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​私だけの愛しのヒーロー。




あの事件から、約一ヶ月…

体のあざが少し残ってて、本当にあった事なんだなぁって実感を感じてしまう。
でも、今の私の頭の中は、あの嫌な事件の後で、ソルさんの言い放った言葉で脳内がいっぱいだった。


『…ったく、面倒臭ぇな。…そんなに“初物”が大事なら、

さっさと己が気に入った奴見繕ってさっさと事を致しちまえばいいじゃねぇか。』



うーあーー!!!

何を考えているの!?エルフェルトっ!!!?
いくらソルさんからの言葉でも、それをダシにしてソルさんに迫るとかっ!!!

一番したらダメなヤツうううううっ!!!

…でも、確かに、なんか私…変なおじさんや男の人に付きまとわれたりするの多くてっ、
いつ私の貞操がよくわからない人に奪われちゃわないかとか考えたらっ!!!

だって…わ、私っ!い、一番最初は…ソルさんに捧げるんだ………って決めてるし…

…ってこんな年になって何を言ってるの私はああああああああ!!!

私の友達でも、もう何人か、彼氏とラブラブしてたら致しちゃった!って子がもうチラホラと出てきてるじゃないっ!!!

ぐぅうううう!羨ましい!!羨ましいよう!!

私もソルさんとラブラブしちゃった果に致してしまいたいっ!!!
でも、それには、ソルさんに…っ!ソルさんに想いを伝えなくちゃならないからぁああああ!!!

一人リビングで頭抱えて、あーやら、うーやら悶えていたならば、
ラムから「エル変だ」と相変わらず一言の台詞がキツイ。




「エルのそんな姿見てるの、もう飽きてきたよ、今悩んでる事は、私に話せない事なの?」

「っ!?ら、ラムっ!!?……い、いいいいいえなくないよ?」

「…“い”が多い。……あながち、ソルがこの前言い放った言葉で悩んでるのでしょう?
…ソル本人からのお達しが出たんだ。そんなに悩むなら、さっさとすればいい。」

「ラムがどんどんソルさん化してってるっ!?!?でも、ラムは、大人になってからって!」

「世間的にはその方が周りに認められやすいってだけだ。でも、確かにソルの言う事は一理ある。
…エルは、本当に変質者に狙われやすい。なんでそんなに狙われるのかわかんない程狙われやすい。
だからエルが貞操にこだわっていたら、エルの命いくつあっても足りない。

命かけちゃう程の貞操、さっさと捨てた方がエルの為になる。」

「ラムーーーっ!?!?お、女の子がそんな割り切っちゃだめだよ!!!」

「私は別に大丈夫だ。貞操にこだわりなんて無い。命が一番大事だ。」

「ラムぅううううーーー!?!?」

「…エルにはそんな事で命落としてほしくない…。私のたった一人の妹なんだ。とても大切なんだ。

…だから…何が何でも生きてて欲しい。」

「ラム…私もラムには長く生きてて貰いたい。一緒におばあちゃんになろうね!」

「うん…。………そうと決まれば、エルはさっさとソルに事を伝えなきゃならないね。」

「えっ!?!?も、もうっ!?!?」

「より早い方がいい。また新たな変質者がいつどこでエルを狙ってるかわからない。」

「ら、ラムっ!?ちょっ、ちょっと待ってっ!?!?、こ、心の…心の準備があああああああ!!!!」










今日は金曜日で多分急な予定(副業)が入らなければソルさんは明日明後日おやすみな筈…。
私は明日はお昼にアルバイト入ってて夜は…夜はヒマだし…。明後日はおやすみだし…。

よし!ソルさんに、突撃して大丈夫だったらあ、明日にしてもらおう!!!

ソルさんが帰宅して三人で晩御飯食べ終わった後、後片付けし終えたラムはさっさと自室へ引きこもる。(多分態とだね…。)

私は意を決して、ソルさんに向き合った。


「ソルさんっ!!!」

「…なんだ?」

ソルさんが自分で手作りしたレコーダープレイヤーに、自分が集めに集めたQUEENのレコードをはめる為の、

レコード置き場を物色しながら私の話に耳を傾ける姿。

「あのっ!そのっ…、ま、前にソルさんが言ってた、私の貞操捧げたいと思える人が見つかりましたので…。」

「あ?…なんでいちいち俺に報告しやがるんだテメェは…。で?どんな奴だ?一度喰われて逃げられて終いじゃあ、

結局そこらへんの変質者と大差ねぇぞ。」

「誰でも良いとかおっしゃいといて、結局誰でもは良くなかったんじゃないですかっ!!」

「せめて、面倒臭えテメェの面倒をよく見てくれる奴にしとけ。」

「…あ、その点でしたら!もう完璧に基準はオールクリアーしてますよ!!

今まで赤の他人である私の面倒見てくれてますもん!」

「………あ?…、……ちょっと待て、テメェの話は元からよく見えねぇが、今のは尚の事よく見えねぇだろうが。」

「………あの…、その…、っ!!!…そ、ソルさんにっ!!!

