金属整形なんぞしたのは、あの指輪を作った時以来か…。
そんなことを思い出しながら前を見つめれば、戸惑って瞳をまん丸くしてやがるエルフェルトの姿が視界に入る。

「…え、っ、こ…これって…???」

脳の情報処理が追いついてないのか、言葉がままならなく目を見開き俺を見つめる目の前の奴に、とりあえず説明はしておく。

「そいつは魔法理論が確立される前の時代の遺物だ。

質屋で金にならねぇから持って帰ってきたんだが、こんなもん俺が持っててもしゃあねえだろうが。
だが…今テメェに手を振る野郎共の姿を見て確信したぜ…。
いいかエルフェルト、今渡したそいつは絶対にそこの指から外すんじゃねぇぞ。」

「…え?でも、“そこ”の指って…ここ(薬指)の指っ!!!!?
ソルさんっ!?意味っ!?意味わかってるんですかっ!?!?」

「そこじゃねぇと男避けの意味が無ぇだろうが。」

「へっ…、え…?………ええっ!?」


こちらを見上げるエルフェルトの表情がみるみる赤く染まる。
パクパクと口を開き、ワナワナと身体を震えさせ、それって…それっ…て…!?とぶつぶつと何かを語っている。

「おいエルフェルト…いつものテメェの妄想癖はどうした。」

その様子があまりに可笑しくなり、奴の顎を掴み上へ傾け、触れるだけのキスをすれば、
脳内処理が追いつかなかったのか、顔を真っ赤に染め、オーバーヒートしたのか目の前で意識を失い、此方に倒れてくる身体を支える。

「…ったく、コイツを渡せば、テメェがこうなんのは予測筈だったんだがな…。」

気絶して俺にもたれかかるエルフェルトを抱きかかえた後、ふと窓を見れば、
イリュリアの町並みに沈んでいく手前の夕日が、復興途中のセントエルモオルガンタワーを朱に染め上げていた。

 


 

◇◇◇◇◇

夕日も沈みかけた頃、気絶したエルフェルトを抱きかかえ、現在、奴の部屋である客間へ運んで行く。

コイツが起きていれば、何かしらの欲求が出て来たんだろうが、
気絶してから数分と経たない内に寝息を立てやがったコイツを今からどうにかしようとは思う筈も無く
(そもそもこいつを外に連れ出す為の資料集めで今の俺には時間が無い。)
近くに居るメイドにコイツの部屋のマスターキーを取って来させ、部屋を開けさせた。

少しだけ訝しげな表情を浮かべるメイドを下がらせ

(面倒くせぇが、俺とエルフェルトに関してはメイドの中では既に噂になってるっつう事は耳にしている。)
俺はコイツの部屋のベッドに真っ直ぐ向かい、エルフェルトをそっとシーツの上に転がした。

上掛けのシーツをエルフェルトに被せ、部屋から出ようと扉に向かう。

何かしら俺のジャケットを引っ張る感覚に咄嗟に振り向けば、犯人は寝入っている筈のエルフェルトだと判明し、
おいこらテメェ手を離せと幾度もその手をふり解こうが、何度も掴まれ離し、掴まれるのくり返しにうんざりし、
俺の手で奴の手を握り締めれば深い寝息を立て始めやがったからか、テメェのせいで俺が部屋から出れねぇだろうが。と悪態をついた。

鍵を閉めるにも俺がなかなか出て来ねぇからか、先程扉を開けたメイドが確認の為に部屋に入る早々、
寝入りながらもガッチリと俺の手を握り締めるエルフェルトを視界に収めるや、
何も言葉は発しはしないが、口元に手をやり意味深な表情を浮かべてきやがる。
俺は一度だけ舌打ちをし、見りゃ分かんだろ。コイツに掴まれて動けねぇから俺の部屋に転がってる酒類を何本か、
ショットグラスかロックグラスを持ってきてくれと目の前のメイドに一言告げた。
俺からの事付を聞いていた目の前のメイドは、ロック用に氷はお付けしますか?とサラッと聞きやがる。
そいつはありがてぇが、この状況で氷の管理なんぞ出来ねぇからいらねぇよ。と呟けば、
かしこまりました。とそそくさと部屋から出て行った。
それから数分と経たずに先程と違うメイド数名が、頼んだ酒類各種とグラスを床に置いても構わねぇような銀の盆に乗せ、
全て取りやすいように設置して去っていく。

