

DORAGON
DOES
HISUTMOST
TO HUNT
RABBITS
D
oragon
rabbits
&
R
根無し草を見つけた少年。
-if it's so-
R-18
「エル、君変わったね。」
前から良くして下さるリピーター様と、私のお仕事である夜の旺盛が終わった後、
ベッドの上で、下着を身につけていた時に、そう声をかけられた。
「え?そんな事…ないですよ?」
「いや、初めて僕が君を指名してから、僕達…なんだかんだ長い付き合いだろ?…今までの君、“中イキ”しなかったじゃないか。
…恋人が出来たんじゃないかと思ってさ。」
「そんなぁ!…たまたまですってばー!こっ、恋人なんて…居ませんし…」
つい、しどろもどろになって声を上擦らせてしまい、慌てて顔を逸らしたら、思いっきり噴き出されてしまった。
「ぶはっ…!君は相変わらず嘘がヘタクソだね。エスコートガールで君みたいに此処まで素直な子は珍しくて、
君の事気に入って指名させて貰ってたが、中には君の事をガチで狙ってる奴も居る。今後気をつけた方がいい。」
「いや、ですから恋人はっ!?」
「なら、好きな奴でも出来たのかい?それなら納得だ。」
「違いますって!!」
「まあ、何にせよ安心していい。僕はそんな些細な事で君の指名を切るなんて事はしない主義なのさ。
…はい、これは今回の君の働き分の報酬だよ。エル、また近い内に会おう。」
◇◇◇◇◇
リピーター様のマンションのエントランスを抜けて扉を開ける…。
私…、そんなに変わってしまったの???
何時もなら、仕事として割り切ってるリピーター様達のお仕事はどんな事をしたのかとか、
どんなプレイが好みとか把握しながらしているのに、最近は、途中から、すっぽり記憶が飛んでいる時があって…。
オーラルまではきちんと記憶があるの。
いざ挿入になった後、途中から、気持ち良くなりすぎてよくわからなくなって…。
でも、お客様によって、飛んじゃう人とそうじゃない人と様々だけど…………。
あ……!!
やだ…っ!私…っ!!
奥…、最奥突かれると、もう…それだけで記憶飛んじゃうっ…!!
それって、それって…っ!!!
考え事し過ぎてぼーっとして歩いていたら、足元に誰かとぶつかった。
「きゃっ!?」「うわっ!!」
「ったく、何ぼーっとしてんだよ!」と尻餅をついて文句を言っているのは、金髪碧眼の男の子。
白い半ズボンと靴下。ブランド物のシャツを着ていて、一目で良い所の子だと判る。
世の中で流行っている“ちまき”っていうキャラクターのぬいぐるみを掴んで
「余所見して歩くとか、マジデンジャラスだぜ!」と文句を言いながらぬいぐるみの埃を払っていた。
愛らしい見た目と反して随分お口が悪くて、私は戸惑ってつい謝り倒してしまう。
「ご、ごめんなさい…!」
「…いや、もういいよ。オレも見境なく走ってたしさ。」
「でもっ、君の膝…擦りむいてるし、それに、そのぬいぐるみも破けちゃって…」
「膝は唾つけときゃ治るだろ?こいつに関してもさ、いつか形あるもんは壊れるってオヤジがよく言ってたから気にすんなよ。」
「ダメっ!!バイ菌が入ったらどーするのっ!?それに、そのぬいぐるみも君が大事にしていたものでしょう!?弁償させて?」
「ええ!?大袈裟だなー!?でも弁償はいいよ。だってそれって、もう“こいつ”じゃなくなるって事だろ?
それにこいつも、この傷でより漢としてハクが付いたっつうか、ほら!寧ろカッコ良くなったんじゃね?」
そう言って、目の前の男の子は、ぬいぐるみの破けた場所を私に見せてくれた。
私はその男の子のポジティブな考え方に思わず笑ってしまう。でもこのままだと、すぐぬいぐるみがボロボロになっちゃうかも…。
「あ!だったら、私に良い考えがあるの!」
◇◇◇◇◇
「なんだここ!?スッゲェ部屋!!なんか、いかにも女の子の部屋って感じがするぜ…。」
「もう!女の子なの!!…シン、君は此処に座って?」
私の言葉掛けに、何故か少しだけソワソワしている先程ぶつかってしまった男の子、
シンはおずおずと、私から差し出されたチェアに座った。
私は自分の寝室のウォークインクローゼットの奥から、裁縫道具と薬箱を出して、彼の座るテーブルに向かう。
「膝見せて?」
「うん。」
先程あんなに元気だったのに、しおらしくなってるシンの前に屈み、私は消毒薬をコットンに含ませ、
彼の擦りむいた傷をトントンと叩いていく。
その際、とある場所に視線を感じて上を向いたら、あからさまに慌てて顔を背けられたから、
私は思わず自分の胸元を見てしまう。
あ、私…仕事帰りで、お客様受けの良い格好してたままだったんだ!
