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深く眠る

愛しい人に、別れを誓う口付けを。

​R-18

 

「…っ、ん…アレ…?私…」

いい匂いがする…とても温かい…あ、そっか…ソルさんの匂いだ…。
ふと目が覚めて、隣を見れば、居ると思われた人が居なくて、首を傾げる。

まだ、明け方に入りたてで、空はほのかに青白い。

リビングの方で何やら微かに音がしてる。
私は気になって扉に手をかけて、初めて気がついた。

わ、私っ!真っ裸!?

慌ててベッドのシーツを探して見ても、先程まで身につけていた下着すら見つからなくて焦ってしまう。

もしかして、私が寝入った時に苦しいだろうって取ってくれて、洗濯機にでも入れてしまったんじゃ…!
それに、持ってきてた代わりの服とかは、リビングに置いたバックの中だし、

どっちにしてもリビングに行かなきゃならないのは明確で、

ベッドにあるシーツを自分の身体にぐるぐる巻いて、私は意を決して、リビングにつながる扉に手をかけた。








リビングには誰も居なくて、私はとりあえず自分の鞄を持って、寝室の方へ足を運んだ。

途中で見かけたリビングダイニングの明かりが気になって覗き込めば、ダイニングテーブルの上に書類を積み、
今主流である法力と電子機器の端末を使ってひたすら何か入力しているソルさんの後ろ姿が視界に入る。

下はスエットらしきモノを身に着けてて、でも上半身は裸のままで、私は思わず視線を反らした。

そうだった!このまま気付かれない内に着替えなきゃ!
そう思い至り、その場を立ち去ろうとすれば、いきなり声をかけられてひゃあっ!!と変な声を発してしまう。

「…目が覚めたみたいだな。体の調子はどうだ?」

「あ、大丈夫です!…寧ろあきれられたんじゃないかって思ってましたから、ご心配ありがとうございます。
なんだか…そうゆうのってあんまりされた事無かったので嬉しいなぁ、なんて…。

…ソルさん?」

私の言った言葉に眉を潜めこちらを見つめてくるからか、私は、おもわず戸惑ってしまう。

わ、私…なんか変なこと言ったのかな?


「…エルフェルト、もう一度言うぞ、お前に今の仕事は向かねぇ。…辞めろ。」

「……っ、ソルさん、それは…っ」

「大体のエスコートガールを頼む男ってのは、現在パートナーが不在か、居たとしても一人の女では物足りねえ飽き性、
金にモノいわせれるっつう事は経済力はあるんだろうが、ま、そんな野郎にろくな奴はいねぇな。…俺を含めてだが。」

「そんな事…っ!」

「今お前が辞めると一言いえば、俺がテメェを買ってやれる。だが…エルフェルト、

お前は契約会社に弱みを…、お前先程語っていた、姉の身柄を人質に取られ、身動きが取れねぇ。違うか?」

「…っ、……ごめんなさい…、これ以上は…(………あなたを巻き込みたくないの……。)」

「仕事が辛いか辛くないのか、こいつだけはハッキリさせろ。」


貫かれるような鋭い視線が辛い…私は必死に取り繕う笑顔を浮かべる。

「…っ、ヤダなぁ、さっきも言いましたが辛くは無いですよ!ほら!ソルさん、

あなたみたいな素敵なお客様にこうしてめぐり会えたわけですし!
それに…たとえ辛くなっても、今日の出来事思い出せば…私、頑張れますから!」

心配してくれるソルさんに笑顔を向ける。
これは本当の心からの本心だった。

この想い出を一生の宝物にしよう。心から好きと初めて思えた人との一夜限りの幻…。
この先何かあっても今日を思い出せば…私は頑張っていける。
そう心から思い、だから安心してくださいとソルさんにそう伝えれば。
頭をかき、眉間に皺を寄せて、苦渋の表情で私のいるリビングの方に近付き、

思わず後退る私の身体を掴み、引き寄せ強く抱き締められて、おもわず身構えてしまう。

「えっ!?…あ、あのっ!?」

「…気に入らねぇ…気に入らねんだよっ!!…何か大丈夫だ!?なにが頑張れるだっ!?
…俺の目の前で、テメェ自身の望みを誤魔化してんじゃねぇよ! !!」

何も言う事ができなくて、ひたすらごめんなさいと首を振る事しか出来ない私の身体を

ソルさんは強く抱きしめて決して離してくれない。

…でも、望みを言う事なんてとてもじゃないけど出来なくて、心が苦しくなる。

あなたをこっちに巻き込む訳にはいかない。

押し黙る私を見かねて、舌打ちをするソルさんの態度に、これで良かったのだと自分に言い聞かせる。
言い訳はしない。何も言わない。また明日から、いつもの日々が始まるだけ…。