ったく…、奴らがやたら優秀なのは理解したが、アイツら全員、野次馬根性まる出しかよ…。

メイド達の好奇心旺盛な視線に俺はうんざりし、開いている片手でジンの瓶を明け、ショットに並々注ぎ、くっと煽っていく。
ジェニパーベリーの香りが喉を熱く焼き付けていく。

飲み慣れた酒と飲まずには入られない状況が、俺の酒を煽るペースを早めていった。







◇◇◇◇◇


夜もそこそこ深まった頃、流石に早いペースでジンを煽り過ぎたのか、意識が朦朧としやがる。
空になった瓶を転がし、次はストレートのウイスキーを舐めるように口に含ませ、その薫りを味わっていく。

先程掴んだエルフェルトの手の薬指には、先程俺が着けたダイヤの指輪が怪しく光り輝く。
先程、メイド達が法力のランプを塞ぐベールを調整して微かな灯りのみ照らしてやがるからか、
昼間は視界を射る程輝いていた石は、今は鈍く輝くに落ち着いていた。
いや、寧ろこんな暗がりで輝くなんぞ、只の鉱石にしてはとんでもねぇな。ふとそんな事を頭に過る。

最近、かつてのダイヤに成り代わり羨望を集める石は、ギアの死体が化石化し掘り起こされて発掘される法力鉱石っつうもんで、
ダイヤが霞むほどに自力で輝くその石は、容易に人の欲望をも照らし出していった。

その石が発見された当時、俺は皮肉なもんだと感じたが、
ギアを狩る事をなりわいにしていた俺がそんな事考える事こそ皮肉だろうがと感じた事を思い出し、思わず眉間に皺を寄せ瞼を閉じる。

「ん、…ん?」

微かに聞こえる、俺の手を掴んで離さなかった奴の目覚めの声。

微睡んだ視線が、アルコールに酔わされた俺の視線と重なり合う。

「あれ…?私…、いつの間に…、ソルさん…?」

「おい、ネボスケ、やっとのお目覚めか?ったく…テメェのせいでとんでもねぇ量の深酒させられちまったぜ。
…まあいい、俺は自室に戻るぞ、後で此処の酒類や空瓶はメイド達に回収して貰う。エルフェルト、テメェはもう一度寝てろ。…じゃあな。」

少しふらつきやがるが、自室に戻るには差し支えはねぇな。戻ったら酒抜きがてら熱い湯でも浴びるか、
そんな事を思いながら立ち上がれば、俺の腕をガッチリ掴む感覚に思わす舌打ちを鳴らしてしまう。

「テメェ…いい加減に…!?」

「まだ行かないでくださいっ…!私の側に居てください…!!」

暗がりの中、上目で訴えてきやがる翠の眼。
自身の鍛え上がった腕に絡みつく、白い指先と薬指にはめられた指輪の輝き。

酒のせいで微かに朦朧とした意識が、容易に俺の欲望に火を灯しやがる。


「エルフェルト、聞こえなかったのか?いいから離せ。」

「嫌ですっ…絶対離しませんっ!明日になったら、ソルさんはまた何処かに行っちゃうからっ!」

「…、エルフェルト、その発言は、テメェがこのまま手を離さねぇんなら、

この後テメェ自身が“どんな目にあわされるか”を理解してからの言動か?」

「…そんな事…どうして聞くんですか…?そんなの…今更じゃ…ないですか…。
私を脅して手を離させようってソルさんの魂胆、もう判ってるんです。相変わらず、優しさが遠回り過ぎますよ…。
この指輪もらって、男性避けだって言われて…、私が…まるでソルさんのモノだって言われたみたいで…とても嬉しくて…。
私だって…あなたが欲しい…っ、今すぐ、あなたが欲しいんですっ!