心の声で、幼気な男の子に変なモノ見せつけちゃってごめんなさい!と呟き、絆創膏を薬箱から出して、
シンの膝小僧にペタっと貼った。
「次はこの子の治療だね!」
そうシンに声かけしたら、彼は「…おう。」と小さく返事をしただけだった。
シンから預かった彼の“相棒”と向き合う。
銀色の針を一本取り、白い糸を針穴に入れていく。
なかなか入らなくて、糸の先がボソボソになって、思わず口に含み、舐め、唇でまとめ、
やっと糸を通して破れた箇所をチクチクと縫っていく…。
そんな私の行動を、シンは瞬きもせずに見つめていて、私は、若干戸惑ってしまう。
「ど、どうしたの?そんなに見つめて…。」
「…いや、なんつーか…エルは母さんとは違うんだな。って思ってさ…。
母さんもよくこうして、オレの破いた服とか破けた“コイツ”縫ってくれるけどさ、なんか…こんな、変な気持ちにならないっつうか…。
さっきから、この部屋めっちゃ良い匂いだし…。ソワソワして、居心地悪いっつうか…。」
「ふふ、そっかぁ。それってきっと、シンにとって私は、君のお母さん以外に初めて身近に感じた異性って事だよね?」
「…なんだよ、それ。」
「大丈夫、君がもう少し大きくなったら、判る事だよ。」
「なーんか、スッゲェ子供扱いされてね?」
「そんな事もあるかな?…でも、シンは将来絶対素敵な男の子になるよ!…ほら直った!はい!これからも“相棒”と仲良くね!」
もう遅いからと、シンを自宅に送ろうとしたら、
「いや、今日は“オヤジ”んとこ行くから、此処まででいいよ」との事で、近くの駅まで見送る。
「“オヤジ”んとこ?お母さんとお父さんは一緒に住んでいないの?」
「あー、オヤジは、いわゆる…オレの爺ちゃんなんだ。オレ、只今絶賛反抗期ってやつでさ、
母さんはともかく…今はあいつとは会いたくねーんだ。」
「あいつ…?…お父さんの事?」
「…………………。あんなやつ、なんで俺の父さんなんだろうな…。」
「シン…。」
「ごめん、変な話聞かせちまった。」
「ううん。」
「エルは一人で大丈夫なのか?」
「うふふ、ありがとう。でも、私は君より10以上も年上なんだよ?君は何も心配しなくていいんだよ。ね?」
「えー???そうかぁ???なーんか、エルは年上って感じしないんだよなぁ!隙だらけだし?鈍感だし?」
「え?どうゆう事!?」
「そんな格好で街歩いててさ、なんか…心配なるだろ…」
「こ、これはね??その…??深い理由があって…!」
「エルは可愛いからさ。別にそんな格好しなくたってモテると思うぜ?」
「へっ!?」
「……じゃあ、また会おうぜ!!」
「シン!?………えええええええええ!?!?」
私はシンの言葉に戸惑って、思いっきり、その場で叫んでしまっていた…。
◇◇◇◇◇
「オヤジィ!!遊びに来たぜ!!!」
「…何が遊びに来ただ。シン…テメェ、また家出か。」
「母さんには許可取ったんだ。家出じゃねぇ!!!オヤジだって知ってんだろ?」
「……ったく、まあいい。で?こんな時間までどこほっつき歩いてたんだテメェは。その“母さん”が、心配しただろうが。」
「あっ!?そ、それは…アレだよ!!!男の秘密って奴だ……アデッ!!!?何すんだよ!!!」
「あ゛!?今なんつったっ!?」
「オヤジだって!オレや母さんに隠し事あるじゃんか!!オレだって、そりゃあ隠し事の一つや二つ……イッテエエエエ!!!?」
「変な事宣う口はコイツか…?あ゛???」
「ちょ、まっ…待っ!!?わかった!!言う!!言うからっ!!」
「成程な。またテメェの不注意か。ったく。」
「いや、オレも悪かったけどさ、向こうもぼーっとしてたから、この場合、お互い様っつうか。」
「ちゃんと礼は言ったのか?」
「言った。でも、気にしなくて良いってさ。」
「テメェの不注意で破けたモンわざわざ縫ってくれたんだろうが、後からディズィーにも伝えろ。いいな?」
「ああ、わかった。…………オヤジ?」
「…テメェ…随分、女モンの香水まとって来やがったな…?…しかもコイツは……。
…おい、シン。お前を助けた女は、どんな奴だ?」
「……なんで、オヤジがそんな事知りたがるんだよ。」
「ああ?…念の為だ。」
「……………やだよ。なんか…オヤジには知られたくないっつうか……。」
「あ?…なんか言ったか?」
「……いや、なんでもねぇよ。てか、後から母さん通して、お礼すればオヤジも文句無いだろ?
てか、マジ腹減ったぜ!!!オヤジ!早くメシにしようぜ?」
◇◇◇◇◇
シンと別れてから数日後の仕事から帰宅した後、ポストに一通の手紙が入っていて、宛先は不明で、
私は訝しく思いながら、その封書を開けた。
『この度は息子が大変お世話になりました。お礼をさせて頂きたいです。
大変お手数おかけしますが、○月○日貴女様のご自宅前にて、お迎えに上がります。』との内容に、私は一人、その場で固まってしまう。
え、えっとぉ…やっぱりシンって、良いところのお坊ちゃんだったんだなぁ…。
あんなお口悪くて、背伸びしてて…でも優しくて、あと、ちょっとおませさんだったけど…。
お、お礼…お礼…される程の事ではっ!?!?
お迎えっ!?わざわざお迎えに来てくれるの!?
さ、流石にこれは、気持ちだけ頂いて、お断り…させて頂きたいです…。
こんな時、自身が今している仕事が誇れなくて、堂々と出来ない自分に気づいて、胸が締め付けられてしまう。
『気に入らねぇ…気に入らねんだよっ!!…何か大丈夫だ!?なにが頑張れるだっ!?
…俺の目の前で、テメェ自身の望みを誤魔化してんじゃねぇよ! !!』
ソルさん……。
こんな時…貴方の言葉ばっかり
思い出しちゃうなぁ。
私の頬は、静かに涙を流していた…。
◇◇◇◇◇
シンの両親が私にお礼をしたいとかかれた手紙の当日…。
私は、自分が持ってる最大限に清楚な格好を選んで、彼らの到着を待っていた。
でも、どうして、シンのご両親は私の住んでる場所が判ったのだろう?
シンが覚えていた可能性が一番だけど、それにしても手紙まで届ける程だもの。
ちょっと怖い憶測をしてしまって、ううん!!大丈夫!大丈夫だからエルフェルトっ!!と気合いを入れる。
暫く道を見つめていたら、今主流の法力高級車が、此方に向かって走ってくる。
案の定、私の目の前に止まり、運転席から金髪碧眼長身、白いスーツ姿を身に付けた見た目30代前半の美麗な男性。
私を見つめて丁寧にお礼をした後、助手席に回り、当然のように扉を開け始めた。
そこから出てきたのは、長い綺麗なレッドブロンドを左右にまとめた美女。
先程の金髪碧眼の男性にエスコートされて、助手席から立ち上がる。
私と目が合うと、ニコリと慎ましく笑って、私は思わずドギマギしてしまう。
………え???え!?
わ、私っ…なんか…とんでもない方達と知り合ってしまったんじゃ…????
