「ラム！ほんとに毎日美味しいご飯ありがとう！」

そう私に笑顔で語りかけるのはこの世でたった一人しか居なくなってしまった血の繋がった家族で妹のエルフェルト。

私は愛称で「エル」って呼んでる。

姉である私から見てもエルは愛らしい。瞳の色はエメラルドグリーンで大きく、桃色の髪は短く切りそろえてある。
エルは髪伸ばしてもきっと似会うはずなのにどうして？と聞けば、ううん！コレが良いの！と何やら含んだ笑顔を浮かべられた。
聞いた当時は何もわからなかったけど、エルが想っている人を知った今なら、
リビングに大事そうに飾られている写真立ての中に写し出された赤い髪を短く切りそろえている

少しエル似の綺麗な女性の姿を見て納得する。

訳があって、今は血のつながりの無い人達に私達はお世話になっている。と言ったならば、
義理の姉であるディズィーに、「私達はもう家族なんだから遠慮しないで？」と言われてしまいそうだ。
私の髪色も瞳の色も何もかも、エルとは似ていない。それにはしっかりとした理由があるのだけど、ややこしくなるから、

今は語らない事にする。

今日はホリデーで珍しく妹のエルと義理の父であるソルが揃っていた。

 

義父は常に忙しく北米中を下手したら常に飛び回ってるし、エルは最近はアルバイトに精を出している。
私はそんな二人を、送り出したり、迎え入れたりの毎日を過ごしながら、大好きな学業に勤しみながら、

二人が居ない時に家事をする毎日を過ごしていた。

お昼ご飯を三人で食べた後、ソルは仕事だといい書斎である自室にさっさと引きこもってしまった。

リビングに残って後片付けを手伝ってくれるエルは、自分では料理出来ないと言ってるけど、ご飯を全く作れない訳じゃない。
私は義理の姉であるディズィーに食事のイロハを徹底的に教え込まれ、知識としてレシピ通りに作っているだけで、

（料理は割と法力の実験と同じで検証と結果の繰り返しだとソルも言っていた。）
エルみたく、誰かを笑顔にしたいからって気持ちは割と無い。（エルにこう言ったらそんなことない！と全力で否定されたけど。）

甘いモノが大好きなエルは、しょっちゅうディズィーの家や自宅でスイーツを作っては、

私や、ディズィーの息子で私達の幼馴染のシンや、シンの父さんでありディズィーの旦那であるカイにお裾分けしている。
エル的には本当はソルに食べてもらいたいんだろうけど、義父は甘いものは苦手らしく、

エルがリビングで作っているだけで苦虫を噛み潰した様な表情をよくしていた。

「今日はビター味のお酒聞かせたフォンダンショコラを、ソルさんが食べれそうな甘さで作ってみたんだけど…、

結局口にして貰えなかったなぁ…。」

しょんぼりしてるエルに、晩御飯なら食べてくれると伝えれば、料理とお菓子作りはまた違うの！！と必死に訴えられる。

「…だって、ご飯なら…ラムの作ったモノの方が美味しいもの…。」

「エルが前に作ってくれたハンバーグ、とても美味しかった。」

「えっ、本当？あの時は、ラムが学校で遅くまで予定ある日で、ソルさんも居なかったから、とりあえず私一人だし、

残り物でいいかなーって適当に作ったものだけど、分量間違ってたくさん作り過ぎちゃって…。

食べきれないから煮込みハンバーグにしちゃえー！って行き当たりばったりだったんだけど…。」

「エルが寝た後、ソルと帰宅重なったから、一緒に晩御飯食べたんだ。…あれはソルも無言で食べてた。最後の一つ取り合いになって、
キッチンの鍋の前でソルと睨み合いしたのを覚えてる。」