あっ!その表情!またこいつは訳わかんねぇ事言ってやがるとでも思ってますねっ!!!
だ、だったらっ!も、もっとソルさんにわかりやすく言ってやりますよっ!!

ソルさん…っ、あ…、あなたの…っ、…そっ…そのたくましいモノで…っ…
わっ、私の奥をっ……つっ、貫い…………って、きゃ!?」

「……テメェはヘタクソかよ。」

「へ、ヘタクソってっ!?」

「煽り文句が余りに頭が悪く稚拙過ぎだと言ったんだ。ったく、…まあ、だが、悪くはねぇ。
テメェの言葉通りに、テメェの奥までガンガン貫き、俺のモンで掻き混ぜまくり、
テメェの中をぐちゃぐちゃにしてやろうじゃねぇか。ああ?…覚悟しやがれ。」

「…そ、そこまでっ!?わ、私っ!?言ってな…っ……んんっ!?」




◇◇◇◇◇



仰向けに押し倒し、奴の腰の下にクッションを何個か置き、腰を降ろさせる。
流石にテメェからしてぇと言い出したからか、抵抗も無く、その白く細い両脚をおずおずと己から開くエルフェルトの姿。

いつもは半端なく抵抗しやがる奴の従順な姿と、

眼下に広がる、相変わらず触れてもいねえのにとろっとろなそのエロ穴にさっさと中に挿入れてしまいてぇと、
前戯も不十分なまま、己のガッチガチになったモンを取り出し、手早く避妊具を取り付け、その入口にちゅっと這わせ、

体重をかけ、ゆっくりと奥まで挿入していく。

「…、そ、ソルさんっ、そのっ…いっ、いきなり過ぎや、しませんか…?」

「…痛いなら正直に言え、…暫くこのままだからな。」

「…いえ、その…痛くは無いんですけど…。」

最奥に到達してる感覚と、エルフェルトを一度もイかせる事無いまま最奥に挿入したからか、
オーガニズムを感じる前、まだ柔らかい子宮口の入口に自身の肉棒のカリの部分を挿入し、
ちゅー、ちゅ、と子宮口に吸われる感覚に腰砕けになりそうな所でを寸前で止める。

オーガニズムを感じる前の子宮口は、快感を感じる訳では無いからか、初めは若干訝しげな表情をして此方を見てくるエルフェルトが、
俺と視線を合わせて慌てて視線を反らした。

「…っ、な、なんて顔してるんですかっ…!
そ、そんなに…奥って…男の人も…き、きもちいいんですか…??」

目を見開きながら、此方を見つめてくるエルフェルトに、
テメェこそ、まじまじ見てんじゃねぇよとつい悪態をつき、快感を紛らわす為に俺は深く溜息を吐き出した。

“今”ので、奴の中がぎゅっと強く締め付けてきやがり、テメェも今ので感じてんじゃねぇのかと呟けば、
そ、ソルさんの表情が…っ、え、えっち過ぎるんですぅ!?と叫び、涙目で首を振った。

「こ、これって、一体何の意味が…!?…動かないんですか?」

「…あん?動いたら流石のテメェでも痛いだろうが。今お前の子宮口に俺のモンぶっ刺さってやがるからな。…言ったろ、暫くこのままだ。」

ひたすら疑問を浮かべやがるエルフェルトの顔に思わず鼻で笑いながら、
間の前でふるふると所在投げになっていた両胸を自身の両手で掴み、弾力を感じながら遠慮なく揉みしだいていく。

その刺激に反応しツンと立ち上がる乳首を摘み、弾き、片方は唇で吸い、舌で舐め、もう片方は指で摘みつつ、胸全体を揉みしだくを続けていれば、
快感で眉をしかめ、涙目を浮かべ、う…とも…あ…ともつかないかすれ声を上げ、頬を真っ赤に染め上げまくるエルフェルトの姿が眼下に入る。