「はじめまして、エルフェルトさん。この度は、私達の息子がお世話になりました。
私はあの子の父であるカイ=キスクと申します。隣が妻のディズィーです。」
「はじめまして、エルフェルトさん。只今紹介に預かりましたディズィー=キスクと申します。
本日は、お時間をご用意してくださってありがとうございます。
シンから貴女のお話を聞いて、心からお礼を申したくて…こんな個人情報を詮索するような真似をしてごめんなさい。
本当はこの場にあの子、シンも連れて来たかったのですけど…。あの子は事情がありまして。とりあえず私達だけでもお礼出来ればと…。」
「あっ!!いえいえ!!わっ、私の事はお構いなく!!」
「あの子が、自宅から帰った後、シンはずっと貴女のお話ばかりだったんですよ。
転んだ傷を心配して消毒してくれたり、“相棒”を助けてくれた。って…。」
「いえ…!私が少し考え事してしまってて、不注意で息子さんを怪我させちゃったので…!だから、私こそごめんなさい!」
「いえ…多分、シン、あの子の事だ。元気盛りなのはいいが、不注意が過ぎるからな。寧ろ貴女に大事が無くて良かった。」
「いえ、そんな…!」
「エルフェルトさん、貴方が良かったらですが、今から息子と会っては頂けないだろうか?
今の私は息子との折り合いが悪くその場には立ち会えないが、今から妻の実家に妻を送り届けて行くつもりです。
その実家には私の息子と、私の義父…シンの祖父が住んでるのですが。」
「ご、ごめんなさい…。私…これから、ちょっと仕事で…」
私はいかにもな断りの常套句を汗ダラダラ答えていく…。嘘はっ、嘘は言ってないから!!!
かっ、勘弁してくださいぃいいい!!!!
「そうでしたか。それは失礼しました。でしたら後日、貴女の不都合の無い時間でもかまいませんよ!?
貴女のオフの日を教えて頂けませんか!?」
笑顔を絶やさず優しい物腰でゴリゴリと押してくるシンのお父さんに、
私は、これは…逃がれられないっ!?と絶望的になり、思わず…近いオフの日を教えてしまったのだった…。
◇◇◇◇◇
シンと会って欲しいと約束をしてしまったオフの日の当日…
私は、TPOに合うような白い胸のしまったブラウスと膝下のロングスカートといういでたちで、
カイさんとディズィーさんのお迎えを待っていた。
「おはようございます。エルフェルトさん。本日、宜しくお願いします。」
運転席から降りて挨拶をしてきたカイさんは、オフの日のラフな格好なのか、
水色のYシャツと白いパンツといういでたちで、いかにも休日のお父さんって感じなんだけど、
カイさん自身が美形過ぎてそれすらも何か洗練されたファッションのように見えてしまう。
車から後部座席の扉を開けて、私に乗るように促して下さって、尚且つ!私の手を取ってエスコートしてくださって!!
…こ、これがっ…!噂のっ!!レディーファースト!?紳士の嗜みっ!?って先程から目から鱗が落ちてばっかりだった。
車に乗り込んだ後、ディズィーさんに「おはようございます。夫が無理を言ってしまってすみません…。
と申し訳無さそうに謝られて、「いえいえ!気にしないで下さい!」と、つい謝り合ってしまう。
カイさんが運転席に乗り込み、「それでは出発しましょうか。」との声掛けに、
私は…「宜しくお願いします。」と笑顔で呟いた。
◇◇◇◇◇
車は約10分もかからずその場所に着いた…。着いたのだけど……私は冷や汗を拭いきれなくて、
完全に顔色は動揺しっぱなしだった。
「エルフェルトさん?どうかしましたか?」
「あっ!?いえいえ!ナッ…ナンデモナイデス!!!」
こっ、この景色…この…マンション…マンションはっ………!?!?
個人的な所でひたすら動揺している私に気づいて気遣って下さったのか、
これからお邪魔するお宅の情報をカイさんは色々と語ってくれる。
「シンは兎も角、私の義父とは初対面でしたね。…大丈夫ですよ。外見は確かに強面ですが、中身は気の良い奴です。
…ま、物臭で口数が少ないのか難儀てすが…。アイツが貴女に変につっかかってきましたら、
ディズィーがフォローしますから安心して下さい。…ま、アイツはディズィーには滅法弱いので、何て事は無いと思いますが。」
強面で口数少なくて、でも…中身は気の良い……。
そ、それって…それって!?!?
『俺には、もうとっくに嫁に出ていった娘とそいつが産んだ8歳の孫がいる。』
まっ…ま、まさか…!!!まさかね…!?
カイさんの祖父さんの語る内容に、嫌な予感がして、私はひたすら空笑いしっぱなしだった…。
◇◇◇◇◇
カイさんの運転する法力車は、やっぱり、予測通りのマンションの地下パーキングに吸い込まれて、
エレベーター前の指定の場所に止まった。
流石高級マンションなのか、地下パーキングのにもかかわらず、コンシェルジュの人がわざわざ車の扉を開けてくれて、
私とディズィーさんはコンシェルジュの方に案内されてマンションのエレベーターに乗り込んだ。
カイさんは、車越しに手を降った後、そのままパーキングから出て行ってしまった。
カイさんは来ないんですね?とディズィーさんに伺えば、シンとの事がありますから。
でも、きっと二人とも分かり合えますから大丈夫ですよ。と語ってくれる。
「エルフェルトさん。大丈夫です。今日は私が責任持って貴女には何も不快な想いをさせないように勤めますから。」
私の余りの緊張感にディズィーさんが優しく語りかけてくれた。
「いや、あの、な、なんか…ごめんなさい!」
違うんです!!私の勝手な所での緊張感なんですっ!!!なんて、言える訳もなく。
よくよくディズィーさんのお顔を拝見すれば、髪の色といい、どことなく…“アリアさん”の面影をかすめて、
私の冷や汗は最高潮に達していた。
逃げる!?逃げたいいぃいいい!!!でもおおぉお逃げられないっ!!!!