そう自分に言い聞かせる。



急な身体の浮遊感に、うわわわと慌ててソルさんの肩にしがみついた。

ベッドのシーツのまま身体を持ち上げられ、そのまま寝室の方に運ばれる。

先程、散々まぐわっていた形跡でシーツが乱れているベッドにもう一度押し倒されて覆いかぶされた。

「え?…っえ!?そ、ソルさん…!?」

今日の朝には此処を発たなくちゃならなくて、まだ日は開けてないけど、

夜明けに差し掛かっていたからか、私は慌ててしまう。

「ま、待ってくださっ!?あ、あの…っ!?」

「まだ、慌てる時間じゃねぇだろうが。」

「だ、だめ!わ、私っ…あなたとだと……、またきっと……おかしくなっちゃう…!!だから…っ!!」

必死に訴える私の顔にその大きな手を添えられて、私の唇を親指で押されながら、
「そいつは上等じゃねぇか。」と一言発したソルさんの口元は口角が上がっていて…。

顎を上げられ、唇が触れるだけの口付に、好きな人に求められる嬉しさと、

これ以上はダメだと…!仕事が出来なくなると自覚した苦しさで、心がせめぎ合って、涙が溢れてしまう。

「…チッ、」

「…ご、ごめんなさい…。」

涙を親指で拭われて、私の身体がぎゅっと抱きしめられた。
シーツが剥がされて裸の私と、下はスウェットを履いているけど、上は素肌のソルさんの姿。

好きな人となら、肌と肌がこうして重なるだけで、なんで…こんなに、気持ちがいいの?
もっと触れていたくて、より密着する為にソルさんの太腿を跨いで、腰を下ろし、そのままぎゅっと此方から抱き締める。

ちょっとした出来心が生まれて、胸板に自身の頬を擦りつけ、

その凸凹がハッキリしている腹筋がかなり気になって、無意識にスリスリしていたら…
私のおしり近くの股の所に、布越しで何やら硬いものを感じて、ソルさんのお顔を見れば、

バツの悪そうな顔をして反らされる。

「…ご、ごめんなさいっ!…あ、えっと、…。わ、私…つい…ただ抱き締めて貰えたの嬉しくって……そ、その…っ…。」

かなり落ち着かなくて、いつもの手癖である、

人差し指でグリグリと円を描く仕草をソルさんの胸板でやってしまっていれば…

「…ッ…一度拒否したんだろうがっ、だったら、煽ってんじゃねぇ!」

強く手を掴まれ、ベッドにもう一度押し倒される。

「…そ、ソルさんっ!?待っ、待ってくださ…っ!!あ、煽りっ!?そ、そんな事っ!?」

「……っ、安心しろ…、手短に終わらせてやる…。…お前のせいで、余裕を随分削り取られちまったからな…。」











◇◇◇◇◇



壁に手を付かせられ、足元は不安定なスプリングで揺れているベッドの上。
後ろから腰を掴まれて、バックでソルさんの熱が私の中に挿入された時、歓喜と快感でぶるると背中に何かが走った。

少し動くだけで、ベッドのせいなのか、中が面白いようにうなって、ひたすら壁に頭をこすりつけて、

気持ちいい…っ!気持ちいい…んれすう!!!とうわ言のように呟いてしまう。

「んん、んんっあああっ!!っ、らめぇっ、らめ…っ!!

後ろって…!こ、こんなにっ、おくっ、おくに届いてっ!?おくにぃいい!!!
ベッドっが、…不安定なんれ…す…!!揺れちゃ…!揺らしちゃ…らめ…っ……んん、あっあー!!!」

「…っ、エルフェルトっ!結局テメェの中、準備万端なんじゃねぇかっ!!

…っ、締め付けで…持っていかれるだろうがっ!!」

「ソルしゃ、…っ、ソルさんっ!!…っダメぇええ!!…も、もう…私っ…イッちゃいますぅうっ!?

…やだっ、らめぇなの!!そんな早くなんてっ、そんなの!?プロ失格っれすぅうう!?…んんああああーっ!!!」

「ッ…そんなしょうもねえプライド、俺がへし折ってやるッ…覚悟しろっ!!!」

「…か、勘弁してくらさいっ!!だめっ、らめぇ!?…ま、待ってくらさっ…んんぁあああーーー!!!」














◇◇◇◇◇



夜明けから朝にかけてイッてもイッても幾度となく激しく抱かれて、意識が朦朧としながら目を開ければ、
私の身体をぎゅっと抱きしめて眠るソルさんの顔が近くにあった。

けして離さまいと腕を腰に回されて、私は胸が締め付けられる。



……私が…普通の女の子だったら……。

そんな考えが脳裏によぎって、ソルさんの腕の中で、起こさないように静かに涙を流した。

ソルさんの腕の中は心地がとても良いけれど、

 

私…もう行かなくちゃ…。

他のお客様も、エスコートガールと離れ難くて、
こうやって抱きしめて眠る方が居るからか、その腕を抜け出す事は容易かった。


…ソルさん、ありがとう…。

自分にも他人にも嘘つきな私だけど…、

貴方が好きです。

その気持ちは本当です…。

だから、ごめんなさい。


深く眠る目の前の愛しい人に軽く触れるキスをした。

 

それは永遠の別れの誓いだった。



私は、早々と自分の荷物を纏めて、彼のマンションの玄関の扉に手をかける。

さようなら。そう心で呟きながら…。


 

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