「…やだ…、だめです…っ…、きもちいいっ…んんっ!!……っひゃあっ!?っ…くぅ…!!!
わっ…わたしぃっ…!!…胸だけでこんなっ…!!!…イっちゃ…っ!?~~~~ッ!!!?…んんっあぁあああああっ!!!!」

「…、ッ…ハッ…凄ぇ締め付けだぜ…っ。…ま、とりあえずこんなもんだろ…。
…エルフェルトォ!!、テメェの中で一回射精(だ)させろ…!!
まだっ、奥のガン突きは避けてやる!」

子宮口に微かに入れていた自身の先端を、
手前の性感帯に当たるように擦るように動かせば、エルフェルトの身体がビクビクとしなり始めた。

「んふぁぁあっ!!ン、んんっ…んあぁあっ!!」

相変わらず色気があるんだかないんだかわからん嬌声を荒げ、

先ほどのウテルスを施した後だからか膣内を容赦なくギュッぎゅっ締付けてきやがる。
その際無意識に腰が引け、逃げようとする奴の腰を強く掴み、

尚の事畳み掛けるように恥骨付近の性感帯に己の肉棒のカリの部分を擦り付ける。

「だめぇ!それは…ぁあぁっ!!!?」

口から涎をたらし、泣き叫び、虚ろな目で俺を見てくるエルフェルトの醜態は、余りにもたまらねぇ。

挿入しているエルフェルト自身の入口近くでぷっくりと主張している陰格を、奴の溢れて来やがる愛液と交えて親指でクリクリと虐めれば、
より一層その細っせぇ腰を弓形にしならせ、体格の割には主張が激しい乳をゆさゆさとゆらしながら激しくイキまくり、
その際の膣の締付けで、俺は思いっきり奴の膣内に避妊具越しにたっぷりと射精しまくった。







「エルフェルト、テメェ…俺が知らねぇ内に随分と身体が物好きになって来やがったな…?」

前に戯れでコイツに教えた自慰行為で、Gスポットやクリトリスが開発されたって事かよ…。
こいつが己で自慰行為をしてる姿を想像しただけで若干興奮し、俺は口内に溢れた唾液を飲み込んだ。

「…ソルさんがっ…なかなかこっちに帰って来てくれなかったからっ…、
わ…私っ…我慢出来なくて…自分でも何度か…その、慰めてしてみたりしてですね…?…でも…やっぱり何か違って…。

だから…、き、今日は、…その…ですね…私と…いっぱい…キモチいい事しましょうね?」


俺の首を掴み、頬を染め、下から見上げてくるエルフェルトの上目遣いの笑顔に、
先程射精しまくった筈の己のブツが、直ぐ様ボルテージMAXにさせられちまう。

「キャ!?え!?え?、ソ、ソルさん…っ!?…またっ、大きくなっ…!?」

「っ、…上等だ…ッ!!テメェの意識がぶっ壊れてひいひい言うのが先か、

このベッドがぶっ壊れてひいひい言うのが先か、愉しみじゃねぇか。」

「え!ええっ!?ベ、ベッドぶっ壊れるまでってッ!?そ、そんなのっ!…わ、私の方が確実にっ!!
ベッドより真っ先に私の方が壊れるにきまってるじゃないですかっ!?!?」

「何言ってやがる、テメェから言い出した事だろうが、“俺といっぱいキモチいい事をする”んだろ?
遠慮は入らねぇな?…初っから飛ばしていくから覚悟を決めろ!!」










◇◇◇◇◇






「…そ、ソルさん…も、もう…むりれす…ぅ…っ!からだもたな………っ、んぁあああ!!」

かれこれ何時間経過したのか定かじゃねぇが、

微かに聞こえていた外の奴らの活動音らしきモノがさっぱり聞こえなくなりやがったから、深夜に差し掛かったか。
エルフェルトの腰を後ろから掴み、ガンガンと自身の腰を突き入れながらふと思う。

部屋に置いてあるテーブルに必死にしがみつき、喉の奥から声を出し唸りまくる目の前のコイツのうなじに軽く噛み付き、

吸い、舌を這わせる。それに反応して中を律儀に締めやがり、思わず口内に溜まった唾を飲み込んだ。

しきりに頭をテーブルに擦り付け、ダメ!もうダメなんれすう!