わ、私の初めて………っ、も、貰ってい…頂けないかなぁー????とか……!」

「…………………………、

 

ぁあっ!?……、……、エ、エルフェルト…っ。…テメェ…今…なんつった!?」

「…わ、私の初物っ!!ソルさんに頂いて欲しいんですっ!!!!!

(…わ、私っ、言っちゃった!?!?!?言っちゃったアアアあああ!!!)」

私の響き渡る声に、レコードを探していたソルさんの手の動きが止まった。


そして皺を寄せた眉間に、指をやって、スタスタと私の前を通り過ぎ、ボスンと、

心此処に非ずみたいな面持ちで、ソファーに力なく座った姿。

「………、…。……、つまりだ……テメェは……、……俺の事が好きだって事か…?」

ソルさんにしては、珍しく単刀直入に聞いてくる質問に、私は顔を蒸気させながら、コクコクと頷いた。

「………、おい、それは何時から………いや、今のは忘れろ。」

戸惑いながら口籠るソルさんに、私は、恥ずかしいながらも淡々と、伝えたいと思った事を伝えよう。そう思った。


「……ちょっと長くなりますけど…いいですか…?

私とラムの小さい時の二人の楽しみが、お母さんの目を盗んで垣間見ていた、とあるテレビ番組でした。
よくある正義のヒーローが悪の手先をやっつけるアニメ番組…。
そのアニメの悪の手先の一人が、物凄くかっこよかったんです。

哀愁があって、ワイルドで。私は彼がとても大好きになって、頑張って色々調べたら、

このキャラにはモデルになった実際の人物が居るって事でした。
ラムと私がお母さんの研究対処として頑張ったご褒美として、お母さんが私達の願いを一個だけ叶えてくれる日に、

私はその人に会いに行ったんです。
世界総合格闘技機構。ソルさん、あなたがまだ、“バッドガイ”として名乗っていた頃の出来事です。
子供の私の頭を何も言わずに撫でてくれました。サインも貰いました。あの時は本当にありがとうございました。

シンと友達になって、シンから、シンのお爺さんが総合格闘技してると聞いて、

私はいても経ってもいられなくてシンに会わせて欲しいって何度も頼んだんです。
その時は、既に総合格闘技の事か大好きになっていたので只のミーハー心だったんですが、

…でも、あなただとひと目見てわかりました。“バッドガイ”さんだ。って。
覆面被ってましたし、バッドガイさんは一言も喋らないので、どうして判ったんだって聞かれたら、

乙女の直感って答える事しかできないんですが…。
でも、あってましたよね!恋する乙女は最強なんです!!なーんて!」

「あんときのガキか…」

「え!?覚えててくれてるんてすかっ!?」

「どうも随分辛気くせえ顔してやがってと思ったからな。…あんくらいのガキなんぞ、

家族と出かけるったぁ、終始笑顔がデフォだからな。

 

…おい…ちょっと待ちやがれ!?あんときのテメェ、髪色も目の色も随分違ってるじゃねぇか…!」

「多分、お母さんの研究のせいだと思います。研究した後、よく髪色変わったりしてましたから…。」

その話を聞いて、私から顔を背け、掌を握り拳にして力を込めてるソルさんの姿。
自身も研究者であり、研究対象でもあるソルさんは、実験の過酷さは身に沁みて理解できるのだと思う。

泣き叫ぶ程に辛かった。

お母さんはなんで私達にこんな事するの?って何度も聞きたかった。
でもそれをしたら、お母さんから見捨てられてしまうんじゃないか…って…。

私はソルさんに近づき、目の前でしゃがみ、力を込めて握り締めている掌を私の両手で包み込む…。

「幼い頃、私がバッドガイが好きだって言ったらよくからかわれたんです。悪い奴好きなお前は変だ!って。
悪い事したのは何か理由がある、そんな風に言っても誰も聞く耳持ってくれなかったんですよ。
でも、シンが俺も超ー!バッドガイはカッコイイって思うね!って私に言ってくれたんです。

それがシンと友達になったきっかけ。
…今思えば、シンは、きっとソルさんの正体を知ってたんですよね。でも、そのお陰でこうしてソルさんに出逢えた。

私にとって、ソルさんは、それこそ、私を助けてくれた“ヒーロー”なんです。
そりゃあ、ちょっと強面ですし、わからずやですし、融通効きませんし、

ちょっとデリカシーが欠ける所も無きにしも非ずですがっ!

…私が色んな事に巻き込まれて怖くて眠れない時は傍に居てくれましたよね。

私が間違った時は本気で怒ってくれましたよね。正論過ぎて辛いときもありますが、
真剣に向き合ってくれてるって感じてとても嬉しいかったんですよ。優しいなぁ…って。

……あなたが大好きです。とても大好きなんです。

私の初めては、あなたに捧げたい。これは、私の幼い頃からの夢だったんです…。
命を蔑ろにしてごめんなさい。でも、私にとっては命をかける程の大問題だったんです。

……ソルさん……、私の夢……叶えて…貰えませんか…?」

 

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