そんな私の葛藤を煽るように、前に止まった階にエレベーターは止まり、
ディズィーさんはどんどん、私が前に通ったマンションの廊下を進んで行き…。
例の扉の前で立ち止まる。
その綺麗に手入れされている指先が、ドアノブを叩き始め、扉を開けた先には、
もう二度と逢う事なんてしないと覚悟を決めた、その人が存在していた。
◇◇◇◇◇
その人、ソルさんが、扉を開けた瞬間、ディズィーさんの隣に居る私を見かけて、
一種固まり、「お前…エルフェ……!?」と私の名前を呼ぼうとして、飲み込んだのを見て、私も肩をびくつかせてしまった。
「お父さん、お久しぶりです。…ほら、彼女が例の方なんですよ。シンは奥ですか?」
「……シンの奴、昨晩よっぽど寝付けねぇで、限界来て寝こけてやがる。中入るか?」
ソルさんが私をあまりにも優しく見つめてそう語るからか、思わず目を白黒させてしまう。
「エルフェルトさん、さぁどうぞ。」
ディズィーさんが私の手を引き、中へ案内してくれる。
玄関から廊下を通りリビングの扉をくぐる。
私が前に一度座った事がある黒皮のソファーの上で、彼の相棒である“ちまき”を抱き締めてスヤスヤと眠るシンの姿がそこにはあった。
「シンはよっぽど今日が楽しみで仕方がなかったのね…。」
そう言って、ソルさんから渡されたタオルケットを上にかけられたシンをディズィーさんは優しく撫でていく。
その親子の姿に、私はちょっとだけ…胸が締め付けられてしまった。
“お母さん”って…本来はこんなに暖かくて…優しいものだよね…。
私のそんな姿をソルさんが見つめていたらしくて、ふと、視線が合ってしまって、私は慌ててシンの方に視線を戻した。
「シン、ほら…起きて…?エルフェルトさんが遊びに来てくれたのよ?」
「…ん…エル…?」
「シン…また会えたね…?」
そう語って、顔を覗き込んだら、シンがいきなり私に飛び付いて来て、それを慌てて受け止めた。
「エル!!」
「もう…シン!まだ挨拶もしてないでしょう?」
そうシンに諭すディズィーさんに、「大丈夫ですよ!ちょっとびっくりしましたけど、元気そうで良かった!ね!」と
シンを見つめながら語れば「オレはいつでも元気だぜ?」とその見た目の愛らしさとのギャップは相変わらず。
「シンったら、またそんな口調で…」
シンの態度にハラハラしているディズィーさんに、
私は笑顔で「うふふ、シンはもう、この口調だからこそシンって感じがしちゃうなぁ!」と語れば
「俺は何時でもオヤジリスペクトだからな!!」と言い切って、思わず私は吹き出してしまった。
そんな私の態度に、ソルさんが視線で「テメェコノヤロウ」と言ってるように感じて、慌てて視線を逸らす。
それから私は、ソルさん宅のリビングのソファーの上でずっとシンと二人で色々語り合ったり遊んだりしたりしていて、
ディズィーさんはキッチンの方で何かしら準備しに、
ソルさんは、私とシンのやり取りをもう一つのソファーで何かしらの仕事をしながら見つめていて、
偶に目が合って、私は慌てて目を逸らす事を何度かやってしまっていた。
そんな私の様子を何かしら悟ったシンが、私に思い切り抱き付いて、
私の肩越しにソルさんと語り出して、私は思わずどぎまぎしてしまう。
「なんだよオヤジ。エルがあまりに可愛くて羨ましいのかよ?」
シンの言葉に私は余計にびっくりして、居心地悪くなって、内心冷や汗で一杯だった。
そんなシンの方に、ソルさんは「何、ガキが糞生意気な事言ってやがる。10年早ぇんだよ。」と呆れたように溜め息をついている。
「10年か…エルにも同じ事言われたぜ…」
「シッ、シン、それはね…?」
「エル!オレが大人になったら、オヤジよりずーっと美形だしイケメンだぜ!
オヤジは漢としてマジカッケェけどさ、なーんか女子人気ってヤツ?足りねぇ気がすんだよなあ。」
いや、あの…っ!?な、なんて返事しにくい事をぉぉをを!!?
「ハッ…シン、テメェ、顔だけで男選ぶような女なんぞ、ろくなもんじゃねぇぞ。」
「そっ、そうだよ!シン!べ、別に…女の子全員、お顔だけで…好きになる人選んでる訳じゃないんだよ!!」
「エルもそうなのか?」
「ほ、他の子は判らないけど…わ、私は…そう…かなぁ???」
「ふーん?そしたら、エルは、オヤジの事気になるのか?さっきっから、オヤジばっかり見てるからさ。」
「…ええっ!?…そっ、そんな…事……!!!」
ありますっ!!あるからっ!!!勘弁してぇええ!!!
内心涙目で大混乱しそうになってる私を見て、シンがあからさまにふてくされて、
「エルはオヤジがいかにスケベオヤジなのか知らねぇからそんな風に思うんだと思うぜ!?」と凄い爆弾発言しだして、
ソルさんはあからさまに咳き込み、
私はというと、…ごめんなさい!!!それも判ってる…!!!判ってるからぁああああ!!!と心の叫びを大きくしただけ。
「シンっ!!テメェっ!!!?」
「本当の事じゃん!!この前、オヤジんち遊びに来て、何時ものように、部屋隅々まで“相棒”(コイツ)と探検してたんだ。
そしたら、オヤジの寝室のベッドの隅に、母さんが何時もつけてるような真っ赤な女物の下着?