と泣き叫び、快感による涎をその小せえ口からたらしつつ涙目でこちらを睨むエルフェルトの醜態に、
何らかの快感物質が脳内から分泌され、脊髄に伝って背中にゾクゾクとしたモンが走っていくのを感じ取る。

「ッ……まだだ…ッ、エルフェルト…テメェからけしかけてきやがったんだろうが…ッ…、最後まで責任持ちやがれ…っ!!」

「…やり過ぎっ…!やり過ぎなんれすってばあああ!!!…何事にも限度ってモノがぁああっ!?」

「…俺の限度はまだまだなんだがな…?…テメェにそれを解ってねぇなんて言わせねぇ…ッ。」

そうコイツの耳元で快感混じりに呟けば、びくんと身体を跳ね上げ、ギュっとテーブルにしがみついていた手を握りしめる。
声無き声で軽い中イキしやがったエルフェルトの胸を掴み、先程からツンと立ち上がった両胸の乳首をぎゅっと摘めば、
「それはらめぇえええ!!!」と呂律が回らないまま泣き叫び、思い切り腰をを弓形にそらし激しくイキまくる。

「んんんっ、んぁああ!!!!またイっちゃう!!!いぐのぉおお!!!!」

「………ッ、!!」

態とイかないように歯ぎしりをしたと自身の快感に飲まれた息が耳につく。

此処で一度果てちまっても良いんだが、エルフェルト、コイツは、一定の快感越えをさせればより面白れぇ醜態を晒しやがる。
此処までしつこく畳みかけたからには拝まねぇ手は無いだろ。

今だにガクガクと中で快感をキメてやがるエルフェルトの顔を此方に向け、じゅるっ、じゅると唇を貪りながら、
ギンギンに固く立ち上がった己のモンで先程よりも激しく奥に突き入れてみれば、
案の定、イヤだのムリだのおかしくなっちゃうだのを泣き叫び、短いペースでまた激しく中でイキまくりやがった。

「ソルしゃんっ!!!きもちいいっ!!!ぎもぢいいよう!!!ああー!!!またいっちゃ…!!!またいっちゃうのぉおおおお!!!」

「……ッ……エルフェルト…ッ、素直になりやがったな…っ!!……そのままイッテろッ……俺もイくッ!!!」

「……!!…んぁぁああああ!!!」

「……ッぐ…っ!!!」














避妊具越しではあるが、エルフェルトの中で射精し終わった後抜き取れば、
未だにぎゅっぎゅと締めやがって汁でまみれたエロ穴に避妊具を持ってかれてしまう。

「おいおい…まだ足りねぇのかよ…。」

先程の畳み掛けで、脳内のネジが壊れて視線が定まんねぇエルフェルトの顔を引き寄せ、軽く触れ合うキスをすれば、
コイツから俺の顔を引き寄せ舌を突き出し、吸うように口付をしてきやがる。

「ぢゅ…っ、ちゅる…っ…ん、んあっ……ソルしゃん…ソルさんっ…。」

「…っ、なんだ…?」

「…すきなんれすぅ……すき…。」

「……、ったく…エルフェルト、テメェはよ…。意識定まってねぇ癖に、一言目からそれかよ…っ、
…、ま、こうなっちまったらテメェの事だ、覚えちゃいねぇだろ。………。……俺はしつこいからな。せいぜい覚悟しやがれ。」

そう声かけをしながら、コイツの左手を掴み、夕刻時に身に着けさせた、白銀に光る金剛石の指輪ごと左手の薬指の付け根に口付けた。
ダイアモンドの石の意味を、遠い昔に離れる事になっちまった、
目の前のコイツと同じ髪色、瞳の、ある意味コイツそのものと言っても過言ではない人物の言葉を思い出していく。

きょとんと見つめてきやがるエルフェルトの頭に手を置き、此方に身体を引き寄せ持ち上げた。
先程散々互いがまぐわっていた跡が凄まじいベッドのシーツにもう一度押し倒し、覆い被さる。