「そっか…うふふ！なんだか嬉しいなぁ！でもラムもソルさんも、本当お肉ばっかり好きなんだもの！

お魚とかお野菜もっと食べなきゃ駄目だよ！」

「…野菜は食べてる…。」　

「なんで顔そらすの！？…ラムは可愛いんだから、栄誉バランス良く摂取して美容に気を付けたら女子力最強なのに！」

「そうゆうのはいい。面倒臭い…。」

「ラムってば、最近ソルさんと言動が似てきてる気がするよ。やっぱり、親子なのかなって。」

「？…それは…」

「例え血が繋がってなくても、影響されて似てくるって事もあるでしょう？」

「エルは…全く似てないね…。」

「あはは、それは仕方が無いんだよ。だって、私にとってのソルさんは…。お義父さんである前に…。……ううん、なんでもない！」

「…エル、エルはいつから…ソルに“違う”を感じていたの？」

「…えっ？、…あ、…えっとね…？…それは…、初めて、シンに連れられて、此処の、ソルさんのお家に初めて遊びに来た時から…

…ずっとだよ。その時は、まさかソルさんが私達のお義父さんになるだなんて思いもしなかったんだけどね。

……初めは少し複雑だった。お母さんの事…信じていたかったから。でも、やっぱりだんだん解ってきたの。

お母さんは私達の事、子どもじゃなくて、モルモットとしか見てくれないんだって…。」

「…母さんは間違ってる。今は私達はソルに匿われてる状態で、母さんに何を言っても通じない。

でも、私もエルも大人になればまた母さんと“違う”になれると思う。」

「うん、そうだよね。私達からお母さんを裏切ったんじゃないかってずっと悩んでいたの。でも、ラムの言うとおりだよ…。

諦めなくていいんだよね。

あー！やっぱり早く大人になりたいなぁ！！！大人になれば、お母さんの事もそうだけど…、

もっと綺麗になって、ソルさんに…
“エルフェルト見違えたな。こんな近くにこんなイイ女がいたとはな…”
とかぁ！！！もほぉーー！！！」

「…それはない。」

「ええええーー！？初っ端から全否定っ！？！？」

「ソルがもしエルに対してそんな考えに至ったとしても、ソルの事だ。けして口に出しては言わない。」

「もう！ラムったら！そんな事はわかってるの！！ソルさんがそんな風に私を思ってくれないって事ぐらい！

でも妄想だけなら自由でしょう！？」

「…そんな事は……、…いや、なんでもない…。」

「？…ラム？？」

一種キョトンとした表情を浮かべて、また笑顔でそれでね？と語り出す妹の言葉を聞きながら、

 

ちょっと前に起こったある出来事を思い出していた…。




少し肌寒くなった夏の終わりかけの頃、

エルがアルバイト帰りに相当疲れ果ててたのか、ご飯も食べずにリビングのソファーで寝入ってしまい、

私はエルの部屋から上掛けを持ってきてエルの身体にかけておいた。
そのちょっとした後、ソルが仕事から帰宅し、リビングで寝入っているエルの姿に、呆れて溜息をつく。

ここまではいつもの見慣れた姿で、私はソルに、エルをどうする？部屋に運ぶ？と聞けば、
ほっとけ、その内起きるだろと言い切った。ソルの放任主義は相変わらずだ。

私が用意した晩御飯を食べ終わり、ソルは酒棚から、いつもなら飲まないであろうちょっと高いウイスキーの瓶とウイスキーグラス片手にエルが眠っていたソファーの方に近づいていく。
氷は入る？と聞けば、いらねぇと素っ気なく返事をし、寝入っているエルの頭の近くのソファーにドカッと座るソルの姿。

エルの事など気にせずにウイスキーを嗜む姿に、ただ、そこに座ったのはそこが指定席だからかと思い至り、

私は気にせず自室に引き上げる。

暫くして私は寝る準備を済まし、顔を洗おうとキッチン近くのアメニティスペースに足を運ぶ為にリビングに通りかかれば、

まだソファーで寝入っているエルの頭を撫で、髪を梳き、おでこにかかる髪を優しく払い、エルの寝入った表情に視線を向けながら…

満足そうにウイスキーを嗜んているソルの姿。

その時は、そうゆうものかと思ったけれど、ソルがやたらエルに対して厳しいのを見ていると、

ソルも、エルに対して何かしらの“違う”を感じているのではないか？そんな事をふと思う。

この事をエルに伝えてしまえば、きっとエルの事だ、ソルに問い詰めて面倒な事になる。

またエルに泣き付かれて愚痴られて時間を消費するのは勘弁して貰いたい。そんな事を思いながら、

目の前の笑顔のエルに意識を向けた。

「もう！ラム！聞いてるのっ！？」

ちょっと拗ねるエルにごめんと伝え、ふいに視覚に入ったエルのはねた前髪を触れ、頭を撫でてみる。

「…ラム？急にどうしたの？」

頭を撫でられてくすぐったそうに首を傾けてにこにこ嬉しそうに笑う妹は、綺麗とかじゃないけど愛らしいと感じる。
 

いつか、エルの気持ちがソルに通じればいい。

ふとそんな事を思った。

それはまだまだ先の事だとは思うけれど。

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