ってヤツ?見つけてさ、でも、母さんがつけてるやつよりも布は少ないしスッケスケだしヒモばっかだし…。
母さんにそれ聞いてみたら、大人の男の人には、色々あるのよ?って言われてさ…。
オレ知ってるぜ!?こんな薄い格好したねーちゃんばっかり載ってる雑誌がオヤジの寝室のクローゼットの奥に何冊か……ムグー!!!」
シンの爆弾発言の嵐にソルさんが耐えられなくなって、慌ててシンのお口を塞ぎ、私はひたすら苦笑いでソルさんにシンの身を預ける。
「離せっ!!オヤジの横暴!!!」と暴れるシンを難なくソルさんはディズィーさんの元に突き出し、
ディズィーさんは、遠くから見ても、笑顔で怒ってらっしゃって、
シンはというと「母さん、ごめん!ごめんなさい!!」とひたすら謝り倒していた…。
その後、おとなしく(しおらしく?)なったシン含めて4人でディズィーさんの作ったご飯をご馳走になった後。
私はお暇させて貰おうとしたら、シンがぐずって私から離れないので、まだ暫くはシンとたわいない話をしたり、
食事の後片付けで手が離せないディズィーさんの代わりにシンの夜の寝るまでの準備とかを付き添わせて貰う。
「エル!!一緒にお風呂入ろうぜ!!」
「シン、君はもう子供じゃ無いんでしょう?子供じゃない人とは、私は一緒にお風呂入らないかな?」
私はにこやかに諭すと、シンは暫く考え込んで、
「今だけオレ子供だぜ!?だから……!」って私にすがりついた瞬間、
シンはソルさんに後ろから思いっきり叩かれて「イッテェエエ!!!」と頭を抱えていた…。
うん…。今のはちょっと…痛そうだったなぁ。
「ったく…このエロガキが。魂胆見え見えな嘘を付くんじゃねぇ。」
「オヤジっ!!離せっ!!」
「テメェは俺と入るんだよ!!!」
「何でエルが居るのに、オヤジと風呂入んなきゃならないんだよっ!!!」
「…そりゃあ、俺の台詞だ。」
「ほら!!オヤジだって、オレよりエルと入りたいんだろ!?やっぱりエロオヤジじゃんか!!!」
「ソイツは否定しないがな。」
途中から聞こえたソルさんの台詞に、私は思わずびっくりして固まってしまった。
…う、うん!!!
もう私は流石にお暇させて貰おう!!!
そう決意した。
「……そうですか、一応父には客間にエルフェルトさん、貴女を泊めれるようにと言われたので、準備をしましたが…。」
「いえ、流石にこれ以上ご迷惑おかけ出来ませんし…。」
「エル!!帰っちゃうのかよ!!!」
「シン…。」
お風呂上がりで可愛いちまき柄のパジャマを身に付けたシンが私に必死に抱き付いてくる…。
「エルフェルト、お前がどうしても帰りたいなら、俺が今から送っててやれるが…。」
お風呂上がりでシンの後ろからついてきたスウェット姿のソルさんは、私の言葉を聞いて、
外出用のライダースジャケットを持ち出し、車か何かしらの鍵を持ち出している。
「い、いえいえいえ!!!そこまでご迷惑は…!!」
「この国は割と物騒だからな。テメェみたいな若い女を夜道にほっぽり出せるか。」
「そうです。貴女一人では帰せません!」
何事も優しく語りかけてくれていたディズィーさんが、今回ばかりは強い口調で私の両手をギュッと握って引き止めてくれて、
私は思わず、その暖かさに涙目になりそうになりながら「もう少し…、此処に居させて貰っても良いですか
…?」
そう、言葉を絞り出していた…。
◇◇◇◇◇◇
「…やっと、あの物騒は寝たのか。」
深く溜息をついてソファーにぐったりと座るソルさんに、私も思わず、自然に苦笑いをしてしまった。
そんな私を改めて真っ直ぐ見つめ直すソルさんに、私は身体をびくつかせてしまう。
「…ったく、何も取って食おうって訳じゃねぇんだ。普通にしてろ。」
「あ、いえ、その…!」
「お父さん、エルフェルトさんを怖がらせないで。」
「そんなつもりはさらさらねぇよ。コイツが勝手にビビってやがるだけだ。」
「で、ディズィー、テメェはどこまでコイツの素性を知ってやがる?テメェの事だ。
只、シンが世話になったってだけの理由で、こんなに“入れ込む”なんてある訳がねぇ。」
「………え!?」
「お父さん…。事には順序ってものがあるでしょう?」
「俺は、まどろっこしいのは嫌いなんだよ。」
「エルフェルトさん、ごめんなさい。騙すつもりは無かったんです。
初めは本当に、只、シンがお世話になったので、お礼を言いたいが為に貴女の事を調べさせて頂きました。
シンからの情報だけでは、貴女にたどり着かなくて、
私の夫に貴女の事を調べて貰ったら…貴女に関して気になる事がちらほらと目に入りました。
その真意を確かめたくて、私達夫婦二人で貴女に会いに行ったんです。…そしたら、貴女は…私の亡き母にとても似てらっしゃって…。
カイさんのからの情報では、貴女は危ない環境下に身を置いて、常に綱渡りなんだと知りました。
同じ女性として、もし私が貴女と同じ産まれで同じ立場なら、
そうとしか生きられない貴女の選択もわかります。でも、貴女はもう一人じゃない。
少なからずあなたは、“遺伝子上”私と繋がっています!
シンとだって、貴女と遺伝子上繋がっているんです!
ですから…もう。自分を傷つけて、一人、生きて行かなくて良いんです…。」
「わ、私っ…私はっ…!!」
「…おい、ディズィー、お前こそ落ち着け。エルフェルトが飲み込めてねぇ。
…エルフェルト、良かったな。今ならよりどりみどりってヤツだぜ。
ディズィーのヤツがお前にやたら入れ込んでるからな、お前の裏家業はコイツの夫がスッパリ斬ってくれるだろ。
それとも、俺が前にお前に提示したように、裏家業から手切れ金積んで事を荒立てなく夜の蝶を卒業するか?
…好きな方を選べ。お前に選ばせてやる。」
「で、でも…私…は…。ラム…ラムを救いださなきゃ…。」
「安心しろ。コイツの夫は己の正義に反するモンは徹底的に潰す過激な野郎でな、お前の素性を知った奴は今、
テメェが産まれた出身地である研究所の素性暴く為のチームを結成して、ドンパチ始めようとしてやがる。」
「…え!?あの…か、カイさんって…一体何者なんです???」
「夫はMBI捜査官なんです。」
「成程……MBIそうさか…………。え゛えええええええ!?!?!?」
「少々荒っぽいのが“坊や”の悪い癖だがな。」
「お父さん、またそんな言い方…カイさんに怒られますよ?」
「アイツは俺に対してはずっとキレてばっかじゃねぇか。」
私が驚き過ぎて開いた口が塞がらないままで居ると、
ディズィーさんが私の顔をじっと見つめてくる…。
「あの…お二人の申し出はとても嬉しくて…でも、ごめんなさい…もう少し考えさせてはくれませんか…?」
「テメェの尊厳を優先させてぇ気持ちもあるんだがな、そんな悠長な事言ってもられねぇ。」
「そうです。今、私の夫が、貴女の産まれた研究所の取締りを強化しようとしています。
言いにくい事ですが、きっとあなたが夜の世界で稼いだ不正金は、その研究所の資金源になっていた筈。
少なからずこの国では、売春は合法ではありません。ですから、取締りが始まれば、エルフェルトさん…貴女も…。」
「ま…そうゆうこった。」
「そんな…!?…私…っ、そんな…つもりじゃ…!?