その内、ベッドの軋む音と、エルフェルト、コイツの嬌声は、空が明るくなる寸前まで鳴り終わる事は無かった。

 

◇◇◇◇◇







あの後散々いろんな体位をさせられて、節々が軋む身体をなんとかベッドから起こす。

案の定、朝方近くまで私を好き勝手した人はとっくにこの部屋には居なくて、

誰も目覚めていない朝一に仕事を理由にイリュリア城を立ち去ってしまった。

ソルさんは…覚えてないだろうって言ってたけど……。…、…ごめんなさい。きっちり覚えちゃってます…。

意識は虚ろで、頭がぼやけていたのは確かで、でも、あなたの言葉と、その仕草と、
左手の薬指に光る指輪に口付けた時のあなたの表情は…忘れたくても忘れられない…。今も思い出して涙が出そうになるの。

自身の左手を目の前にかざしてみる。

白く輝くその石に、そっと自分の唇を付け、ぎゅっと握り締めた。
そのまま思わずボフンとベッドにダイブする。

先程まで此処で一緒に寝ていた人の香りがする。
私は裸のままその残り香を纏ったシーツに包まり、瞼を閉じ、ウトウトしてその内意識を手放した。






◇◇◇◇◇






「エルフェルト様、おはようございます。」

「ふわっ!?!?」

耳元で聞こえてきたのはいつもお世話になっているメイドさんの一人で、

起き上がった私にガラスのコップに入れたお水を差し出してくれた。

「あ、ありがとうございます。…あ、あの…?」

「勝手にお部屋に入り申し訳ありません、ソル様に頼まれていたお酒の回収をと思ったのですが、
入るや否や…あまりのお部屋の惨状に、少しばかり掃除をさせて頂いておりました。」

「い、いえいえ!!そんな気にしないでください!私なんて、む、むしろ此処に居させてもらってるだけでありがたいんです!

本当にいつもありがとうございます!!」

私は思わずベッドの上で、ペコペコとメイドさんにお辞儀をしたら、包まっていたシーツが開けて、

メイドさんに裸を晒して思わず慌ててしまう。

「あああああごめんなさい!」

「落ち着いて下さい。同じ同性ですし、それに私達は、

あなた様が体調を崩され意識不明の時にあなた様の身体をお拭かせさせて頂いていたので、見慣れてますから。」

「そ、そうだったんですか!?」

「寧ろ、とても綺麗なお身体だと……あ!いえいえなんでもございません!!」

「…???、あ、あの…?」

「ご、ゴホン、…只今、何かお召変えお持ち致しますね?…本日はお外に参られたり、どなたかとご予定はお有りですか?」

「あ、いえ、今日はちょっと…その、……か、身体が重いというか、…怠いというか、…。」

「冗談ですよ。今日は何か身体を締め付けないお洋服ご用意させて頂きますね。誰かお客様がお見えになっても、

体調不良とお伝えしますが宜しいですか?」

「え、え!?…あ、は、はい…っ、よ、宜しくお願いします…。」

「実はご自身でお身体清めるのもしんどいのでは無いですか?」

「え?」

「ご遠慮なさらず、バスルームまで歩けますか?歩けるのでしたら、只今、湯船にお湯はってきますから、そのままお待ち下さい。」







あうー、お風呂のお湯が身体に染み渡って幸せな気持ちになる。

…何もかもお世話になってしまったなぁ…。
イリュリア城に住んでると、まるで自分がお姫様にでもなった気分になってしまう…。

だ、ダメ!エルフェルト!きょ、今日は仕方が無いとしても、キチンと自分で出来る事はしなくちゃ!このままだと女子力が衰えちゃう!!

先程頭と身体洗うのを手伝ってくれたメイドさんにお礼を伝えて、
離し難くてバスルームまで身につけてきてしまった左手の薬指の指輪を視界に入れて恥ずかしくなる。

この石…って、一体何の石だろう?

ソルさんは、前時代の遺物だって言ってたけど…。

今日は体調不良でお部屋で過ごすしか無いから、メイドさんに情報端末持って来て貰おうかなあ…。








メイドさんに情報端末を持って来て貰い、お昼ご飯を食べ終わった後、この指輪について色々調べてみる。

法力で指輪をスキャンして、検索をかけてみる。
案の定、なかなか情報が出て来なくて、それでも分かった事は、この指輪の石はダイアモンドって言われる石だと言う事。

うーん…
ジャック・オーさんに聞くのが情報端末より早そうだなぁ……。
でも…、今日
ジャック・オーさんに会うのは恥ずかしい!!!絶対に隠せなくてバレちゃう!!事細かに追求されちゃうっ!!!!
うあああああ!!!昨日の事思い出しただけでも恥ずかしいのにいいいい!!!!

思わず机の上に突っ伏して身体をわなわなさせていれば、大丈夫ですか?と一人のメイドさんに声をかけられた。

今日は気分が落ち着くようにハーブティーにしましょうか。とにこやかに言われ、
あれ?…もしかして……???と頭に過ぎったけど、…………気にしない事にした。






「指輪がどうかなされたのですか?」

ハーブティを飲みながら、ひたすら貰った指輪とにらめっこしていれば、メイドさんにそう声をかけられる。

「あの、これの石は何かは分かったんですが…、この石の意味とか…謂れとか何かわからないかなぁって…。」

「その石はダイアモンドですね?」

「え!?わかるんですか!?」

「ええ、私の曾祖母が常に身につけていましたから、わかります。
その形だと婚約指輪ですね。曾祖母も、似た様な形の指輪を常に身につけていましたから、なんだか懐かしいです。」

「や、やっぱり…婚約指輪……。」

「ええ、大きい粒のダイアモンドは、大昔はとても価値があるものでして、

昔の人々は、婚約指輪として殿方が愛しい女性に贈ったものと聞いております。
ダイアモンドの石の意味は“永遠の愛”。婚約指輪や結婚指輪には欠かせなかった石だと聞き及んておりますよ。」

メイドさんからそのお話を聞かせて貰って、余計に心臓がバクバクいってる…。

ま、まさか…ソルさんに限ってそんな…!!

た、多分、遺物として拾ったって言ってたし、たまたま偶然思い付きで私にくれたってだけだと思う!!

思うんだけどっ……、

あの時の、…私の左手の薬指を…この指輪ごと口付してくれた時のソルさんの表情は……、

表情は…っ、

ソルさんは………長い年月生きてる筈だから…、昔の指輪の謂れの事も石の意味も…知っててもおかしくない訳で………。

…っうぁあああああ!!!、

わ、私っ!私っ!ずっとソルさんから言葉がほしいって思ってた!!!思ってたけどっ…!!!

こ、こんな形でっ…こんな形でっ!!!!

あまりにも滑稽な驚き顔で固まっていた私に、
ハーブティーのおかわり入りますか?と優しく声をかけてくれるメイドさんに、
私は思わず「ふぁ、ふぁいっ!!」って返事をしてしまい、余計に恥ずかしくなる。

そんな私の表情に、目の前のメイドさんは口元を抑えて、ふふふと堪えた笑みを浮かべている。

「…ふふ、あ、申し訳ございません…。ですが、なんだかあなた様の表情の移り変わりの激しさを見ていますと、

なんだかとても微笑ましくなってしまいまして…。」

「……皆さんにもそう言われます…。私としては、…もっとこう!落ち着いた大人の女性になりたいんですがっ!

…そう、メイドさん、あなたみたいな…。」

「私(わたくし)は、それはもう…歳を重ねておりますから、否が応でも落ちつきますよ。
ディズィー様もそうですが、シン様やあなた様やラムレザル様を見てますと、一人の人の親として少しばかり切なくなります。
生物としての違いだと言われればそれまでなのでしょうが、もっとあなた達にも、子供でいる時期があればいいのにと思ってしまいますね。」

差し出がましい事を言ってしまい、申し訳ありません。
そう節目勝ちに笑うメイドさんに、私は、人間達で言う「お母さん」ってモノに少しだけ触れれた。そんな気持ちになった…。


「…そういえば、メイドさん達は、私達(ギア)の事を偏見じゃない感じで理解されてるんですね?