…只、“お母さん”にそうするように言われて…そうする事が私には一番相応しい…って!!」
「エルフェルトさん!!しっかりしてください!!!どこに、我が子に罪を犯せと教える母親が居ますかっ!?
どこに!!我が子に…っ、身体を売れと言う…母親が居ますかっ!?
私はっ!!!そんな人を…母親と、貴女に呼ばせたくありませんっ!!!」
「わ、私…っ!!!私はっ!!!!…っう、うあぁあああああ!!!」
終始頭が混乱して泣き叫ぶ私の意識を食い止めるように、ディズィーさんが私を強く抱き締めてくれる。
私はとめどなく泣いた後…いつの間にか意識を手放していた…。
◇◇◇◇◇
先程の自身の娘の説得の後、エルフェルトは疲れで意識を失い、その身を抱え、娘が準備してくれた客間にそっとその身を横たえる。
客間を出るすれ違いに、娘がエルフェルトの寝間着を持って入って行く。
その後、娘は自身も寝る準備をしだし、俺は自身の残った仕事やら、カイに今回の経緯の報告やらをし、
何だかんだ時刻は深夜に突入していた。
「お父さん…まだ起きていたのね…?」
「テメェこそ、こんな時間まで珍しいじゃねぇか。」
「なかなか寝付けなくて…。エルフェルトさんが、どうか…自身の幸せを選んでくれるようにって願ってたんです。」
「……お前の荒治療でスタート地点には立たせれただろうよ。」
そうね…そうだといいのに…とか細く呟く娘に、
テメェが無茶苦茶やり出した時は驚いたぜと冷やかせば、お父さんだって、煽ってましたよね?と苦笑いを浮かべる。
「そういえば、…お父さん、一つ貴方に聞きたい事があったんです。
お父さんは、前にエルフェルトさんに会った事があるのでしょう?
今日のエルフェルトさんの態度とお父さんの態度で何となく判りました。」
「…………さぁな。」
「しばっくれてもダメですよ!シンが今日言っていた女性物の下着、私も一度気になって確かめましたが、
あの胸のサイズは女性の平均的からは相当大きくて、でも、アンダーはとても細いんです!
そんな抜群なスタイルの持ち主なんて、そうそう居る訳が無いですし、あの下着はエルフェルトさんの私物ですよね?」
「…………そっ、そんな訳あるか…。」
「今から睡眠中のエルフェルトさんの下着のサイズ…こっそり調べて、
お父さんのベッドのサイドボードの引き出しに隠してある、例の下着と照らし合わせても良いんですよ…?」
「…なっ、何が言いたい…っ。」
「お父さん……貴方、エルフェルトさんと寝ましたね…!?」
「てっ、テメェ…!な、何を根拠に…っ!?」
「 寝 た ん で す よ ね ? 」
「……………………おう。」
「わかりました。娘として、お父さんが買春なんてそんな馬鹿げた事していないと信じてますし、
お父さんはきっと、“エルフェルトさんを本気で愛していたから、エルフェルトさんとの性行為に及んだ”のですよね?そうですよね?」
「…………おう。」
「責任、取ってくれますよね?」
「…………おう。」
「良かった!そうでしたら、お父さんがエルフェルトさんを娶って戸籍を上書きするのが一番手っ取り早い方法だと思いますので、
明日にでも、エルフェルトさんにプロポーズして説き伏せといてくださいね?お願いします。」
「…………………おう。」
「お父さん、おやすみなさい。」
何故か上機嫌な娘の姿を虚ろな目で見送った後、頭痛がして、戸棚からヤケクソ気味に高い酒を出しかっくらい、
そのままソファーで寝落ちし、そこで記憶は途絶えた。
◇◇◇◇◇
夜明けるほんの寸前の時刻…。
なにかしらの毛布がかけられる感覚に薄く目を開ける…。
っつ!!二日酔いかっ…。ひどい頭痛に頭を抱えれば、エルフェルトが俺の顔を心配そうに覗き込んでやがった。
…クソっ、タイミングが悪ぃ時に…。
「ソルさん?…大丈夫ですか?」
「テメェには、これのどこが…大丈夫そうに見えるってんだ…?」
「いえ、ごめんなさい。全く見えないですね…。」
「テメェこそ…随分と早起きじゃねぇか。」
「…あ、それはですね?お手洗いお借りした後、ソルさんがソファーで寝てるの見かけて心配になっちゃって…。
というか、お酒しこたま呑んじゃったんですか?…うわ!!このお酒めちゃくちゃ度数高い奴ばっかりじゃないですかー!?」
「テメェ、酒の種類解るのかよ。」
「ええっと、その…お客様にお酒好きな方多かったから、自然と覚えちゃったんです。
ソルさんはバーボンお好きなんですね?前にお宅にお邪魔させて貰った時も棚にバーボンばっかりあるなぁとか、
ちょっと見させて貰ったりしましたが…。
あ!これは私でも何とか飲める奴です!フォアローゼズブラック!前にプレゼントとして頂いた事あって、
薔薇のロゴとビンの模様が可愛くて…これだけは覚えてました。
でも、ソルさん程の通が呑むにはこれでは物足りないんじゃありませんか?」
「ああ…そいつか。そいつは最近調達したんだ。それこそ、エルフェルト、お前が脳裏によぎってな。」
「え?…私ですか?」
「コイツは呑めるんだろ?少し付き合って貰うぞ。」
「朝からこんな重たいお酒呑むとか、胃がびっくりしちゃいますよ…。」
「お前のは水割りだ、だいぶ薄まってるだろうが。」
「そうは言いますけどね、それでも度数はそこそこありますよ、これ…」
なんだかんだ文句を言いながら、ロックグラスを両手に持ってちびちびと煽る姿。
娘のディズィーが着替えさせた俺の寝巻きのスウェットの上着を着ているからか、折り曲げた所でも袖の裾が長く、
辛うじて出ている指先は余計に華奢に映る。
その姿をぼんやり見ていれば、夜中に娘に言われた言葉を急に思い出し、途端に頭痛が起こり、頭を抱え込めば、
エルフェルトが、ソルさん!?と心配して此方に近付いてくる。
ソファーに身を埋めて肩を丸め頭を抑えてるからか、エルフェルトが身を屈め、俺の顔を覗き込んできやがった。
見事に眼前には、大きく首が開いたスウェットの中のエルフェルトの見事な二つの山がぶらついている…。
……………………流石に下着は身に付けたままだったな。
って、そんな問題じゃねぇ!!!