メイドさん達もそうですが、衛兵さん達やお城の内部に関わる方達もそんな風に感じますが…。」

「…その事ですか。…それはカイ様から城に務める者以外には他言厳守を命じられていますが、当のご本人ならば大丈夫でしょう。
…前は多少なりともギアに対する恐怖や偏見は、このイリュリア城に置きましても多々ございました。
ですが…そうですね、あなた様が行方不明になられ捜索を開始し始めた辺りにて、
カイ様から、城に務める者全員に、事細かにギアに対する説明と、

ご自身の奥方様がギアである事を隠されていた経緯の謝罪会見があったのです。

…私(わたくし)共メイド一同は、ディズィー様のご解任からご出産までお手伝いさせて頂いた者も多く居ます。
新しくイリュリアが国として、設立当初から務めてる者が殆どです。

ディズィー様のお姿から、そのご存在が私達人のそれとは異なる事など一目瞭然でした。
ですが、カイ様とディズィー様のお二人の仲睦まじい姿に心打たれる者はとても多かった。
そして、ディズィー様の存在を人質にカイ様が上の方々から脅されている…。そんな事もなんとなしに感じておりました。
それでもなおカイ様は、私達城に務める者も勿論の事、イリュリアに住まう者皆の日々の幸せの為、苦悩しながらも戦う様を拝見し、
私達も、カイ様やカイ様が大切にしたいと思われる方達を大切にさせて頂きたい。そう思っているのです。」

ですから、カイ様がディズィー様と共に最も大切にしたいと思われているご子息であるシン様のご友人である
あなた様やラムレザル様に失礼など働けません。そう笑顔で見つめてくれた。

「だから、皆さん私達に優しいんですね…。本当にありがとうございます…。」

「…表面に見えているモノだけに囚われて物事を判断してはいけない。

この言葉は私達イリュリア城に務める者の暗黙の了解となっております。…何故だかわかりますか?」

「…え?…どういう事ですか?」

「あなたも良くご存知でしょう。カイ様のご友人であるソル様、あのお方の存在があったからこその学びですね。
初めは、あの方の存在に異論を唱える者も沢山おりました。イリュリア城の窮地の時に颯爽と現れ解決し、

いつの間にか姿が見えなくなる…。
巷で聞こえてくる噂が、その存在の異様性をより一層浮き彫りにさせました。
ですが、シン様が生まれ、ギアの特徴である成長の速さに、その存在を隠し続けるのは限界とカイ様が察した頃に、

処ともなくソル様が現れた…。
カイ様には辛いご決断だったと思われます。最愛のご子息を、いくら信頼に置ける方だとしても、預ける事しか出来ない事実に。
案の定、カイ様もディズィー様も暫く後悔の念にかられていらっしゃいました。ですが、今にして思えば、

カイ様のご判断は間違いでは無かった。今のシン様を見てるとそう感じます。」

「…うん、シンは、とても素敵に育ってるのわかりますもんね。カイさんやディズィーさんの愛情は勿論、

ソルさんからも沢山愛されて育ったんだなぁってわかるから…。」

私の語る言葉に耳を傾けて、でも、その話題にはメイドさんは頷くばかりで、何も語っては来なかった。

…あ、もしかして気を使わせてしまったかな…?

多分、色んなルールや事付があるのだと思う。

そのルールの中で、働いているんだなぁって、余計な事は詮索しない。

そんな仕事の姿勢を感じて、私は、改めてメイドさんにお礼をさせて貰う。

「いえいえ、それが私(わたくし)共の仕事ですから。お気遣いありがとうございます。
何か、ございましたらご遠慮なくお申し付け下さいね。」

そうにこやかに微笑み扉の前でお辞儀するメイドさんに私は笑顔で見送った。

 

 

 

 

 

 


 

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