俺は無言でエルフェルトのスウェットの首を掴み、疑問視しやがる目の前の無防備な生き物に
「その首を閉じろ!見せ付けてんのか!?」と低音で凄めば、案の定慌てて、ご、ごめんなさい!!とそそくさと俺から離れた。
「…ソルさん、その…具合大丈夫ですか?」
「こりゃ具合の問題じゃねぇな…メンタルの問題だぜ……。」
「メンタル??何か深いお悩み事ですか?…お話聞くくらいは出来ますよ?」
守秘義務はお任せ下さい!と笑顔を向けるこの目の前の無自覚に、だったら聞いて貰うか。と深く溜息をついた。
「エルフェルト、お前…今の仕事辞める気は無ぇのかよ?このままズルズル居れば、その内テメェもしょっぴかれるぞ。」
問い掛けに黙り、顔を俯いたかと思いきや、俺が気に食わねえと前に思った、
歪んだ笑顔を浮かべ語り出すエルフェルトに、俺は思わず眉間に皺を寄せる。
「私…判ってたんです…。お母さんが私を道具としか見ていないって事。
私って…ほら!“エッチする事”しか能が無いじゃないですか!でも“コレ”さえ出来れば、色んな人に肯定されましたし、
必要とされましたし…!お母さんだって、私の稼ぎを必要としてくれてますし…。
ですから私がこのお仕事辞めちゃったら…何も残らなくて、誰にも愛されなくなって、私は…またひとりぼっちになっちゃうと思うんです…!」
だから、辞める訳にはいかないと語る目の前の女に、俺は思わず舌打ちをしてしまう。
「テメェがそいつしか取り柄が無ぇと自ら感じるのは、お前の場合はテメェの責任じゃねぇ。テメェの親の責任だ!
そこを履き違えてんじゃねぇ!
いいか。…シンのヤツを思い出してみろ。お前はアイツに対して性的な事なんぞ何もしてないにも関わらずだ、
お前の事を好いて、俺に嫉妬し一丁前に牙を向いてきやがる…。
それでも、テメェは、セックスっていう手段を用いらねぇと自身は誰にも好かれねぇと思うのかよ。」
「でも、シンはまだ子供だもの!!その内きっと…」
「あまり男を舐めんじゃねぇぞ、エルフェルト。確かに今までテメェが出逢ってきた奴らはテメェの性的なモンだけ求めてた奴等ばかりだったんだろうよ。そこは否定しねぇ。…だが、男はそんな糞野郎ばっかじゃねぇぞ!」
「ソルさんはっ!アリアさんが居たから、アリアさんを心から愛しているからそう思えるんですっ!
私…私には…そんな風に想ってくれる人なんてっ…!!」
「クソ…今になって、自身の軽率な行動に嫌気が指してくるぜ…。
テメェを説得するには、あの時テメェを抱いちまったのは間違いだったっつう事をよ…。」
「ソルさんっ!?…嫌ですっ!!!そんな事言わないで下さいっ!!!
私…っ、貴方に否定されたらっ…!!貴方に“抱かれた”事を否定されたらっ…何を、何を支えに生きていけばいいのっ!!!?」
「…やっと本音が出やがったな。」
「…え…?」
「今のテメェの本音は、“他の野郎には抱かれたくねぇ”。そうゆう事だろうが。
お前が本気で今の仕事に誇りを持っているとすればだ、何故“俺に抱かれた記憶の支え”無しに生きていけないってなりやがる。」
「そ、それは…。」
「奇遇じゃねぇか…。俺も…エルフェルト、テメェが他の野郎に“抱かれてる”のは、気に食わねえ。
お前が“あれから”俺の前から消えた後、激しく後悔した。何故俺は、あの時テメェが他の野郎に会いに行く事を判っていたのにだ、
無理矢理にても縛り付けて自室に閉じ込めて置かなかったんだってな…。
お前があの時の俺との行為を“生き甲斐”だと感じるのは何もテメェだけじゃねぇんだよ!!
エルフェルト…何処にも行くな…!俺の側に居ろ!…俺のモノになれッ!」
そう訴え、目の前の女の身体を引き寄せ、強く抱き締める。
好い香りが鼻を擽った。
「そ、そんなの…嘘…、嘘よ…っ!!だって、だってっ!!私は貴方の愛した人のコピーだもの!!!紛い物だものっ!!!」
「……それが何だってんだ。」
そう呟きながら、エルフェルトの唇をそっと自身の親指で撫でて行く。
「………ソル…さん…っ」
「……泣き止め…。お前を慰める為に、また一線越えちまいそうな衝動に駆られちまう…。」
そう視線を逸らし呟けば、涙をこぼしながらもはにかむように笑い、それに一瞬見惚れた瞬間、
エルフェルトから、トンと、呆気なく口付けを施される。
「物足りねぇ…軽くかよ…。」
「…だって、衝動に駆られちゃうんでしょう?」
「だったら、もう一度味見させろ。」
「もう…仕方が無いですね。あと一回だけですからね?」
そう語り、そっと目を閉じて首を傾け、唇を差し出す目の前の愛しいモンに、もう一度そっと自身の唇を重ねようとした瞬間に、
「オヤジぃいいいいい!!!!」という怒涛の叫び声で中断させられ、俺とエルフェルトは慌てて、互いの身を離れた。
朝の騒ぎの後、シンがずっとエルフェルトの胸に抱き付いたまま、肩越しに俺を睨み付け、
ひたすら俺の悪口や文句を投げかけてきやがる。
「オヤジのエロオヤジ!!」「スケベ」「油断も隙も無いぜ!!」
「オヤジはエルとどんだけ歳離れてるんだよ!?それはロリコンってヤツだってオレだって知ってるんだからな!?」
シンからの俺へのヘイトに、エルフェルトが肩を震わせて笑いをこらえてやがる…。
◇◇◇◇◇
「シン、そんな言葉どこから覚えてきたの?」
「昨日も言ったじゃん!オヤジのクローゼットの中のグラビア雑誌ってやつの…!」
「シンっ!!!」
ソルさんの慌てっぷりに、私は好奇心が沸いて、つい問いかけてしまう。
「シン、どんな感じの女の子載ってた?」
「え?…なーんか、エル位のおっぱいがバインバインのねーちゃんの水着姿ばっかだったぜ。
なんか…やたら同じの奴のページばっかり折り曲げてあってさ、
そのねーちゃん、そういえばエルみたいな髪型して……ムゴッ!!?オヤジっ!!なにすんだよっ!!!」
「シン!!遠慮するなっ!!!今からテメェをたっぷりと鍛え上げてやる!!!」
「ちょ!!!オヤジっ!?何でっ!?たんま…たんまっ!!」
ソルさんはやたら大声を張り上げて、シンをむんずと掴みベランダに引っ張ってって、
シンに遠慮なくプロレス技をかけていく姿を遠目で収める。
そ、そっかぁ…、私…もしかして、ソルさんの夜のおかずに…。
私はふと、そんな事を悟って、ニヤニヤしてしまい、恥ずかしくて、頬を両手で塞いで顔を伏せた。
「シン…大丈夫かなぁ?」
「大丈夫ですよ。父はあれでも相当加減してますから…。」
「あ、おはようございます。ディズィーさん。昨日は…その…ありがとうございました。
貴女に言って貰わなかったら、私…また、大切な人をもう一度傷付けてしまう所でした…。」
「…いえ、大切な人というのは、父の事で間違いないでしょうか?」
「…はい。」
「そうですか…。良かった…。」
「えっ!?」
「こんな事言ってしまっては元も子もないのですが、貴女が父と添い遂げて下さるのが、一番法的にも綺麗に収まったりするんです。」
「…えぇ゛っ!?そ、添い遂げ…!?わ、私が…そ、ソルさん…と???」
「ええ。エルフェルトさんが私の父と…ですね。
それとも…エルフェルトさんは、父が結婚相手では、ご不満ですか?
確かに、多少荒っぽく、女性に対してのデリカシーは欠ける所も御座いますが…、経済力は保証します。
貴女を路頭に迷わす事は無いと思います。
あと、そうですね…懸念があるとすれば…一人やもめが長かったせいなのと、父自身の体質的に、
夜の営みは多少貴女に無理を強いてしまうかも…っていう事くらいでしょうか?」
「……へっ!?」
「それとも、…もしや、私が義理の娘になる事に何か不満を感じたり…?」
「そ、そんな事無いですっ!!!むしろ…私…こんなに幸せ過ぎていいのかなって…そんな事ばっかりで…。」
「もしかして…エルフェルトさん。父から結婚の申し出、受けてなかったり…します…?」
「え?…は、はい…。ずっと側に居てくれ、俺のモノになってくれ…とは言われましたが…結婚とは……。
そっ、それとも!?そ、ソルさん的にはっ!!
ずっと側に居てくれや俺のモノになれ=結婚してくれ。っていう意味だったりしますかっ!?!?」
「いえ、エルフェルトさん、落ち着いて下さい。それらの言葉は少なからず結婚してくれ。っていう意味を含ませるには、
かなり無理があると思います。…少々待ってて貰ってもいいでしょうか?」
そう一言私に告げると、シンにジャイアントスイングをひたすらかけまくるソルさんにディズィーさんは近寄り、
何やら引きつった満遍の笑顔でシンをソルさんから取り上げてソルさんに語りかけていた。
そのディズィーさんの表情にシンも思わず固まってしまっている…。
ソルさんはいかにも罰が悪そうな顔で、ベランダからリビングに入ってきて、私の元に近付いてきてくれた。
「…エルフェルト…。」
「な、なんでしょう…??」
「は…話があるんだが…。」
「はっ、はい…。」
◇◇◇◇◇
『私は暫くシンと二人でお父さんの自宅に居ますから、何処か他の場所にデートしに二人で出掛けて来てくださいね。』
そうにこやかに俺達を送り出した娘の笑顔と、その娘に抱きかかえられて、
何も文句言えなくなる程引きつった表情を浮かべていた孫の顔が脳裏に過る。
後ろを付いて来るエルフェルトを確認し、エレベーターに乗り、地下の巨大パーキングに降り立つ。
コンシェルジュに説明をすれば、自身が借りているスペースの入り口の鍵を遠隔操作で難なく開けられた。
留めていたバイクのキーを差し込みエンジンを蒸かす。
女物のヘルメットを物置から取り出し、エルフェルトにかぶせ、自身も特注品であるヘルメットを取り出し装着した。
「乗り方判るか?只、俺の後ろに席に跨がり掴まればいい。乗り心地は保証しねぇがな。」
おずおずと後ろに座る事を戸惑ってやがったエルフェルトに説明をしながら、手を取り、座らせる。
「落ちるぞ、しっかり掴まれ。」と後ろからエルフェルトの両手を掴み、俺の腰を抱き締めるように掴まさせた。
「な、なんか…これって…凄い…恥ずかしいっ!!」
俺にひっついて戸惑っているエルフェルトに
「テメェは他の事に対して羞恥心を働かせろ、もっと恥ずかしがる所は他にあるだろうが。」とつい、呆れてしまう。
「だってっ!!こんなに思いっきり掴まってたら、ソルさんに私っ!!まるで胸押しつけてるみたいになってるじゃないですかっ!!!」
「…まるで特注品のクッションのような夢見心地だぜ。掴んで揉めたら最高なんだがな。…さっさと行くぞ。手ぇ離すんじゃねぇぞッ!!!」